おもいを、みせて。
手続きも済んだのか、また手がつながる。聞いてみようかな、デートってしたことないのに、こんな、……いちゃいちゃするためのこと、知ってるんだろう。
「ドリンクバーもついてるから、誰も邪魔しに来ないはずだわ」
「うん、……ありがと。……そういうの、どこで覚えるの?」
「こういうのって、先輩たちから受け継がれてるらしいわ。お外だと、そういう場所って多くないでしょ?」
「そうなんだね、……オトナだなぁ、なんか」
学校だと、できることって限りもあるし、……寮に住んでると、お泊まりも届けを出さないといけないし。寮が違うとか、実家暮らしの人とお付き合いってなると、そういうとこ、欲しくなっちゃうよね。
「オトナっていうより、みんな欲しがりなのよ、私たちみたいに」
「そっか、……さみしくなっちゃうもんね、学校じゃ、あんまり甘えられないもん」
「ふふっ、そういうこと考えるなんて、あなたもいけない子ね」
言葉も、声も、こころのこと、ドキドキさせにきてる。「あなた『も』」ってことは、蘭さんだって、そういうことしたいって言ってるってことだよね。
連れられた部屋、端っこのほうでよかった。止まんなくなっちゃっても、あんまり、声も届かなくなるはずだし。
「今のうちに、お手洗いとか済ましときましょっか、……我慢、したくないでしょ?」
「そうだね、……先、行ってるね」
オトナな雰囲気にやられちゃって、何もしてないのに頭がほわほわしちゃってる。……何だろ、本で見るような、えっちなことする時みたい。お部屋に誘われて、交互にシャワーとか寝る支度とか済ますみたいな。そういうの、どこか期待しちゃってる。まだ、そういうことするのには早すぎるのに。
一人になれてるのに、ドキドキは収まらない。口の中酸っぱくて、甘いものが欲しくなる。その場でアイスココアを作って飲み干して、もう一杯を持っていく。部屋に戻ると、蘭さんはカラオケの機械をずっといじってる。奥のほうから、隣に座ってみてみる。
「……ただいま、……何してるの?」
「何も歌ってないと怪しまれるでしょ?だからいくつか入れておいてるの」
「それも、周りの人が言ってたの?」
「そうね、採点も切っておいたほうがいいんですって。……私も行ってくるから、好きなもの入れてくれるかしら」
「分かった、……ありがと」
さっきまでいじってたタブレットを渡してきて、外に出てっちゃう。後ろ姿をみて、また、ぼうっとしちゃう。
蘭さん、もうけっこう入れてるんだ。人気ランキングに入ってるのを片っぱしからって感じだけど。二時間もってことはもうちょっといるかな。好きな曲を何個か入れて、だいたい二十個くらいになった。これくらいあれば、いいかな。
……それにしたって。ドキドキ、止まんない。持ってきたほうのココアも飲み干しちゃいそうだけど、また、トイレ行きたくなっちゃいそうだな。
「……ただいま」
「うん、おかえり」
「じゃあ、……ね」
そういって、映画のときみたいにすぐ隣に座ってくる。袖が触れ合うくらい、……嬉しいけど、これじゃあ、また流されちゃう。向き合わなきゃ、ちゃんと。
「……ねえ」
お行儀はよくないけど、靴を脱いで、蘭さんの脚をはさむように膝立ちする。普段なら絶対できない、見下ろす角度、ちょっと、困ったような顔をしてるのが見える。
欲しいってことは言ってくれるのに、かわいいって言ってくれるのに、『すき』は、どうして言ってくれないの。ドキドキはもっとひどくなって、口の中から飛び出しちゃいそうで、……でも、知りたいよ。
「あら、どうかしたの?」
「ねえ、蘭さんは、……わたしのこと、好き?」




