はじまり、まいご。
目が回りそうなくらい、新しいことがいっぱいやってきた。教室もだし、教科書もだし、校舎だって、学校だってめちゃくちゃ大きいし、……おねーちゃんって、こんなとこで六年もやってたんだ。ここはいいとこだっておすすめしてくれたから入ったけど、もう落ち込んじゃいそう。
「ここ、どこだろ……」
今日から体験入部で、文化部が集まってる旧校舎に行こうとしてたんだけど、……どこで道まちがっちゃったんだろう。森みたいになってるし、体育館裏かな、でもそれにしたら部活とかやってそうなのに、そういう音もしない。
一回、建物の回りをまわってみようかな。どこなのかわかれば、まだリュックの中に地図があるはずだし。進もうとした途端に、声をかけられる。
「あら、あなた、道に迷ってるの?よかったら、送ってあげましょうか?」
「あ、うん、……じゃないや、はい……、その、お願いします……」
もっと奥のほうから、おんなじ制服を来てる人が来る。校章もつけてないから歳はわかんないけど、……オトナって感じの、すっごくキレイな人。おんなじ女の子なのに、なんか見とれちゃいそうなくらい。この学校、アイドルやってる人とかモデルさんとかもいるって聞いたけど、そういう人なのかな。
「無理して敬語とか使わなくていいわ、私まで落ち着かなくなるもの」
「え、……じゃあ、お言葉に甘えて……」
いつも通りなんて、できそうにないよ。なんでか、よくわかんないけど。がんばって丁寧な言葉にしてるけど、いつもみたいにしゃべるのもがんばんないとできなさそう。
「えぇっと……、何してた、の? その……、あんまり、何もないとこだけど」
「ふふふ、猫ちゃんと遊んでたのよ」
「そっか……、ごめんね、その……、おじゃま、しちゃったみたいで」
「別にいいのよ。……ちょっと待ってなさいね、この子送ってあげたらまた来るから」
いいなぁ、そんな仲良くなれるって。中庭とかにいる猫ちゃんって誰かが飼ってるとかじゃないから、あんまり仲良くしてくれないんだけど。遠くに声をかける、優しくて透き通った声も、……女の子同士なのに、名前も知らないのに、ひとめぼれしちゃいそう。
「そんな仲良しになってるんだ……、いいなぁ」
「あら、そう?……そういえば、どこに行きたいのかしら?」
そういえば、そうだった。猫ちゃんも気になるけど、部活に行きたいのに迷っちゃってたんだよね。優しいおねーさんでよかった。そうじゃなかったら、いつまでも迷ってたかも。
「あのね、旧校舎行きたいんだけど……」
「分かったわ、こっち、おいで?」
差し出してくれる手を、何気なく取る。今更みたいに、少女マンガで見たような展開を思い出しちゃう。つながった手から、ドキドキしちゃってるの、伝わってなきゃいいんだけど。