いたくて、あまい。
……甘いにおいがする。顔の横、耳のあたりから抱き寄せられてる。夢みたいなのに、夢じゃないって教えてくれる。胸の奥で痛いくらいドキドキしてる心臓も。それでも信じられなくて、太ももをつねると痛い。
見上げると、何度見ても見とれちゃいそうなくらいきれいな顔と目が合う、ぼやけちゃいそうなくらい近い。その目の中にあるのは、わたしだけ。
学校の物陰でいちゃつくとか、少女漫画ならよく見るシチュエーションだけど、女の子のせんぱいとするなんて、想像もできなかった。それも、初めて会った、図書館の裏の、森みたいになってるとこで。
「蘭ちゃん……っ」
「こころ……」
呼び合う声だけで、溶けちゃいそうなくらい熱い。恋人どうしがするようなこと、いくらでも知ってるって言ってたはずなのに、おんなじくらい、ドキドキしてるみたい。……こんな、ただの始まりだって、こころだって知ってるようなことで。
「……ドキドキしてくれてるんだね、嬉しい」
「初めてでもないのに、……今更よね」
「ううん、……こころのこと、そんなに大事にしてくれてるんだ」
頭の中、ふわふわする。……まだ、何もしてないのに。雰囲気だけで、こうなっちゃうんだ。夢見がちなのは分かってるけど、……夢じゃないのも、分かってるけど。
「……ずるいわ、そんな甘いこと言ってくるの。欲しくなっちゃうから」
「いいよ、……来ても」
引き寄せようとするけど、その前に、服握っちゃう。想像してるよりもずっと、ドキドキしちゃってるんだ、蘭ちゃんに、夢中になっちゃってる。
「力抜いて、怖くないから」
「ん、……うん」
……息、ゆっくりにしないと。近づいてくる顔、目閉じてるのに、やっぱり、きれい。甘いにおい、濃くなってく。
「ん……、ふ」
「ぁ……、ん」
くちびるに当たるぬくもり、しっとりしてて、優しくて柔らかい。胸の奥が痛いくらいに跳ねて、そこ以外は全部溶けてとろとろになっちゃいそう。たった一回の、ほんの数秒なのに、その一瞬が、ずっと続くって思っちゃうくらい。
「……かわいい、もっとしたくなっちゃうなぁ」
「蘭ちゃん、それは……」
ダメなのに、ダメって言えない。欲しいって思っちゃってる、どうしようもないくらいに。人のこと言えないくらい、エッチだったのかな、こころも。
「……分かってる、……こころが寮住まいじゃなかったら、もっといろんなことできるのに」
「うん、……お泊まりとか、あんまりできないもんね、しょうがないけど」
まだ、ぎゅってしたまま、まだ、離れたくないや。でも、予鈴のチャイムが、二人だけの時間に水を差してくる。
「そろそろ、戻らないとね」
「そうだね、……」
「分かってるわ、私も、一緒だから」
「えへへ……、そっか」
それでも、体が離れるとき、なんだかさみしそうで、自然に、手がつながる。……最初に会ったときもそうしてくれたけど、それよりも、ずっとあったかいのが伝わってくる。思い出の全部、詰まってるからなのかな。




