あつくて、あまい。
カラオケに行くまでも体がふわふわしてる感じがあったけど、今はもっと。『すき』でつながった関係になって、特別な関係じゃないと、できないようなこともしちゃって。もう、夕方から夜になっていく時間、そのせいかな。つながった手のぬくもりも、そのときまでと違うような気がする。
「蘭ちゃんは、楽しかった?」
「ええ、とっても」
「ならよかったぁ、こころも、すっごく楽しかったよ」
電車の中でも、なんとなく行きのときより近づいて。すぐ、二人だけだって錯覚しちゃいそう。……絶対、カラオケであんなにいちゃいちゃしちゃったせい。イケナイことだってわかってても、どうしたって逆らえなくて、欲しくなっちゃってて。思い出すだけで、ほっぺが熱くなっちゃって。
「そう、……ふふっ、かわいいわね。あのときのこと、思い出しちゃって」
「言わないでよ……恥ずかしいから」
「そういうとこも、かわいいわ……っ」
「んもう……」
ひそひそ声で、のろけみたいなことしちゃって。周りに聞こえちゃってないかな。そういうのばっかりしてたら、学校の最寄り駅になっちゃう。
駅から学校も、けっこう近い。いつもなら迷わないからいいけど、今は、もうお別れになっちゃうからやだな。そんなこと言っても、ちょっとゆっくり歩くくらいしかできない。
「もう、着いちゃったわね、……寮まで、送ろうかしら?」
「ありがと、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね?」
なんか、初めて会ったときのこと思い出しちゃうな、こうやって手をつないで並んで歩くの。あのときは部室のある旧校舎だったけど、今はこころの暮らしてるとこで。
「中等部の寮に入るの、イケナイことしてる気分になっちゃうわね」
「カラオケであんなにいちゃいちゃしたときのほうが、よっぽどイケナイと思うけどなぁ」
「まあ、それもそうね」
玄関まで、着いちゃった。しょうがなく手を離すと、蘭ちゃんのほうから頭をぽんぽんってしてくる。それだけで、なんとなくわかっちゃう。
「どうしたの?」
「こころ、……おいで?」
「……うん」
……あの時と、同じ声。ちゅーしたあとの、もっと先を誘ってくれたときと。向き合って、……座ってるときより、顔、高いよ。顔、上に向けて、目を閉じる。
「すっかり染まっちゃって、……私もよ」
顎クイみたいなことされて、そのまま、ちゅーまで。ふれあうだけの、優しいの。一瞬だから、ぎゅってするヒマもなくて、そのまま、離れちゃう。少し収まってたドキドキ、また一番上まできちゃう。
「蘭ちゃん、……ずるいよ」
「ふふっ、……駄目だったかしら?」
「……そんなわけないからずるいんだよ?もう……」
おでこのあたり、またなでなでしてくれる。そうやって、すぐ甘やかさないでよ、好きになっちゃうから。
「また、こういうことしましょうか」
「うん、じゃあ、またね」
今更照れくさくなっちゃって、ぱたぱたって走っちゃう。……物語で見るよりずっと、恋が叶うって熱くて優しくて甘くて。……もう、戻れないよ、こんな気持ちを味わう前に。




