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心に白き胡蝶蘭を。  作者: しっちぃ


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熱情、甘露。

 きっと、こうだった。私の中にあった感情は。これで、よかったのよね。言い聞かせても、まだ分からない。……でも、戻れそうにないわね、出会う前には。もし、あの時に魔が差してなかったら、……迷い込んだこの子に気づかなくなるくらい夢中になっていたら、どうなってたのかしら。


「えへへ……っ」


 安心して力が抜けたのか、私に体を預けるようにしてくる。真剣な瞳が、一瞬であどけなく緩む。頭から背中、軽く撫でてあげる。首筋に軽く触れる甘い吐息が、少し艷めく。……こんな、スキンシップくらいじゃ足りない。


「もう、……こころさんってば」

「だって、嬉しいしほっとしたし、ドキドキしてるんだもん……っ」


 脳が綿にでもなったみたいに、中身のない言葉。……むしろ、綿飴かもしれないわね。……ほのかに甘くて、するりと溶けていく。


「そんなに、……私のこと、好き、だったのね」

「うん、……好きだよ、……こころもね、ひとめぼれだったんだ、きっと」


 たった二文字、……それを口にするのも、聞くのも慣れない。触れ合う関係に、それ以外を求めていなかったから、言うことも、言われることも、ずっと避けていたものだから。


「そんなとこは同じなのね、……全然違うのに」

「そうだね、……ねぇ」


 背中から、髪をかき上げるように撫でてあげる。細くてふわりとした髪が揺れて、甘い香りがただよってくる。


「我慢、できなくなっちゃう?」

「……ダメだよ、だって、ちゃんとちゅーしてないし……っ」


 本当に、こういうとこは純粋で、……そういうとこなのかしらね、私が、……恋しているとしたら。まだ、ちゃんとした言葉で表せないけど、『特別』の枠には入ってて。


「そう、……なら、おいで?」


 最初から、私の趣味ではない触れ方だけれど。触れてみたい、触れてほしいって思わされてる。ほら、あなたが欲しいこと、こうでしょ。……視線を重ねてから、目を閉じる。


「うん、……好き、だよ」


 熱っぽい声、しばらく待つと、こつんとぬくもりが鼻先に触れる。思わず目を開けると、真っ赤にした顔が、すぐ近く。


「あぅ……」

「もう、……かわいいわね、ほら」

「ぅ……ありがとだけど……」


 首、軽く傾けてあげる。薄い知識で知ってることだけど、ぱぁっと表情が明るくなるのがわかる。もう一度、目を閉じてあげる。おずおずと近づいて、……ふにって、柔らかい感触。映画のときと違って、ちょっと長くて、柔らかい。何かが、ほどけそう。


「ん、……えへへ」

「……ねえ」

「ん、なぁに?」

「……もう一回、確かめていいかしら?その、……まだ、分からないの」


 もう一回、同じように。首を軽く傾けてながら、目を閉じる。……ちょうだい、なんて、なぜか思っているけれど。


「わかった、……いい、よね」


 今度も、そっと触れる。でも、さっきとは違う。もう少し長くて、終わりが、少しだけついばむようで。蕩けたように甘く漏れる吐息で、私の中まで、溶けてくる。目を開けたとき、まだ近くにある真っ赤な顔が、たまらなくなる。


「……どうかな、……何か、分かった?」

「もう少しで、分かりそうだから、……ねぇ」

「ぅ、……いいよ」


 満たされて、それでもまだ何か足りない。こんなに頬が赤いのに、触ってもあんまり熱を感じない。……私も、同じ音頭。顔を包むように両手で触れて、そのまま私のもとまで寄せる。ちゃんと、見ておけばよかったな。こういうことの仕方、まだ分からないから。同じように視線を合わせてから、顔を軽くかしげる。


「ん、……ちゅ」

「んっ……、ぁ」


 ふにっていうか、もちっていうか。人肌でないと出ないような柔らかさ。もう、溶ける。足りない。もっと繋がりたい。答え、さすがにもう分かる。そういうこととは縁もないような私にも。


「好きよ、……もう、多分なんかいらないわ」

「うん、……こころも、すき……っ」


 今度は、自然と。熱っぽい吐息を吸い込むように唇を寄せ合って、重なり合う。目、閉じる暇もないし、焦点、うまく合わない。


「んぅ、……ちゅ、……ちゅぃ、んぁぁ、んん……、ちゅっ」

「はぁあ……、ん、……んん、……はぷぅ、んぅ、……っ、あ……」


 さっきまでの延長線の、触れ合うだけでなくて、少し、ついばんでみたり、吸ってみたりしあうような。……気持ちいい。服、握られてる。私も、顔から背中に、抱き寄せる場所を変える。何か握らないと、私もおかしくなりそう。初めてなのに、体の奥底がその先を知っているように動く。


「ん、……っ、ぴちゅぅ、ちゅる、……はぁ、ぁ、ちゅ……」

「はぁ……、はぷ、んにゅ、んん……、ぁ、はぁ、……」


 ついばんだ後に、軽く唇を舐める。連れ込んだ後でもないと、舌なんて使おうとしないのに。ブレーキ、掛けられなくなってきてる。しかも、止めないどころか、同じことしてくる。ちろちろって動かしてるの、かわいい。ココアみたいな甘い味がして、頭の奥、しびれるほどに気持ちいい。しばらくして、驚いたように離れるの、少し寂しい。


「らんちゃん……」

「……こころさん?」

「あのね、その、……」


 急に、呼び方が変わる。今ので、この子からも『特別』の先の関係になったってこと、よね。……気づいて、思ったより鼓動が高鳴っていて。


「……気持ちよかった?」

「もう……分かんないよ、だって、頭の中くらくらして、ふわふわする……っ」

「私も同じよ。……もっと、欲しくなるでしょ?」

「そうだけど、ずるいよ……っ」


 ピンク色に染め上げることはできたけれど、幾度となく重ねた口付けのせいか、私の心は白く染まっていく。後腐れの無い関係を求めていたのに、後戻りできないほどに一人を求めてしまう。


「駄目だったかしら?」

「ううん、らんちゃんも、もっとドキドキしよ……?」

「とっくにそうなってるわ、……あなたのかわいいとこ、独り占めしたいの」

「ひゃぅ……っ」


 私には甘すぎるほどの感情が、今は心地いい。……いや、そうではなくて。最初から、欲していたのかもしれない。この子がくれるような、純粋すぎるほどの真っ直ぐな熱を。

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