第十八話 トトの采配
いつもトトを苦しめている規格外が休んでいるおかげで受付業務はスムーズだし、空いた時間で冒険者達の素行調査を進められるしで最近はストレスから解放されていたのに今度は森の奥が発生源だと思われる地鳴りと衝撃で冒険者ギルドは大騒ぎ。
すぐさま手の空いた冒険者を招集して大規模調査隊を派遣しましたが、こんな時に限ってあの規格外が居ないのがもどかしい。
……まさか巻き込まれていたりしませんよね?
「た、た、た、大変でーーーす! たった今、冒険者と領主様の騎士が被災地区で揉めているとの報告がっ!!」
「……なるほど、そう来ますか」
血相を変えた同僚の報告でトトはすぐさま理解しました。
森の奥で起きた原因不明の地鳴りと衝撃で大変な時だというのに揉め事を起こすなんて事をしでかすのはトトの中では【クソヤロー】のレッテルを貼っているくそ野郎二人しかいません。
まぁ【クソヤロー】の方向性に多少の違いはありますが……
とにかくトトはあらゆる意味でその場に行く必要がありそうなので受付カウンターを飛び越え現場へと走り出す。
「最近は二人に関わる事も無かったので油断していましたが、流石はトラブルメイカーと言わざるを得ませんねっ!!」
そんな愚痴を溢しながら急行した現場はやはり想像通りな展開だったのですが若干の想定外が……
あ、あれぇ〜?
なんでヨルムお嬢様がイクノスに抱き留められてるんですかね?
こんな公衆の面前で密着なんかして物語の主人公とお姫様をカマしてるんですかぁ?
これでも最初はイクノスの事を結構……いや、多少は心配してたんですけど……もう、どちらが正しいとかヨルムお嬢様の為にとか関係なくバッカス卿の味方をしたくなって来ました。
「ア、アライア。良いところに来てくれた、助けてくれ」
「……貴様なぞ爆ぜてしまえば良い」
「いきなり辛辣だな!?」
当然です!
潜入調査という役目のせいで敬愛するヨルムお嬢様と離れ離れとなっているトトにとってこの状況は余りにも酷というもの。
なんならその場所代わりやがれって本気で思ってますけど?
「と、とにかくあの騎士はなんだか様子が変なんだ。もしかしたら精神になんらかの異常があるのかも……」
いえ、バッカス卿は大体あんな感じですよ。
まだ詳細については何も分かりませんが、この状況から察するにイクノスに嫉妬したバッカス卿が暴走してるんでしょうね。
「はぁ……暫くは大人しくしてると感心していたんですけど、流石はイクノスさんと言っておきましょう。取り敢えずこの場は私が何とかしますので速やかにその方を解放して頂けますか?」
「あっ!すっかり忘れてた。す、すみません!!」
「あっ……い、いえ、イクノスさんは私を助けてくれたのですから謝る必要はなんてありませんよ」
ヨルムお嬢様……
今完全に名残惜しそうな顔しましたよね?
え?
どゆこと?
あの袈裟斬り蛮族の事は?
確かにあれ以降の捜索に進展はありませんけど、それでも変わり身が早すぎませんか?
それとも何かあったんですか?
もうトトにはハテナだらけで意味が分かりませんが、その辺りの事情というか今日の経緯などは後日改めてヨルムお嬢様を尋問……もといお話をお伺いするとして、今はこの場に居る全ての人が被害に遭わないようにしなくてはなりません。
「さて、先ずはご挨拶が遅れましたご無礼をお許しください。私は冒険者ギルドで受付嬢をしているアライアと申します。この度はヨルム・ヒロイット様に多大な迷惑をお掛けしてしまった事をギルドを代表して深くお詫び申し上げます」
トト達は初対面のテイですよ〜。
打ち合わせが無くてもこの程度のハプニングならヨルム嬢様はちゃんと合わせて下さると信じていますからね?
