表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

#1.5 追放のその後

 アルフォンスがパーティーを抜けて1週間が過ぎた。

 パーティー『アルストロメリア』には新しく魔術師と壁役の槍使いを仲間に加わると、クエストを受けにギルドに訪れる。

 アゼルたちがギルドに入ったとき、他のパーティーからの視線にアゼルは顔を顰める。

 あれだけの騒ぎがあったのだからしょうがないと諦めてカウンターに向かう。


「良くもまぁのうのうとギルドに顔を出せるよ」


 途中、1人無精髭を生やした汚らしいおっさんが揶揄うようにしてアゼルに絡んでくる。


「……なんだアルのやつはもう居ねぇよ、ギルドマスターのアンタが口を突っ込むことはもうねぇだろ」

「そうですねぇ、彼がいなくなったところで君たちの評判が変わるかって言ったらどうだろねぇ?」

「なら変えるさ」


 そう答えたアゼルの目は未来を見て夢を語る、アルフォンスが嫌いじゃないと言った目をしていた。

 アゼルの夢を語り、アルフォンスの賛同で始まった『アルストロメリア』の原点。アゼルはそれを皮肉にもアルフォンスが居なくなるという形で思い出した。


「その強気が続くといいな」

「どういう意味だ?」


 聞き返したアゼルの問いを無視すると、不穏な言葉を残しギルドマスターのおっさんはそそくさと逃げるように立ち去っていった。


「……はぁ、悪いクエストを受けたいんだ」

「パーティーと証明証の提出をお願いします」


 『アルストロメリア』とアゼルは答え、それともに自身のパーティーを証明するカードを渡す。

 その名前を聞いた職員は何故か少しの戸惑いを見せた後、少将お待ちくださいとだけ言って席を外す。


「貴方たちに出せるクエストはありません」


 戻ってきた職員はアゼルに対してそう告げた。


「どういうことだよ」

「そもそも、Sランクパーティーに出せるようなクエストがそう幾つもありませんので」

「別にAランクでも、何ならBランクでも構わねぇよ」

「出来ません」

「はぁ、理由は?」

「理由はお答え出来ません」

「舐めてるのか?」

「おいおい、良してくれよぉ。うちの大事な職員なんだ」


 暖簾に腕押しと言ったような問答を繰り返し。

 アゼルの機嫌が少しずつ悪くなってくるとギルドマスターが再びバックヤードから表に戻ってきた。


「またあんたか」

「酷いなぁ、揉めてるみたいだったから戻ってきたのに」

「わかってて言ってんだろ!」


 今の状況を見ればアルフォンス程鋭くないアゼルにだって流石にわかった。


「天下のSランクパーティーもこうなっちまえば無様なもんだ」

「あぁ? お前ら誰だよ」


 そうして、ギルドマスターと共に連れたって外に出てきた赤髪の男を筆頭にこちらを見てくる。


「俺らは『イラクサ』ってAランクパーティだよ。アンタらを除けば1番上だな……いや、もう1番上だったか?」

「さっすがリーダー宣戦布告ですか?」

「事実を言ったまでだよ」


 下手な指笛鳴らしながら勝手に身内で盛り上がり出す様は誰がどう見ても、馬鹿にしていることは一目瞭然であった。


「黙って聞いてりゃ好き勝手ペラペラ抜かしやがってっ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいってアゼル!」


 堪えていたアゼルがとうとう堪えきれず、力の差を見せつけてやろうと飛び掛かろうとしたのをシールが止める。

 騒ぎになっていると気が付いた2人が止めに来ていたのが功を奏した形になる。


「すみません、どうして私たちはクエストを受けられないのですか?」

「職務上の秘守義務に当たりますので、お答えできません」

「そうですか」


 釈然としないといった表情のプリエラだったが、騒ぎを起こせば悪くなるのはこちらとわかっているから、それ以上は何も言わずに口を噤んだ。


「だけどさ、折角の戦力余らせるの良くないよねー……あっ、そうだ! Eランクのクエストならあるでしょ? それなら受けてもいいんじゃないかな。アゼルくんどうする? ゴブリンならあるよ?」

