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#.17 暗闇

 小さなランタンの細い光だけが小さな一軒家一つ分はある大きな部屋の中を照らしていている。薄暗い空間に並べられた檻を中から叩く音がする。


 ゴブリン、小鬼とも呼ばれている魔物だ。

 それは人型の形をしていたが少なくとも緑色の肌が指し示すのはそれが人ではないということだ。耳は尖り、体躯は小さい。

 しかし、普通のゴブリンとは違うのは違い檻の中にいたゴブリンの体表にはどこか赤みが混じるような色。それはまるでオーガのようであった。


「うるさいわね」


 その魔物が檻のすぐそばにいた白髪少女に一瞥されただけで震え静かになる。その容姿は酷くラシェルに似ていた。


「そうねお前にしましょうか」


 檻の中の側面に縛り付けるように魔素で構成された鎖の魔術を使うと、ゴブリンを磔にする。

 確かに彼女は魔術を使った。

 だが、それにしてはおかしな話で魔法陣を使った痕跡もなければ、短絡展開によって魔術を構築するという工程を挟んでいるということもない。


 そうして、彼女はどこかから血の着いた短剣を取り出した。かつてロディがアルフォンスに対して突き刺したその短剣から、血を1滴拭いとると少女は薬に混ぜてゴブリンの口に放り込んだ。


「グギッガゥガガガ」


 その瞬間、ゴブリンの内側から破られるかのようにして皮膚が裂け始めゴブリンの体からもっと純粋で真っ赤な皮膚が飛び出してくる。

 その様は蛹が蝶になる羽化のようにも見えただろう。


 数分もしたとき、檻の中に居たのは小鬼ゴブリンなどではなく大きな体に頭から角が伸びる純粋な大鬼オーガだった。


「理論は正しいと証明された。勇者の持つ破壊の性質には復元力が働く」


 魔物と魔王、そしてそれを排除する勇者の力というシステムのみだ。

 ただ、破壊されて台無しにされたら困る神はそこにひとつの性質を加えた。


 システムを破壊する勇者の性質には常に破壊されたシステムを復元する性質が備わっている。


「無尽蔵に溢れた魔力が器を壊すことに勇者の性質を加えることで、復元力は新たな器を形成する」


 使える魔力はそのまま力になる。だけど、無理矢理取り込んだ魔素には体が耐えきれない。

 後付けの力を支えるのは種族という器だ。

 単純に力を取り込むだけでは種族の壁は越えられない、器が壊れるだけ。


「やっぱりただドーピングするだけじゃ駄目だったわね、それじゃあ種族の壁を越えさせることは出来なかった」


 それをシステムを利用することで超えた。

 勇者の――アルフォンス=レッドグレイブの血が器を壊したから。


「好きに行きなさい」


 少女がオーガを檻から放つと、オーガは少女から少しでも離れようと部屋から見える光に向かって走っていく。


「よかったのですか? 情報を外に逃がすような真似をしても」

「用済みになったのにあんなのを家に置いておくのにも限界があるわ」

「そうですね、ハイ」


「それに用もないのに檻に閉じ込めるくらいなら、外に出た方が良いに決まってるじゃない」


 少女はオーガが逃げ去っていった先を見ながらそう言うと、少女に言葉を返した人間に向き直る。

 そこには学院の校長である小太りのおっさんがそこにはいた。


「あなたの夢もようやく叶えて上げられそうね」

「私なんて滅相もない。お嬢様の夢が叶えられたときには勝手に叶っていますので、ハイ」

「そういう訳にもいかないわ、約束はしたもの」


 校長の目にあるのは純粋な知的好奇心。

 そうなってみたい、そうありたいというただの願望がそこにはある。

 彼女は校長に向かって微笑んでみせた。


「あなたに人を超えた先を見せる、あなたに勇者を殺させるって」

「それが私とあなたの契約でしたね」


 少女は軽く頷くいて自身の首にぶら下げたブローチを開く。そこには1人の初老に頭を撫でられ、笑顔の少女の姿がそこには写っている。

 写真を見ながら少女は呟いた。


「もうすぐよ、もうすぐ叔父様の仇は私が取るから」


 少女の名前はラーナ・ナッシュ。

 ラシェルとアルフォンスが潰した、ナッシュ家の分家の1つだ。


1日休むと見えてくるものがあります。

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