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I were わたしは私たちです  作者: 菊池一心
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6.

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「いやー、ひとまずよく来たね。遠いところお疲れさま。今日はアリスちゃんの歓迎会をしようっと思っていろいろ買ってきたよ」

夕方になり、両親や妹が帰ってきた。誰も彼も最初の言葉は似通っており、大体こんな言葉だった。定型句のようなその言葉だったが、アリス自身にとってありがたいものであったようだ。

そのあとは肩の荷が下りたのか、この家に慣れたようにその快活さを存分に示していた。

 気が付けば、久々に再開した妹とキャッキャと盛り上がりながらガールズトークを繰り広げている。

その間も俺はせっせと部屋の片づけをしていた。

 


 ようやく腰ほどまで積み上げた本の山が無くなったところで、ガールズトークに勤しんでいた妹は、ひょこりと俺の部屋に顔を出す。

 「お兄、そういえばお土産はなに? どこにあるの?」

 どうやらお土産をご所望のようだ。

 「ああ、お菓子だよ。お菓子とか重ねているところあるだろ。そこに全部置いてあるから食べていいぞ。お前は色気より食い気。花より団子だろ」

 最近の流行などガン無視に食い気に走る部活中心の妹。

 ホントにそんなでいいのかと問いたくなる。

「えー、なんか形に残るものがよかった!」

「いや、お前は食べ物のほうが喜ぶだろ」

お兄ちゃんはそういう君の性格を理解しているからお土産にはお菓子やご当地の美味しいものを持ってくるのだぞ。ついでに買う前に試食して本当においしいものだけ買ってきている。まずかった日には、一日機嫌を損ねかねない。

少し悩んだ素振を見せるが、奴の答えは最初から決まっている。

 「そうだね。やっぱりおいしいものほうがいいや」

 妹はあっけらかんと言う。まぁそんなものだ。

おしゃれにもイケメン俳優にも興味がない。好みはしいて言えば、農家からバンドまでやる某グループとおっさんと言っても差し支えないようなアイドル軍団の格闘専門家。

一応アイドルを押しているのだが、どこか同世代の女子とは話がかみ合わない様な好みをしている。

 「さすがだな。というか一貫してるな。ほれぼれするぐらい」

 呆れと皮肉とほんの少しの尊敬を込める。だが、構成要素の九割は、こいつ女捨ててるのではないかという呆れだ。

 「おーい、アリス。こいつに関わるとこんななんというか男らしい(?)女になるぞ。気を付けろ」

 妹への挑発も忘れずにする。

 「なんでよ。お兄。一応これでも女の子だよ」 

 そう言いながら、ポーズをとるが、如何せん言っている相手が色気より食い気の食の伝道師だ。

 どの口が言っているのかとツッコミたい。

こいつを毎朝起こしている俺だが、こいつの寝相やその他もろもろは女子としてアウトの部類であろう。一度、こいつの寝相やらを写真に収め、こいつに見せたことがあるが、本当に驚いていた。自覚なしかよ。

「だけど、カナちゃんはスタイルいいよね」

横からひょっこりと出てきて、口を出してきたアリスはそのまま妹の背中に飛びつく。

「ちょっと、後ろから抱き着くな」

「いいじゃん! いいじゃん!」

そのまま背中に張り付くとコアラのようにがっしりとしがみつく。

突然始まった百合百合タイム。背中やおなか周りを互いにくすぐりあって笑い転げている二人。

百合百合しい二人は置いておくとして俺にはやらなくてはならないことがある。

それは掃除である。

さすがにこのままでは本当に足の踏み場がなくなるかもしれないという恐怖感が襲ってきた。

ある程度片付けたとは言え、アリスが置いていった本により部屋は一段と狭くなっていた。このままでは、本当に埋もれる。

本に埋もれて……う、埋もれて……

あ、それでもいいかも。本に埋もれる幸せか……。

ありかも。

「お兄ちゃん、ちゃんと片付けてくださいね」

「あ、はい」

はとこはエスパータイプなのかもしれない。





 

夜の九時を少し過ぎたころ。ようやく部屋の片づけが終わり妹衆からこれならよしと合格を頂いた。

戻ってきたリビングルームのそこには、俺と親父の二人だけ。妹とアリスは二階で今頃持ってきた荷物の整理をしているころだろう。母親も空気を読んだのか一緒になって、妹の部屋で荷物の片づけにいそしんでいるころだろう。世話焼きの妹と母親のダブルパンチでさすがの元気娘も今頃たじたじになっているのかもしれない。

親父の対面にテーブルをはさんで座る。親父の前には、母親が作った酒のつまみと日本酒がある。俺の手元にも、親父と同じつまみ。

「つうわけで、今日も仕事お疲れさま」

「そっちもお疲れさま。酒でも飲むか?」

「いや、遠慮しておくよ。明日もあるからさ」

酒のつまみをつまみながらの会話。親と子の会話の割にはあまりたどたどしくぎこちない。

だが、男同士こんなものなんじゃないかと勝手に考えてそれ以上考えるのをやめる。

「それで、改めて聞くけどあっちの状況はどうだった?」

あっちというのは、アリスを預かっていたおじさんたちの事だ。

 「おじさんたちは元気だったよ。まあ、アリスの元気の良さにかなり参っていたみたいだけど」

 「そうか、もう少し早くうちに来てもらっても良かったんだけどな」

 「そこらへんは仕方ないだろう。あっちの学校が終わってから来る予定になったんだから」

 本当なら、アリスはもう少し早くうちに来る予定だった。だけど、アリス自身の意向であっちの学校が修了式を終えるのを待つことになった。



それに本当の事なら、アリスはうちではなくもっと近い親戚のもとに行く予定だった。

 「アリスちゃん自身が「うちが良い」って言ったかららしいけどね。まあ、同い年の子がいるところの方が良いってことだろう」

 親父はそんなこと言う。

 「そうだな。カナもアリスと仲が良いし、おじさんたちの家には子供いないしな」

 おじさんたちの家には子供がいない。いたにはいたが、もう成人して家を出ているし、それも男だ。そうなると同年代の同性の話し相手がいないということになる。

 アリスがアリスのままなら学校でも友達くらいはできそうなものだが、あの子の求めているものは違うような気がする。

 家族のように、姉妹のように、ふるまえる相手が欲しかったんじゃないかって、そんな気がするのだ。

 「あいつも寂しがりやなのかもな」

 「そりゃそうだろ、両親が突然いなくなったんだから」

 いなくなった。

 中学三年生の少女が負うにはあまりにも重いことだった。


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