純粋、剥離。
初めて見た、真剣な目。普段とは反対で、心臓を射抜かれるような感覚。見下ろしてくる視線は、蕩けた顔とは違う意味で、あどけなさが無くなっていて、……どうすればいいか、分からない。こんな風に見つめられたことないから。
「……分からないのよ、そういうこと」
『抱きたい』という欲求を『すき』と呼ぶのであれば、……いや、そういうものではないはずだ。そういうことに無縁だった私にだってうっすらと分かるのだから、純粋に憧れているあなたならなおさら。
「どういうこと?」
「恋なんて知らないとこにいたの、……その先のことは、いくらでも分かっているのに」
「むぅ……、それじゃあ、もっと分かんないよ」
そう答えるのは、最初から分かっていたけれど。……そんなもの、他の人に教えたことなんてなかったのにな。そんなものを教える機会も、理由も必要なかったもの。ただ欲しがってくれる人と一度だけの契りをして、それだけ。欲望を埋めるのに、体以外のつながりなんて余計だもの。
「そうよね、……分からなくても仕方ないわ」
「知りたい、……っていうのは、ダメ、かな」
なのに、どうして。あなたは、かわそうとしてもまっすぐにぶつかってくるの。こういうときの避け方、私は知らない。そういう風にならないような子とばかり繋がってきたから。
それでも、もう本能が先に行きたがっていたんだ、この子には。今更引けない、私が私じゃなくなってしまいそうでも、熱を知りたくて、教えたくて仕方がない。
「……話せば、長くなるわよ」
まだ、気が乗らない。最後の一歩みたいなもの、どうせ、止まってはくれないんだろうな。純粋に私に恋していることは、今まで触れ合っただけで分かってしまっているから。
「いいよ、……教えて、ほしいな、時間、いっぱいあるでしょ?」
観念するしかないみたい、真っ直ぐな瞳に射抜かれる。……それにしても、どうしてこの子には、今までの自分ではいられなくなるのかしら。分からないや、同じくらいかわいい子に会えてないってわけでもないのに。
「しょうがないわね、……じゃあ、いくわよ」
「うん」
触れたくないとこには触れないように、でも、純粋すぎるこの子が諦めてくれてもいいように。恋を知る前に、体はその延長線上にあるはずだった快楽を知って、火照った体を満たす方法でしかなくなった。刹那的に求めて、それ以上にはなりたくなくて、……つくづく、今の私は矛盾してる。
「幻滅したでしょ?……私のこと」
欲しがっている体とは裏腹に、ここまで知ったこの子が、そのまま私を向いてくれるとは思えない。……そのはずなのに。
「ん〜……、ううん」
困ったような顔をして、……それから、首を横に振る。そのことよりも、心臓に熱を持ったような気がすることに戸惑ってしまう。




