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I were わたしは私たちです  作者: 菊池一心
8/23

8.

 明けて月曜日、アリスが来てからもう数日が経つ。

 アリスにとっては、転入先での初日だが、俺にとっては何の代わり映えもしない大学のある月曜日だ。

 いつも通りに学校まで来て、いつも通りに講義に出て、いつも通り冴えない友人とそれほどおしゃれでもない食堂で飯を食う。

 「それで? はとこの女の子が居候していると」

 向かいの席に座った宮本はそう言った。

 「ああ、そうだよ」

 俺はそれを肯定する。その態度が気に食わないのか、フンと鼻を鳴らしながら、宮本が続ける。

 「それはお前の中の妄想の話か? それともゲームの話か? どっちだ?」

 「現実の話だよ。そんな妄想するわけないだろ。ほら、これだよ。昨日妹とその子と三人で買い物したときの写真

 携帯に写っているのは、昨日買い物したときにカナとアリスが笑顔でピースしている写真だ。昨日はアリスに必要なものを買うために街中まで出て、色々と付き合うことになった。

 「げ、現実は小説より奇なりってこういうことを言うのか」

 「お前マジで、信じてなかったな」

そうそう聞くことのないことわざをわざわざチョイスしてくるあたり、本当に信じていなかったようだ。

 そういえば、俺に妹がいると言った時も、一切信じていなかったな、こいつ。

 「それにしても、人形みたいな子だな。それも日本人形みたいだ。おとなしそうな子だな」

 「日本人形ね。人は見かけによらないっていうけど。俺を引っ張りまわしてグロッキーにさせるくらいの体力馬鹿だぞ、そいつ。妹と一緒になるとなおさらひどい」

 ふーんと、目の前のそいつは聞き流した。一切信じていないようだ。

 軽口上等の目の前の男、大学に入ってから腐れ縁の宮本と昼食をとっていた。俺はカレーで、あいつは麺類。

 同じ学部でたいてい同じ講義を受けているのだから時間割も同じになる。

 「それにしても、ね。はとこが居候かい。そりゃ、どこのラノベか、エ○ゲーかって話ですよ」

 「おい、その発言、通報しても良いか? ラノベは百歩譲るとしても、エ○ゲー発言は見逃せねーな。おまわりさんこいつですってやっても良いか?」

 そう言いながら、右手に携帯電話を用意する。不用心な言葉を言ったが最後、目の前のこいつは警察のお兄さんたちにお世話になる。

 「やめ、やめい、悪かった。その右手に持っている携帯で110番をするのは、やめろ。」

 そう言われたから仕方がなく、携帯を机に置く。

 お互いにジョークだと分かっているから、そんな軽い会話になる。やはり、会話には軽いジョークが必要だな。

 「軽いジョークになってねーぞ」

 「ん? 何か言ったか?」

右手に携帯を構える。

 「分かった、分かった。とりあえずその右手の物を机の上に下ろせ」

 「分かればよろしいのだよ、分かればね」

 「はあ、それで、そのはとこちゃんはなんでお前の家に居候することになったんだ? なんか理由があるんだろ?」

 「あ、まあ、そうだな」

 「……聞いた俺が悪かったわ。なんとなく分かったし、お前にとっての厄ネタなことも分かった」

 俺の様子を見てなんとなく察しがついたのか、渋い顔をしながら、そこで聞くのをやめてくれた。

 「いや、悪い」

 「悪いなんて言わなくていい。お前はお前なりに苦しんでることは知っている。それにお前の様子からなんとなく分かったしな。それで? 俺にこういう話をするってことはなんか頼み事でもあるのか?」

 「いや、特にないけど」

 「そうかって、おい! 何ではとこちゃんの話したんだよ」

 「これから、お前が俺の家に遊びに来た時に驚かないように、前もって言っておこうと思っただけだよ。どうせ、言わなかったら、このくだりを家ですることになるだろ?」

 「そういうことですか。分かったよ。まあ、なんかあったら話せ。話くらいなら聞いてやるから。あと、それといい加減、櫻井とも腹割って話しとけよ。このままじゃ瑠璃ちゃんが浮かばれねーからな」

 「ああ、分かってる」

 「ほんと、分かってるけど、行動に移せねーって顔してるぞ」

 思っていたことをピンポイントでズバリと言い当ててくる。

 「まあ、それも分かってたことだけどよ。このままだと本当にあれだぜ。瑠璃ちゃんに顔向けできないぞ」

 「分かってるよ。それくらい」

 もうすでに顔向けなんてできないし、二度と顔を見ることもないことくらい自分でも分かってる。

 「ほんと、こじれてるよな、お前ら」

 本当に呆れたようにそう宮本がつぶやいた。







 「それで学校の方はどうだ?」

 「うーん、勉強の方は問題なかったし、カナちゃんと同じクラスだから何とかなりそうだよ」

 「そりゃよかった」

 家に帰ると既に帰宅していたアリスとカナがいた。どうやら、学校の方も問題ないみたいだ。

 「そういえば、アリスはあっちの学校では何部に入っていたんだ?」

 「え? 部活やってなかったよ」

 「あれ? うちって部活強制だったよな?」

 俺とカナは同じ中学校出身だからこそ分かるが、俺の母校は確か部活強制参加だったはずだ。

 「それじゃあ、カナちゃんと同じ部活でマネージャーやろうかな? あまり、今からやってもうまくやれそうにないし」

 「そうだね、私もアリスと一緒にやりたいし、部活の人たちも良い人たちだから大丈夫だよ」

 キャッキャと二人で盛り上がっているようだ。しかし、アリスの言葉に少しばかり違和感も感じた。

 「アリス、うまくやれそうにないってどういうことだ?」

 「……お兄も鈍いですね、そんなの人間関係以外に何があるんですか」

 妹の指摘にようやく違和感に対しての回答を得られた。それと同時になんとなく人間関係の怖さを感じた。

 「大学の人間関係よりも複雑そうだな。女子の人間関係って」

 「そんなの当たり前じゃない。女の子は大変なんです。それこそ、一回変な関係になったら、関係修復が難しいんですからね」

 そんな妹の言葉にいまだに関係を修復できていないあいつの事が浮かんだ。


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