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第九話 冒険者ギルドの受付嬢

 



 死体処理を手早く済ませ、魔獣駆除を再開した俺は夕暮れ時まで手当たり次第にスピードラビットを駆除していき日没前に冒険者ギルドに戻って来た。


 ……戻って来たんだが少し問題が発生。



「あの〜イクノスさん? これはどういう事なのか、私に分かる様にご説明頂けますか?」


「え? だからスピードラビットの駆除証明の前歯です……だ」


「そ〜んなことは見れば分かりますよっ!!! だって前歯どころか生首が付いたままのヤツもありますし!? 私だって冒険者ギルドの受付嬢として多少は耐性がありますけど、流石にグロ過ぎるんですよ! しかも生首バージョンはどれも引きちぎったみたいな断面だし! ドン引きですよコッチはっ!!! 大体何ですかこの数はっ!! イクノスさんは森中のスピードラビットを駆除したって事ですか? わ〜凄いっ! っじゃないですよ!! おかしいでしょこの数はっ!! どうやったらこんな数の前歯を集められるんですかぁっ!! ……ハァハァ、……オエ“ッ!?」



 早口で捲し立てるから酸欠でえずいてるじゃないか。


 それにしてもこの反応からすると俺はやり過ぎたらしい。

 悪目立ちしない様にしていたのに何を間違ったんだ?



「あの〜、前歯は磨いて提出した方が良かった……のか?」


「っ!? だからぁそんな事じゃないって言ってるでしょ!? 私の話聞いてましたぁ!? 生首はいりませんっ! そして普通はどんなに頑張っても半日で十匹駆除出来るくらいなんです!! ハッ!?……まさか他の冒険者さんから奪ったんじゃ?」


「いやいや、ちゃんと自力で駆除したって! こう見えても山育ちで罠とか色々知ってるから、それらを駆使して効率的に駆除してたらこうなっただけなんだ!」


「……罠〜? フ〜ン……一応念の為ですけどこの台に手を乗せて貰えます?」



 また【血印の天秤】か。

 コレって結構貴重な物の筈なのに嘘発見器みたいな使い方して大丈夫なのか?



「ほ、ほら! 白く光りましたよ! これで俺は無実ですよね?」


「…………ハァ、どうやら本当に一人でこれだけの数を駆除されたんですね。普通に考えるとあり得ないんですけど目の前に結果が出てますし、認めざるを得ないですねぇ〜」


「えーと、それで俺の初期評価と報酬は……」



 報酬に関しては演技ではなく本気で欲しい。

 手持ちの金が尽きかけてる今、結構本気で稼ぎたい。

 だから時間の限り駆除をしていたわけだし。



「そうですね、報酬なんですがこの数だと査定に時間が掛かりますからもう暫くお待ち下さい。それと初期評価ですが本来ならどんなに頑張っても下層冒険者なんですが、イクノスさんの場合は規格外すぎるので上と話し合いにはなりますが恐らく中層冒険者からスタート出来るかと」


「え? ほ、本当ですか!?」


「かなり異例ではありますが、稀にこういう事もあるのでギルドとしてもその辺りは柔軟に対応しているんですよ」



 拙いな、いきなり中層冒険者だと目立ってしまう。

 とはいえ、もうやってしまったのに今さら駆除した数を捏造したなんて誤魔化せば余計な騒ぎにもなるし、このまま流れに身を任せるしかないか。



「だだし、決定では無いので上司と相談してみて許可が出ればって話しですからね?」


「ああ、それでもこうして誰かに良い評価を貰えってなんだが嬉しくなってくるんだ」



 この台詞には少しだけ本音が混じる。

 バンディットに居たころは親父はもちろん誰からも『良くやった』なんて言葉は貰った事がないしな。

 ジェネレイティ姉さんはたまに誉めてくれたが、あれは俺の気を引く為に口から出た言葉で実際には心はまるでこもっていない。



「やっぱりイクノスさんは中々の優良物件な様ですねぇ〜。これは大事に育てないとっ!!」


「ん?……ああそうだな。これからも頑張って働くから色々と教えてくれると助かる」


「うーん、こういう所が優良物件たる所以ですね」



 助かるとは言ったものの、あの三人組の事を考えればアライアと親しくなるのは俺にとってあまりメリットがない。

 されど邪険にするのも拙いだろうし、難しいところだな。


 こう、仕事上の付き合いだって感じをアピール出来る方法があれば良いんだが……



「あの〜、イクノスさん?」


「ん?査定が終わったのか?」


「いえいえ、それはもう少し……同個体が混じっていないかのチェックもありますから。って、それよりもですね? 実は私そろそろ今日は上がりなんですよ」


「ああ、お疲れ様です」


「それで〜、もし良ければイクノスさんの初仕事のお祝いにこの後一緒にお食事でも……」


「いや、報酬を貰ったら直ぐに帰るよ。何せ今日は慣れない駆除でクタクタだからな」


「あ、……あうう〜。……まぁ、そうですよね。流石にこれだけの数を駆除すれば疲れない訳がありませんよね。アハハ、ではまた機会があればお祝いさせて下さい未来の稼ぎ頭さん!」


「そうだな、このギルドで必要だと思って貰える様に頑張るよ」



 今日はこの後もやる事があるから長話に付き合う時間は無い。

 そもそもアライアのお陰でやる事が増えたんだから誘いを断られたとしても自業自得だぞ?



「……ところで〜、今日はスピードラビットの駆除以外に森で何か変わったことはありませんでしたかぁ?」


「ん?いや、何も無かった。と思うけど、それがどうしたんだ? もしかして俺って何かやらかしたとかそんな話か?」


「……いえいえ、新人だと何かと不便な事があったのではと思いまして、ただそれだけの事です。あっ、それと査定が終わりました。こちらが本日の報酬です。次回も頑張って下さいね!」


「ありがとう。それじゃあ俺はこれで」


「おやすみなさ〜い!」



 ………意外と女狐だな。


 あれは間違いなく俺が森であの三人に絡まれるだろうと予想していたな?


 周囲が向ける自分への評価を理解し利用する。

 中々に抜け目のない受付嬢だ。


 何故わざわざ俺を試す様な真似を?

 その目的までは分からないが、その辺も含めて今夜から調べてみるか。



 状況への対処はヨルム・ヒロイットの仕事だが、取り返しがつかなくなった時の為の準備をするのは俺の仕事だからな。





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