「……いえ、此方こそ招致しておきながらその後は全てをギルドにお任せしていて申し訳なく思っておりました。今回は互いに望まぬ騒動だったとして、これを機に一度場を設ける為の切っ掛けとなればと思っております」
流石で御座いますヨルムお嬢様。
トトの願いを完璧に汲み取って頂けると信じていましたとも!
「……騒動の内容は存じ上げかねますが、寛大な処置をして頂けたとして改めて御礼申し上げます。それと今回のことも含めて後日の場を設けると考えても?」
「はい、日は改めるとしてその通達は此方から致しましょう。それまでは双方で憶測による間違いが起きぬ事を望みます」
これで取り敢えずギルドとの軋轢は発生しない。
それに領主の御令嬢から正式に『早まった事はするなよ』と念押しされた事でイクノスの処分も保留に出来る。
後は顔を真っ赤にしたガッテン卿ですが、此方も容易く解決出来るでしょう。
「少し待たれよっ!! ヨルムお嬢様、いかに貴女様でもその様な独断でこの場を無かった事にされては困ります。領主家を護る騎士である私がたかが冒険者に愚弄されたのです! その者を今すぐこの場で処罰すべきでございますぞ!!」
このポンコツ騎士は概ね予定通りの反応をしてくれるのでとても助かります。
「あの〜、一つお尋ねしても宜しいでしょうか騎士様?」
「なんだ! ギルドの木端職員如きが気安く私に話しかけるなど不敬だと理解出来ないのか!?」
「いえいえ、一応確認なのですが騎士様は先程から『下賎な冒険者』だとか『たかが冒険者』などと言いたい放題ですが……それを我々【冒険者ギルド】は正式なお言葉として受け取っても問題はありませんか? と、お尋ねしたいのです」
「それがどうしたっ! 貴様等など……あ? ……あ!、いや、違、それは、……だな? まぁ、なんだ言葉のアヤと言うか……」
やれやれ、ようやく気付いて貰えましたか。
ガッテン卿は事もあろうに【冒険者ギルド】にケンカを売ろうとしてるですよ?
そんな事をすればどうなるかなんていくらポンコツ騎士の貴方でも分かりますよね?
良くて長期に渡る冒険者の活動自粛。
最悪の場合はギルドの撤退だってあり得ます。
以前のヒロイット領ならその有り難みが分からなかったでしょうが、ヨルムお嬢様が冒険者ギルドを招致して以来の景気を考えれば既にこのヒロイット領は冒険者ギルド無くしてはやっていけない筈です。
いくら領主に仕える騎士で安定した暮らしをしていたとしても、以前よりも質の良い暮らしに慣れた貴方に過去の暮らしなんて耐えられる筈がありませんものね?
「……なるほど、言葉のアヤ……ですか。まぁ、良いでしょう。今回はヨルム・ヒロイット様がこの場を取り仕切られる様なので我々もこれ以上は騒ぎを大きくしません。それで宜しいでしょうか騎士様?」
「……う、うむ」
はぁ……
これで当初の思惑通りなんとかなりましたが、問題はこの後です。
ここから先はトトにはどうする事も出来ませんが、先程の台詞からヨルムお嬢様もその事にはお気付きになっておられる様ですし問題ないでしょう。
……まったく!
暫く顔を見せず油断したところに、こんな大きな騒ぎを持ち込むなんてイクノスには困ったものです。
この借りは高くつけてやりましょう。
うーん、何をして貰いますかねぇ。
食事を奢らせるなんて生易しいモノで終わらせるつもりは勿論ありませんから今の内から覚悟しておくんですね!
何故か楽しくなってきた気持ちでイクノスをチラりと見ると、彼は身震いをして辺りを見渡していた。
どうやら何かしらのカンが働いて自分に訪れる不幸を感じ取ったのかも知れない。
せいぜい今のうちから恐怖して待つが良い!!
普段は見せないイクノスの態度を見て更に愉しい気分になるトトなのでした。