「おっ、そいつはいいなギルドマスター。俺らはグリフォンの討伐に行ってるから雑魚の掃除は任せたぜ」

「――ッ!」

「アゼル抑えてっ! 抑えてっ!」


 流石に前衛職のアゼルが力を入れると止めているシールに怪我が出る。だからこそ、逆にアゼルは怪我をさせまいと力を抜くことになる。


「こんなヤツらに追い出されたアルフォンスってやつはきっと、大したやつじゃなかったんだろうな」


『イラクサ』のパーティーの1人がそういった時、口にした男の頭部を掠めるようにして髪を揺らす。

 髪を揺らしたものの正体はシールが手でダーツのように投げて放った矢だ。


「私も止めてはいるけど結構短気なのよ、舐めたこと言ったやつその矢が当たっても知らないわよ」

「はぁ……止めに来といて何やってるの、シールも抑えなさい」


 プリエラがそう言ってシールを抑えるがプリエラも仲間を馬鹿にされたことに少し苛立ちを見せる。その姿に馬鹿にするのも少し収まった。


「えーっ、クエスト受けらんないんっすか?」

「悪いな」


 新しくパーティーに入った少し軽い言動をする壁役の青年に謝って、アゼルはギルドを立ち去ろうとした。


「そもそも『アルストロメリア』は随分と前からギルドからクエストを受けてませんよね?」

「俺らは1週間前だってクエストを受けてるだろ」


 アルフォンスを入れた4人で行った最後のドラゴン討伐は彼らの中で今も記憶に新しい。

 あの時の依頼だって受けてたんだから。


「それ指名依頼ですよ」

「指名依頼……?」


 指名依頼とはクエストという仕事のやり取りはギルドを立てて仲介はしている。

 だが、言ってしまえば受けたという記録を取っているだけ。

 ギルドへ仲介料を取られることもなく、依頼者から直接依頼を受けるといったギルドを頼らない自身のパーティーの持つネームバリューを最大限に利用したある種の裏技だ。


「知らなかったんですか?」

「……あぁだからですか」


 プリエラが納得がいったというように声を出す。

 アゼルがまだわかっていないのか、新人が話についていけるようにとプリエラは説明をし始めた。


「ある時期からアルの様子が可笑しいとは思ってました。前々から他人に気を使うタイプでしたが、その笑顔に嘘っぽさが混じるようなってます」

「いや、当然のように言われても困る」

「貴族社会に混じった人間特有の笑顔ですね」

「そりゃ元貴族でもねぇとわかんねぇだろ……」


 そこまで言われればアゼルにだって理解はできる。

 アルフォンスのやつがギルドからではなく、貴族から直接クエストを貰ってきていたということに。


「そういえば……大体1年前かな」

「シールもよく覚えてんな」

「うん、私が最後にアルの笑顔見た時がその時くらいだからね」


 俺もアルフォンスと仲良かった筈なんだけどな、と首を傾げるアゼルを置いておいてプリエラはギルドマスターに問いかける。


「1年前には既にギルドはうちのパーティーに依頼を出していませんでしたね?」

「うーん、どうだっけな……こっちもあんまり詳しいことは言えないだよねー」

「白々しい」


 プリエらはギルドマスターへの嫌悪感を顕にした。

 この事実は組織の私的運用と言っても過言ではない。

 しかし、その不正を誰に摘発するのが正しいのかが問題なのだ。


 トップが腐りきっているのならトップを誰が処罰する?

 貴族だろうか? しかし、ギルドマスターという立場は時として国を守る兵団となる。

 ギルドマスターの持つ権力は時として貴族を上回るものがある。

 なら、彼を処罰するのは国王か?

 そこにまで直接伝えて動いてもらえる信用と伝手があるなら、さっさとギルドなんて止めた方がいい。

 その伝手を利用して王国騎士団に入団した方がいいだろう。


「こんな場所早く出ましょう」

「そうだな」


 さっさとギルドを後にした3人について後を追う2人。

 ギルドを出てやることがなくなった彼らの前には1人の初老が立っていた。


「失礼、君たちは『アルストロメリア』の方々かね?」

「あなたは?」

「私はチャーリーン=ホドル辺境伯の使いの者だ。君たちに依頼がしたい」










「アルが手を回してくれてて助かったね」

「そうだな、アル様々だわ」

「全くアゼルは今度あった時はアルに謝っておいてくださいよ」

「……悪かったよ」


 あれから1ヶ月程時間が経った。

 『アルストロメリア』はアルフォンスが今まで伝手があった貴族たちに手を回してくれていたお陰で仕事が入ってくるようになり、何とか元の形にまで落ち着いている。


 今も依頼で大きなグリフォンを狩った帰りだ。

 アルフォンスがいた時とは違い、狩ったモンスターが死体が残り素材となる為持って帰らなければならないが、苦労の分だけ前よりも稼ぎが増えた。


 先々進んでいく、3人について新人2人が連れたって歩いている。


「いやー、やっぱ先輩方強いっすね。流石Sランク!」


 そう軽く笑いながら自身と同期である魔術師の青年に話しかけた。しかし、壁役の青年の言葉に応えず何かを考え事をしていたのか集中も散漫だ。


「どうした大丈夫か?」

「……いや、なんでもない」


 心配した壁役の青年が魔術師に声をかけるが、適当に相槌を打って話は終わる。

 気を使って心配する壁役の青年を横に魔術師の青年は前を並んで歩く、女性2人を澱んだ目で見るようになっていたのには誰も気が付かない。



 崩壊の歯車は少しづつ芽を見せ始めていた。

次は恐らく、#4.1の差し替え版になると思います



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