出会いそして襲来
俺の名前はディベル。
グロリエ皇国第二騎士団第三隊の隊長だ。
俺は今、門番として門の前で立っているわけだが本来、門番を務めるのは俺ではない。
まだまだ時間はあるわけだし経緯を説明しておこうか・・
俺が門番をやることになった原因は2日前の騎士団会議にある。
その会議は各騎士団団長及び、団長から指名があった部隊の隊長が参加することになっていた。
その会議の進行を務めるのはグロリエ皇国の「最強」の名を欲しいままにする「魔姫」アイシーだ。
彼女は第一騎士団の団長で未来視を持っている。
議題はなんとびっくり、「破壊神対処及び聖女の保護」だった。
数年前から始まっているヴァニタスの襲撃は破壊神の封印が弱まっているのが原因らしい。
なんとも壮大な話だ。
破壊神というだけでもびっくりなのに、その破壊神を封印したという聖女の特性を持つ人物も近頃現れるという。
その聖女が現れるのが第一関門の前で、念の為第二騎士団、第四騎士団から各一名が派遣されたわけだ。
俺は団長直々の指名で行かざるを得なかった。
そういうわけで門番としているわけだ。
足音が近づいてくる。
多分、第四騎士団から派遣された誰かだろう。
「あっ!第二騎士団からはディベルさんなんですね!団長から直々の指名ですから頑張りましょう!」
やってきたのはダンだった。彼とは訓練所でもしばしば戦うことがある。適任だろう。
「ダンさん!よろしくお願いします!そうですね!」
門番の二人が集まって数時間経つわけだが何も起こらない。
退屈に感じ始めていた時、それは突然起こった。
前方の景色がひび割れる。
そこから傷だらけの少女が出てきた。
「た・・す・け・・て・・」
それだけ言って前屈みに倒れる少女。
俺は全速力で駆け寄る。
脈を確認したところあるにはあるがかなり危険な状況だ。
これは第三騎士団を呼ばないとまずい・・。
「ダンさん!第3騎士団に連絡を!」
ダンは少女の様子が視界に入るや否やすぐに駆け出していった。
少女を抱えて門へ近づいていると突然浮遊感を感じた。
「どうして人間までいるのだ?」
魔法か何かの空間に閉じ込められたようだ。
声の方を振り返ると漆黒の鎧を纏った何かがいた。
視界に入れただけでもわかる圧倒的な強さ。
やばいとかそういう話じゃない。
声が震える。
「・・お・前は・誰だ・・?」
漆黒の鎧が近づいてくる。
「ふむ、私か?冥土の土産に教えてやろう。私は神将ガラハッド。偉大なる破壊神ムート様の僕である。」
より一層存在感が増した。
次元が違う。だが、このままでは殺される。どうすれば・・
そんなことを考えている間にもガラハッドがやってくる。
「お前は・・。なるほどな。武器を持て。剣士として葬ってやろう。」
ひとりでに何かを納得しそう提案してくる。考えようにもこの提案になるほかない。どうせ死ぬならこいつに一泡吹かせてやりたい。
ディベルはその少女をそっと置き、背中の剣に手をかける。
「ただで死んでやるつもりはないぜ!」
震えを抑えガラハッドに立ち向かう。
「期待しているぞ!」
ガラハッドとディベルが剣を構え相対する。
先手を取ったのはディベルだった。
「身体強化!!」
「光輝剣!!」
ディベルの身体能力が数段階上がり、剣が光のオーラに包まれる。
上段構えの防御を捨てた速度重視の剣。
ディベルは一撃に賭けた。
「くらえぇぇ!!」
ガキンっ
ディベルの剣とガラハッドの剣が交錯する。均衡を保てたのは束の間。
「ふむ。軽いな。」
ガラハッドはディベルの全力最速の剣を片手で受け止め押し返す。剣の勢いを抑えきれずディベルは体制を崩してしまう。
おいおい、嘘だろ・・
隙すらも作れないのか・・
ガラハッドはディベルと同じ構えをとる。
「剣の振り方はこうするのだ。」
ディベルの目の前に突然現れる。
こいつ、身体強化なしでこれかよ・・・
防御が間に合わない。
「獄門刀!」
左手に魔力を集中させ、威力の減衰を図るも虚しく切断される。
「グフッ・・・」
両断はされなかったものの、その剣は心臓に到達し、全身から温もりが消え始める。
クソっっ、こんなところで終わりたくねえ・・
ディベルの意識が完全に失われようとしたその時、少女の声が響いた。
「完全回復!!」
「不可侵領域!!」
ディベルの体が急速に再生されると同時に、ガラハッドとディベルの間に壁が作られる。
「目を覚ましたか・・少々時間をかけすぎたようだ。」
少女の方を一瞥して光の壁から飛び退いた。
「わたしはリリルテです!どなたか存じませんがありがとうございます!ただ、この結界も長くは持ちません。」
息も絶え絶えになりながら少女の方を向く。
最初にあった傷はなくなり綺麗な顔がこちらを向いている。
「俺の方こそ助かった。礼を言う。俺はディベルだ。」
傷は治ったものの事態は好転していない。
このままだと再びやられるだけだろう。
「今の私ではガラハッドを撃退するだけの魔法をすぐには打てません。時間稼ぎをお願いできますか?」
真剣な表情で提案してきた。
正直、俺の力ではどうしようもない。
提案を飲む他にない。
「大した時間稼ぎはできないが任せろ!」
側にあった剣を持ち、ガラハッドの方を向く。ガラハッドは魔法で結界を壊そうとしていた。
「大いなる加護!戦女神の再演!」
体が軽くなり、力が湧いてくる。
リリルテがバフをかけてくれたのだろう。
「極光大剣!!」
あいつが結界を破る前にこちらから仕掛けてやる!
