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第一話 血の美醜

 



 ああ……いつ見ても汚いとしか感想が出てこない。


 剣を軽く振っただけで飛び散る血と臓物はその持ち主の醜悪な内面を表している様でいつ見ても汚い。


 いや、汚いだけならまだマシだ。


 コイツらは飛び散る血と臓物に合わせてこぼれ落ちる命を必死に手放すまいともがく。

 その浅ましくなりふり構わず生にしがみつこうとする醜さにもウンザリだ。


 ……本当に救いがないな戦争で稼ごうとする奴等ってのは。



 何故、自分達が奪う側でその他は奪われる側だと当たり前の様に思い込んでいるんだ?


 百歩譲って奪う側のつもりなら、死ぬその瞬間まで目の前の敵から全てを奪う気概を持つべきじゃないのか?


 自分より弱い者には理不尽を振り撒き、自身に降り掛かる理不尽にはへり下る奴等の中身は本当に醜く汚い。



「た、助けてくれっ!! オラには養わなきゃならねぇ家族が居るんだっ! 頼むっ!!」



 ……こんな奴等ばかりだ。


 俺は知っている。

 コイツらが昨晩この辺りの戦場で死体漁りをしていた事も。

 その時にまだ死に切れていない奴がいても遊び半分で楽しそうにトドメを刺していた事も。


 そんな奴が今さら命乞い?

 しかも家族がいるから?


