ささやく、ことば。
……結局、ウワサほどはすごいとこってわけじゃなかった。少なくとも、最初に見てみたときのは。先輩たちも優しい感じだったし、部誌は……ちょっとえっちなのも入ってたけど、絵はすっごく上手いし。絵だってわかってても、なんかドキドキしちゃった。……女の子同士が多かったのは、ちょっとびっくりしたけど。おねーちゃんも、星花だとそういうのもけっこうあるって言ってたけど、……こころも、そんなことになっちゃうのかな。
……あの時から、頭の中ふわふわしたまんまだ。憧れはあっても、知らない気持ち。……おねーさん、のせいで、染まっていっちゃいそうな感じ。お礼、どうしよっか。今度の土日にでも探そうかな。お菓子とか、小物とかならそんなに困らないとは思うけど、これも、ちょっと悩みどころ。
気がついたときだけ、ノートを急いで取って、なんか、うとうとしてるときみたいになっちゃってる。まちがってはいないかな、上の空になってるのは変わらないし。
教室の空気が、ちょっと息苦しいような。長かったチャイムまでの時間、ようやく、息継ぎできる。廊下に出て、あてもなくぐるぐるする。移動教室もないし、……どうしよう。
とりあえず、トイレ行っておこっかな。ぱたぱたと駆け出しそうになったときに、ふと、声をかけられる。
「高根さん?」
「あ、この前の……」
聞いた瞬間にわかった、あの時の優しくて落ち着いた声。声のしたほうを向くと、あの時の、同じ制服を着てるのが信じられないくらいオトナな雰囲気をかもしてたあの人。
「少し、時間いいかしら?」
「うん、……どうかしたの?」
「ちょっと、ついてきてくれる?二人で話したいの」
「うん、いいけど」
また、手をつながれる。階段の横の、ちょこっとだけ空いてるとこ。足は、そこで止まる。少女マンガだったら、ちょっとオトナなこと、されちゃいそうな。
「ここで、いいわよね?」
「ぇ……、あ、うん」
向き合うだけで、ちょっとときめいちゃいそう。見上げたとこにある顔、きれいだから、なおさら。しかも、もっと近づいて、……背中、急に触れた感覚で、ぞわってする。……もしかして、ぎゅってされてる?
顔、耳元に近づいてくる気配。髪からかな、ふわって、甘いにおいがする。
「ねえ、あの時、何かお礼したいって言ってたじゃない?」
「えっと、そ、そうだね」
「あれ、お礼は別にいいから、……代わりに、あなたの時間、私にもらえる?」
耳元で、息がかかる距離。ささやかれた言葉。意味なんて考えられない。頭の中、真っ白で、全部飛んじゃってる。




