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I were わたしは私たちです  作者: 菊池一心
9/23

9.

 「ねえ、何で来てくれなかったの?」

 それが夢の中だと分かったのはもう二度と会うはずのないその人が俺の目の前にいたからだった。

 「ねえ? なんで?」

 その夢は、もう何か月も見なくなっていたものだった。何か月も俺を蝕み、そして突然嘘のように見なくなった夢。

 「ねえ? なんで」

 三度問いかけられる。

 それはどうしてか。雪で道が混んでいたから? 

 妹に頼まれごとをしたから?

 そもそも何で俺は遅れていたのだろうか?

 ポケットの中に何かあることに気が付いた。それは少しばかり値段を張るネックレスだった。

そうだ。確かこれを取りに行って。

あれ? そしてどうしたんだ。俺は取りに行ってどうしたんだ。

 耳元で救急車と警察車両のサイレンの音が鳴る。ピーポーと気の抜けるような、そのくせ何かが起こったことを素早く知らせる聞き慣れたくない音がする。

 何かが起こった。

何が起こった?

 「おい、誰か轢かれたみたいだぞ」

 「早く、血が、血が止まらない」

 「近づかないでください」

 「おい、意識がない。こちら、○○駅前アーケードにて、乗用車に女性が轢かれた。女性の頭からの出血を確認、意識がない模様。その他外傷あり。乗用車に関してはアーケード街の建物に衝突し停止。中の人物もケガしている模様。応援頼む」

 「大丈夫ですか? 大丈夫ですか?」

 警察と思われる人が誰かに連絡している姿を見る。意識がないと分かっていながら、それでも呼びかける救急隊員の姿。

 叫ぶ人の声、サイレンの音、怒号が飛び交う。

 


 意識が暗転する。

「ねえ? なんで」

 「ねえ? なんで遅れたんだよ!」

 二人の女性の声が聞こえた。

 一人はさっきまで倒れていた女性。どうしてと疑問を投げかけるような声。

 もう一人は黒い、真っ黒の服、まるで喪服のような服を着た女性の泣き叫んでいるような怒鳴り声。

 

 「「ねえ? なんで」」



 「ねえ? お兄ちゃん?」

 「う、うわぁ」

 気が付くとそこはいつもの俺の部屋で、前にはアリスがいた。

 「お、お兄ちゃん、大丈夫? どうしたの? なんか苦しそうだったよ」

 アリスはそう心配してくれる。

 「あ、いや、なんか嫌な夢を見ただけだよ。もう大丈夫。心配してくれてありがとう。まだ、夜だろ? まだ寝てていいぞ」

 「そうだね。それじゃ、お兄ちゃんもちゃんと寝てね。……おやすみ」

 そう言うとアリスは部屋から出ていく。最後に何か言いたそうにしていたが何も言わなかった。時計に目を向けると針は午前二時を指している。まだまだ深夜と言っていい時間だ。

 「何で今更、この夢を見たのか」

 昼間に久しぶりにあの話をしたからだろうか。

それとも……。

 考えたところで答えなんか出ないことが分かっているのに考えてしまう。

 夢のはずなのにどこか現実感があった。いや、片方は本当に現実で言われた言葉だった。

 「ほんと、どうすればいいのか」

 誰か答えが分かるなら教えてくれ。

 

 「死者に謝る方法」

 口に出してそんなものあり得ないことを求めていることに気づいてしまった。

 それは、二次元の世界だけの話だと切り捨てる。


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