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I were わたしは私たちです  作者: 菊池一心
3/23

3.

 駅から約三十分。それが駅から俺の実家までの距離、と言っても、タクシーという文明の利器を利用した場合であるが。

 閑静な住宅街と言えばそこらへんにある家を思い浮かべてもらえるだろう。近くに学校があり、大型の商業施設がある。そんな便利なものが近くにある人口数万人程度の町。大きな都市の近くにあるためかベッドタウンという社会科の用語が頭に浮かぶような典型的な場所。そんな街の一角、その中の二階建ての一軒家。少しばかり庭が広い家。

 和風の家というわけでもないそこらにある同じような家と同じような少し洋風の家。

平凡という言葉が似合うであろうその家の前にタクシーは停まった。

「先に降りて、後ろから荷物を下ろしてくれないか」

「はーい、分かった」

元気に返事をし、ありすがタクシーから降りるのと同時に先に降りたタクシーの運転手がトランクを開ける。

開けてもらったタクシーのトランクのそこから彼女は荷物を下ろす。

 「それ家の中に運んでおいてくれ。はいこれ、鍵ね」

 俺もカギを手渡すためタクシーから降りる。

「はーい」

三十分前まであれほど眠いと言っていた、そして俺の背中で熟睡していた少女はきびきびとした声で返事を返す。なぜあれほど元気なのか?

 いや、しっかりと眠ったおかげで、今元気なのかもしれない。彼女はポケ○ンのように眠ると体力が回復するのかもしれない。

下ろした荷物を意気揚々と肩に掛けると玄関まで駆けていき、俺の渡した鍵で開けると、そのまま家の中へと消えていった。

 「すいません、いま払いますんで」

 そう言って、使い古した財布をポケットから取り出す。

 「お兄ちゃん! どこに置けばいい?」

 タクシーの料金を払おうと財布に手を突っ込んだところで家の中から声が響く。

 「とりあえず玄関に置いておけばいいよ」

 分かった、という元気の良い返事が返ってくる。

「お嬢ちゃん、元気だね」

 人の良さそうな恰幅のいい運転手はそんなこと言いながら、俺の渡した金を計算する。

 「そうですね。ほんと元気なんですよ、あの子は」

 相槌を打つ。少しばかり苦笑いをしながら。

 「いやー、それにしてもあんなに話し続けるとはね。はい、おつり。間違いないか確認お願いしますよ」

 少し苦笑いを浮かべータクシー運転手ってもんはしゃべることも仕事なのに負けちゃったかなとつぶやく。

 「いや、あれは少し浮かれて口が軽くなっているだけですよ」

 「そうかね?」

 「ええ。実際まだ眠くて、少しテンションがおかしいだけですよ。今朝もかなり早かったので」

タクシーの運転手は、乗り込んできたときの俺とアリスの状況を思い出したのか少し苦笑いを浮かべる。

乗り込んだとき俺は、両手に荷物を持ち、背中には少女を乗せているという何とも面白い姿であったのだ。どこの山を登山してきたのか、というかおまえは何者だ、というツッコミを食らいそうなものだった。

だが、タクシーの中で眠りから覚めた少女は先ほどまで眠っていたとは思えないほど喋った。そう喋り尽した。

俺も運転手も苦笑いを浮かべるしかなかったのだ。


「それにしても君もあの子も大変だね」

 それは彼女が口にしたあることへの言及。ちょっとした事情についてのもの。

「そうですね。だけど彼女自身はこの生活を楽しみにしていたみたいなんでね」

 そうかい……と、そうつぶやくと名の知れない運転手はタクシーへと乗り込む。

 今後もうちをごひいきにーそう口にするとタクシーはゆっくりと動き出し、数秒後には坂を下り見えなくなる。

 「あれ?タクシー行っちゃった?」

 「ああ、次のお客さんのところに行ったみたいだよ」

 「そっか、残念。お礼言おうと思っていたのになあ」

 仕方ないか、そうつぶやき、また家の中に戻っていく。

 「さてさて、俺も手伝うとしますか」

 気を入れるために癖になっている独り言をつぶやく。いつからだろうか? 

独り言が癖になったのは?

 いや、ホントいつからだろうか?

 「お兄ちゃん? どこに物を置けばいいか分からない。教えて」

 「今行く」

 短くそう答えて、俺は家へと戻る。今日から元気のいい少女とともに暮らすこの家に。


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