ひそかな、ねがい。
「まず、チケット取っちゃいましょっか」
「そうだね、門限とかもあるし、二時くらいのがいいのかな」
「遅いほうが席も取りやすいけど、門限もあるなら仕方ないわね」
あんまり、デートできないな。しょうがないことだけど、さみしくなっちゃう。お昼過ぎくらいの回だがら、うっかり寝ちゃわないようにしなきゃ。映画なんて久々だし、デートってことを考えなくても、ちょっとドキドキしちゃうな。
「席、どこがいいかな、前のほうが嬉しいんだけど……」
「ねえ、……カップルシートっていうの、気にならない?」
耳元でささやかれた、甘いおさそい。ちょった大胆すぎかなって思ってたけど、まさか、相手のほうから誘われるなんて。想像だけで、ドキドキが止まんない。
「うん、……でも、いいの?」
「もちろんよ、……その代わり、一つ、お願い訊いてくれるかしら?」
「いいけど、どんなの?」
こんなに、いいのかな。でも、デートのお誘いもしてくれたし、こころみたいに、一目ぼれ、しちゃってるのかな。そうだといいんだけど、
「今は秘密。……それよりも、どこがいいかしら?」
「じゃあ……ここかな」
端っこばっかり残ってるけど、残り三セットのうちの一番真ん中に近いとこ。出てきたチケットも取られちゃって、会計のとこまで連れていかれる。蘭さんと受付さんに言われるままに手続きを済ませるだけなのに、頭のなかがはちゃめちゃになっちゃう。チケットも預かってもらっちゃって、何もかもしてもらっちゃったな。
「ありがと、その、いろいろしてもらっちゃって」
「いいのよ、それより、時間あるしどこかきになるところあるかしら?」
「うん、気になってる本の続きが出てきたし、本屋さん行きたいなって」
こころのしたいことばかりしてくれるし、手も繋いでくれるの、嬉しいけど、……もっと好きなこと教えてほしいし、知りたいのにな。ふわふわともやもやがかき混ぜられて、何を考えてるのかもわからなくなる。
「いいわね、私も気になるのあるし、……あら?」
「あれ?どうかした?」
「友達っぽい雰囲気の子がいたのよ、あなたみたいに純粋な人なのだけど」
純粋、なんてさらりと言われた言葉に、変にドキっとする。いつも、『かわいい』って言ってくれるけど、それだけだから。こころみたいな人って、どんな人なんだろう。
「へぇ……、ちょっと気になるかも」
「そう?あの子もデート中みたいだし、ちょっと聞いてみようかしらね」
向かってくほうについていくと、おんなじように手をつないでる女の子同士。幸せそうに笑い合ってるの、うらやましいな。こころも、こんなふうになれたらいいな。つないだ手から、この気持ちは伝わってくれないかな。