 ……そんな事は俺の知った事じゃない。



「な、なぁ? 頼むよ? もし助けてくれたら昨日までこの場の奴等で稼いだ儲けの半分やるから! な?」



 どうせ待ってる家族だとかは嘘なんだろう。

 いや、万が一嘘でなくても関係無いか。



「ここは戦場で俺とお前は敵同士。だったらやる事は一つしかないだろ?」


「っ!? 〜グゥうう……チクショーッ!!! 【舐め回せ業火】!!」



 少し変な追い詰め方をしたせいか、目の前の男は逆ギレして魔法を使ってきた。


 何も無い足元から突然炎が溢れ出し身体に纏わりついて来る。

 これがコイツの魔法か……

 身なりや口振りから魔法が使えるとは思わなかった。



「ひ、ひひひぃっ!! やっ、やった!! カッコつけて余裕ぶってるからだっ!! ザマーみろっ!! 俺が、俺があの有名なバンディット一族の一人を殺したんだっ!!」



 熱くもないし燃えもしないが炎のせいで視界が悪い。

 しかも纏わりついて来るから鬱陶しい。



「……で? お前の魔法はこれで終わりか?」


「なっ!? なんでだ! なんで燃えねえ!?」



 生憎だが俺にはこの程度の魔法は効かない。


 俺達バンディット一族は古来よりあらゆる力を奪い研鑽してきた最低最悪の一族だ。


 その奪い磨いた力の一つには魔法耐性も当然ある。

 相手の技量次第ではあるが、よほどの使い手でもない限り俺達一族には魔法は効かないだろう。



「バンディット一族には魔法が効かない。こんな事も知らずに今まで良く戦場で生きてこれたな? まぁその悪運も今日この時で尽きるわけだが」


「ま、待ってくれっ! ゆるっ  、?しゅ……てぇ?」



 命乞いを聞くだけ時間の無駄だと悟り、男を頭から真っ二つにして命を終わらせる。



「お? やっと鬱陶しい炎が消えたか」



 晴れた視界で周囲を見渡すが俺以外に生き残りは居ない。

 これで俺のノルマは達成だな。


 後は正規軍同士で消耗し合えばすぐに休戦協定が結ばれるはず。

 そうすれば無理矢理戦争に駆り出された領民達の被害も最低限で済むだろうさ。



「……いや、俺が直接敵本陣で指揮官の首を獲った方がより被害が少なく済むよな?」



 親父からの指令ではノルマ達成後は速やかに帰投しろと言われたが別に俺がこの戦争を終わらせても問題ないだろう。


 ……うん、どう考えても早く終わる事に越したことはない。


 一応身バレを避ける為に顔は隠して行くか……




 …………………

 ……………


 ……確かに良い案だと思って敵本陣に来たが、想像以上に警備がぬる過ぎて此処の指揮官の無能っぷりが心配になって来た。


 こんなヌルい危機管理能力で被害を受けるのは本人もそうだが、一番の被害者は部下や領民達だ。

 どうせ此処の指揮官が持っている領地はマトモな統治も出来ず荒れているんだろうな。



 本陣の死角を見つけて誰にも気付かれずに忍び込み指揮官が居そうな天幕を探ると、すぐに見つけることが出来た。


 というか目立ちすぎて探すまでもなかった。

 一際デカく派手派手しい天幕と、その周囲には何十人もの鎧騎士が警備の真似をして突っ立っている。



「……つくづくのアホらしいな此処の指揮官は。これなら放っておいてもアッサリ戦争は終わってたかもな」



 ただまあ此処まで来たんだし? 駄賃代わりに指揮官の首くらいは貰って行くとするか。……ん?



『ええいっ!! 鬱陶しいぞっ! 分家の分際で僕に意見をするんじゃないっ!!』


『お、お待ち下さいカーマイン様っ!!? 今すぐ兵を引いて休戦協定を結ぶべきで御座います! さすれば領民達の被害を最小限に抑える事が……!!』


『黙れ黙れっ!!! 僕の初陣で休戦協定!? 巫山戯るなぁっ!! お前は僕が初陣で華々しく勝鬨を挙げるための補佐だろうがっ! 援助が欲しければ黙って僕を勝たせろ! いいなっ!!』



 首を貰おうと一歩踏み出したと同時に天幕内が騒がしくなった。


 どうやら指揮官は初陣らしく、声の感じからも威厳とは程遠い感じなのがありありと伝わってくる。


 そして天幕内から一際豪華な鎧を着飾った仔ブタが顔を真っ赤にして飛び出てきた。


 ……アレが指揮官だな。


 周囲の護衛もどきを押し退け何処かへ行こうとしているが、いくら本陣だからといっても油断しすぎだな。


 俺みたいに潜んでいる敵が居るなんて戦場ではよくある事だそ?



 さてと、変に暗殺すると指揮官の死を隠蔽されて戦争が続く恐れもあるしちょうど良いタイミングで出歩いてるんだから此処で貰っていくか。


 物陰から歩き出し腰の剣を引き抜く。

 もし俺に気付いて向かって来る奴がいれば斬り捨てる。

 あの仔ブタが逃げるより俺が斬り進む方が絶対に早い。


 というか、俺と仔ブタの距離は後十歩程なのに誰も気付かない。

 いろんな意味で大丈夫かこの陣営は?



「まあ、俺は楽が出来るからこのヌルさは大歓迎だけどな」



 なんの問題も無く間合いに入った仔ブタを一刀両断にするべく剣を振り上げ袈裟斬りに振り下ろす。



「カーマイン様っ!! 危ないっ!!!?」 


「ブヒィッ!!?」


「なっ!?」


「アグッウッ!!?」



 振り下ろした俺の剣は仔ブタを斬り裂く事が出来なかった。


 寸前のところで天幕から出てきた誰かが仔ブタを突き飛ばし、代わりにその誰かが袈裟斬りになったからだ。


 これだけの騎士がいて誰も気づかなかった状況なのに天幕内から気付いて飛び出して来た?


 本気じゃなかったとはいえ俺の剣から庇った?


 こんな仔ブタを庇ってなんになる?


 無駄死にだとは思わないのか?



 剣を振り下ろしたまま、様々な疑問が浮かび上がる。




 ……身体が動かない。

 状況的には失敗で、顔を隠しているとは言っても早くこの場を去るべきなのだが、何故かこの場を離れる事に躊躇している自分がいる事に驚く。


 何故?

 余りにも不可解な疑問のせいで思考が追いつかないから?


 ……違う。

 俺は多分見惚れているんだ。


 いつも見ている筈なのに。

 いつも嫌悪感が溢れて来るのに。



「綺麗だ……」



 仔ブタを庇って俺に斬られたそいつから噴き出す血は今まで俺が見てきたどんな血よりも……いや、どんな景色や芸術品よりも美しく輝き、生命の素晴らしさを見せつけて来るほどに綺麗だった……




 これが俺、イクノス・バンディットと俺が唯一綺麗な血だと思えたヨルム・ヒロイットの出会いだったのだ。





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