alia parte:放熱、不満。
……ふぅ。お預けされた不満は、大分満たされた。お母さまの連れてくる子、私の感性にも合うから、時々こうして一緒に愉しむけど、……昨日は、いつもとは違った。抱きながら、他の子のこと考えて。あの子が啼いてくれたらどんな声なんだろうとか、蕩けきったら、どうな顔してくれるんだろうとか。
「あなた、とってもかわいかったわ……」
「うん、あなたもすごかったよ……」
多分、大学生くらいよね。お母さまがあの子みたいな歳の子を連れ込んでたら、それはそれで大変なことになるけれど、やっぱり慣れてる感じ。欲しいとこ、わざと見せつけるようにするとことか、甘ったるい声とか、攻めがいのあるくらいかわいかったけど、……なんか違う。ステーキを食べたいときに、ハンバーグが出てきたみたいな。お預け食らわされた未練にしては、糸を引いている。あの子のことを抱きたいとは、思っているけれど。
「一つ、訊いていいかしら?」
「何かしら?」
イキ疲れたのか、すっかり寝息を立てた子をよそに、二人きり。……このことは、専門外だろうけど、訊いてみる価値はあるかしら。
「お母さまは、初恋のこと、覚えてるかしら?」
「そんなの、あると思って?」
「まあ、それもそうよね」
私が、恋を知らないまま生きてきたものね。小さい頃は私と同じように生きてきたお母さまが知っているわけないか。昔の私と同じ箱入り娘で、恋愛なんてものと無縁だったと聞いたし。
「そんなこと訊くなんて、もしかして……?」
「そうかもしれないってだけよ、分からないわ、知らないまま生きてきたのだから」
物語の中でしか知らない感情を、つかむ術は見つからない。滾る欲望の満たし方は知っていても。あの日、戯れにお母さまのベッドに行って、そこでお母さまといた人に抱かれたときに、純情な感情を知る道はなくなった。……いや、その前から、知ることになることは無かったかもしれない。前の家にいた時なら、決められた相手と、決められたときに結ばれることになっていただろうから。恋だの愛だの、浮ついたことなんて考えることもなく、ただ跡継ぎを残すためだけの関係。……つまらないだろうな。
「そうよね、……私も教えられることはないわ。でも、いいんじゃない?そういうのも」
「そうね、……ありがと、私も寝るわね」
「ええ、おやすみ」
物思いにふけるなんて、私らしくない。小さくて柔らかい、かわいらしい姿。かわいい子を抱きたいのはいつもの事だけれど、誰か一人を思い浮かべるのは初めて。……寝間着を気直して、自分の部屋に戻ろう。熱は冷めてきたけれど、まだ、どこか熱い、ような。