剣を構えて勢いよく飛び出した。
人一人通れる分の穴が空く。
「さっきのお返しだぁ!!」
全力で剣を振り抜く。
ガラハッドの体を捉えることはできず、剣で止められる。
しかし、体を開かせることに成功した。
すぐに追撃を仕掛ける。
「ガハッ・・」
やっと一撃が通ったが、すぐに追撃しなければやられるのはこちらだ。
「はぁぁっ!!」
ガラハッドの剣を持つ手を切り飛ばすのに成功する。
「舐めるなよ、人間!」
更なる追撃を加えようとする頃には再生を終えていた。
ガラハッドに剣を握られ、刃を破壊される。
おいおい、まじかよ・・
ガラハッドの追撃は早く防御が間に合わなかった。
アッパーカットをもろにもらい脳が揺らされる。
だが、すぐに回復する。きっとリリルテのおかげだ。
そして接近戦を始める。
リリルテのバフの乗った一撃を防がれた以上、こちらに攻め手はない。
それに剣も破壊されたのだ。
接近戦で防ぐしか道はない。
ディベルは鉄壁の防御に徹した。
ガラハッドの拳撃を受け流し、軽くカウンターをくらわせる。
「人間のくせにこの手を使わせるとはな・・褒めてやろう!」
ディベルとの接近戦をこなしながら魔力を貯め始める。
「魔力解放!」
突然体が動かなくなる。
なんだこの技は!?
気づいた時には宙を舞っていた。
突然、上に現れ地面に叩きつけられる。
「グハっっ・・・」
吐血し、意識が途絶えそうになる。
もうここまでか・・・
そう思った時だった。
「ディベル!助かりました!」
「大いなる加護!太陽神の再演!
降神-白炎乱撃!!」
ガラハッドはリリルテに気づくがもう手遅れ。
白炎に飲み込まれた。
これでやったと思いたいがまだ油断できない。
なぜかはわからないがそんな気がした。
「ディベルさん!すぐに治療しますね!」
リリルテが治療を始めるが、俺はガラハッドの方を警戒していた。
すると何かが飛んでくるのが見え、リリルテを庇い、左手で受ける。
両断はされなかったものの、かなり深く刺さっている。
それはディベルの剣の破片だった。
「聖女よ、なかなか効いたがまだ力を引き出しきれていないようだな。」
ガラハッドは白炎を掻き消した。
多少のダメージはあるものの、ほぼ健在だ。
ガラハッドは右手に剣を召喚し、先程と同じく目の前に現れた。
「獄門刀!」
俺にガラハッドの刃が到達する。
俺は受け入れようとしたが、その瞬間は訪れなかった。
「聖盾!」
リリルテが防いでくれたがかなり力を使っているように見える。
自分自身に酷く落胆した。
リリルテが命をかけているのに俺は何をしている!!
なんで俺はこんなに弱い!?
力が・・逆境を乗り越える力があれば!!
そう強く望んだ時奇跡が起きた。
ズドォォォン!!!
ガラハッドだけでなく、リリルテも吹き飛ばされた。
だが、俺は吹き飛ばされなかった。
もう体は動かない、それほどのダメージのはずだが自然と音の方へ向かう。
そこには一振りの剣があった。
名前は知らないはずなのになぜかわかった。
「来い!!聖剣レーヴァテイン!!」
その剣はとても手に馴染む。
長年使い込んだ剣のようだった。
これまで余裕を見せていたガラハッドに初めての焦りが見られる。
「なぜその剣が?・・破神殿で封印されていたはず・・」
体が羽のように軽い。
ガラハッドに狙いを定め飛び込む。
「極光爆裂剣!」
相殺しようと即座に技を繰り出す。
「獄門刀!」
剣が当たる音すら起きなかった。
ガラハッドの持つ剣は綺麗に切断されており、漆黒の鎧にも大きな傷ができている。
「クッッ・・・、まさかこれ程とは・・」
ガラハッドにトドメを刺そうと近づく。
「極光・・グハッ・・」
ディベルは聖剣を落とした。
彼の限界はとっくに超えており、ほとんど根性で動かしているようなものだった。
ついに限界が訪れたのだ。
「今回は引くとする。ディベル・・その名前覚えたぞ・・!」
俺は返答することさえできなかった。
ガラハッドが空間を維持できなくなったようだ。
空間が壊れ始め、ガラハッドの姿が見えなくなる。
最初のような浮遊感を覚える。
周りの景色が元に戻った。
やっと悪夢のような時間が終わったのだ。
聖剣を杖代わりに使ってリリルテの方へ近づく。
魔力が尽きたことにより、気絶していた。
命に別状はないようで安心だ。
城門の騎士たちがこちらへくるのを見て意識を手放した。