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第二十一話 鍛冶屋冥利

 



 何故こんな実践に不向きな剣の一振りで俺が実力を隠していると看破されたんだ?


 爺さんの口ぶりから、この試し斬りの結果は偶然ではなくこの剣だからこそ起きた結果だというのは間違いない。


 ただ、その事と俺の実力との因果関係がどう繋がるんだ?



「何故儂が坊主の実力を見抜いたのかと気になって仕方がないというツラをしとるのう? まぁ儂もこの結果には驚いとるし、こんなにも嬉しい事はないから特別に種明かしをしてやろう」



 だから何がそんなに嬉しいんだ?



「坊主も分かっとる様じゃが確かにこの剣は実践には不向きじゃ。というかそもそも目的が違う。この剣が持つ役割は振るう者の素質を見極める為のものじゃ。つまり誰が振ってもたった一振りで現状の最適動作をさせる。そして試し斬りの丸太を両断させたのは坊主が初めてっちゅう訳じゃな」



 成る程、剣を振るう者の素質を見極める剣か。

 確かにコレは試し斬り用の剣としては理想的なモノだな。


 そしてこの刀身の薄さは最適動作をさせる役割の他に、こんな刀身でどこまで斬れるかを測る役割もしていると。


 随分と面白い剣を打つ鍛冶屋が居たもんだ。



「ふむ、大体の事は理解したツラじゃな。ちなみにヤーキンはその丸太の中ほどまでしか斬れんかった。そして儂もこの剣でここまで見事な斬れ味は初めて見たわい。どんな技量に達したらここまで斬れるんじゃ?」


「まぁ、それなりに血反吐を吐いて腕を磨いたからな」



 別に自慢することじゃ無いが強くなる為の努力でバンディットを超える者なんてそうは居ないだろう。

 そんなバンディットで血反吐を吐けば俺みたいな出来損ないでもこの程度の技量は磨けるさ。



「カッカッカッ! そいつぁ吐いた血反吐も報われるって話じゃな。 いやはや最初は噂に見合う程度にしか興味が無かったが、まさかこれほどとはとのう! ようやく儂の番が来たという訳じゃなぁ」


「なぁ、その噂ってなんの話だ? それに文脈がイキナリ意味不明になったがとうとうボケたのか?」



 店先でも俺の噂がどうとか言っていたが、なんの話だ?



「本当に口のへらん坊主じゃわい。流石は冒険者ギルドで最も期待されとるルーキーじゃな。しかも新たな噂で将来ヒロイット領を背負う冒険者ってのが出てきとるぞ? なんでもお嬢をその身を呈して護ったらしいじゃねぇか。話してる分には冷血漢っぽいのに、その中身は随分と熱い男だと感心しとるわい!」



 おっふ……

 もうさっきの騒動が噂で出回ってるのか?

 ヒロイット領の奴等は暇人の集まりらしいな。


 それに俺の感覚では大人しくしていた筈なのにギルドでもそれなりの噂になっていると?



「なんで冒険者ギルド内の評価が世間に出回るんだ? 少しは守秘義務とかあると思ってたんだが……」


「ああ、そりゃあアライアの嬢ちゃんが酒場でしょっちゅう坊主の武勇伝を愚痴っとるからじゃな」



 ……やっぱりアイツか。

 本当に碌な事をしない奴だな。



「成る程な。取り敢えずアライアには今度その事も含めての礼をするとして、もう一つの爺さんが嬉しがる理由は?」


「そりゃあ鍛冶屋としては自分の全てを懸けて打った剣を託せる相手に巡り合えることほどの幸せなんぞ無かろうて」


「なんとも職人らしい理由だ」


「なんて偉そうな事を言いつつ実際には坊主に渡せる最高傑作は無いんじゃがな!」


「無いのかよ!」



 俺が会話をする奴は大体変な奴ばっかりだな。

 アライアとか、あの馬鹿騎士とか、この爺さんとか……あとアライアとか。



「まぁ焦るな焦るな。儂の最高傑作はこれから打てば良いだけの話じゃわい。それまでは今手元にある最高の剣で我慢してくれ」


「……別にそこそこの剣でも良いんだが?」


「阿呆をヌカすな! 坊主ほどの技量があってナマクラを使わせるなんぞ鍛冶屋の恥じゃ! いいからちょっと待っとれ!!」



 流石は『売りたい奴にしか売らん』なんて無茶苦茶な事を言うだけの事はあるクセの強さだ。

 買い手の都合はトコトン無視か。


 なんでこんな偏屈ジジイがヒロイット領に居るんだ?



「ほれ、儂の最高傑作が出来るまではコレを使え」



 もはやヒロイット領の不思議として、そこに住む領民には変な奴が多いと認識し始めていた俺に爺さんが一振りの剣を持ってきた。


 見た目の拵えはかなり年季が入っている。

 傷んでいるというより古臭いって感じだ。



「この剣は儂の師匠が打った至高の剣よ。 儂が独立する際に一つの目標とする為に無理を言って譲り受けた一品じゃわい。ようやく儂にこの剣を超える物を打てる機会が訪れたと思うと血が滾るわ」


「……良いのか? そんな思い入れのある物を見ず知らずの俺に渡しても」


「じゃから言っとるじゃろうが。鍛冶屋にとって剣とは相応しい奴に使われてこそじゃと。それよりもほれ、ちょっと抜いてみい」



 爺さんが子供の様にハシャいでも気持ち悪いだけだ、と思いつつ渡された剣を抜いてみる。



「へぇ……コレは中々だな」


「カッカッカッ! その剣を見ても中々止まりか! 結構結構!! 本当に滾ってくる事を言ってくれるのう!!」


「あんまりハシャぎ過ぎると最高傑作を打つ前にポックリ逝くぞ? ……って、爺さん。なんか最初に見た時よりゴツくなってないか?」



 渡された剣から爺さんに視線を戻すと、なんかゴツくなったと言うか若返ったと言うか、とにかくあの枯れ木の様な見た目の老人はどこにも居なかった。



「おう! 鍛冶屋として血が滾れば若返りもするわい! さぁーて、儂は早速素材調達に行ってくるから坊主は時々此処に顔を出しに来い」


「やれやれ、本当に客の都合は完全に無視だな。……だが、まぁ、アンタみたいな奴は嫌いじゃ無い。だからこれは俺からの激励だと思って聞いてくれ。アンタの師匠が打ったこの剣でも()()()()()()()()()()()()と思うぞ」



 普通の剣より遥かに良い剣だが、それでも遺跡の結界を斬った時の斬撃には耐えれても数回が限度だ。

 俺の感想としては使い捨ての範囲を超える剣では無い。



「…………カァーッカッカッカッ!! そうかそうか! その剣でも坊主には数打ちと変わらんか! それはなんとも喜ばしい話を聞いたもんじゃわい!!」



 やはり職人にはこういう感じの話が大好物らしい。


 見るからに体格がゴツく変貌した爺さんは俺を置き去りにして何処かへと走り去って行った。





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