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I were わたしは私たちです  作者: 菊池一心
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20.

20

 最初の一週間はほとんどベッドから動くことができなかった。それでも、かなりの勢いで車と衝突した割には、内臓へのダメージもなく、外傷がひどい程度で済んでいた。

 背中に裂傷、左腕の骨にヒビ、そして、足の骨折。受け身がよかったのか、それとも当たり所がよかったのか。痛みはあっても、我慢できる程度の痛みで済んだことを幸運に思った。

入院生活も一週間と、二週間と過ぎていくと、それだけでやることがなく暇になる。ただでさえ動けないため、本を読むことに費やしていたが、それも時間が経つと妹が持ち込んだ本のストックが無くなり、手持無沙汰になる。

 「おいーす、調子どうだ?」

 そう言いながら、現れたのは宮本だった。

 「なんだ宮本、学校はどうした?」

 「今日は講義が少ない水曜ですぜ。なんだ曜日感覚まで狂ってきたのか」

 「仕方がないだろう。ここにいると曜日の感覚がおかしくなる。今日が何曜日なのかなんて気にしなくなるよ」

 「そうか、そうか」

 そう相槌を打ちながら、宮本は部屋の外に目線を向けた。

 「? 誰かいるのか」

 「そうそう、今日は特別ゲストが来ていますよっと、早く入って来いよ」

 宮本にそう急かされた相手は、ドアの陰からすっと顔を出した。

 「櫻井、来てくれたのか」

 少し申し訳なさそうに入ってきた。

 俺が一方的に謝って、それで櫻井を不快にさせて、それを宮本に指摘されて。

 だけど、そのあとに話し合う機会もないままに俺は突然の入院だ。

 彼女としても、俺に会うのは居心地が悪かっただろう。

 だけど、俺の前で笑っている男の前では、そんなこと許されるわけもなかったわけだ。

 「俺一人だと、何とも華がないなって思ってついてきてもらった」

 「ついてきてもらったってよりは連行してきたんじゃないか?」

 「大丈夫だ。同意の上だ」

 「その割には、なんとなく櫻井の居心地が悪そうだけど。まあいいや、来てもらったんだ。俺はベッドから動けないけど、まあ、くつろいでくれ」

 ああ、と返事をすると、ベッドのわきにおいてあった簡易椅子に宮本が座る。

 「櫻井も座ったらどうだ?」

 宮本にそう言われて、櫻井も同じようにベッドのわきに椅子を置いて座った。

 「さて、見舞いが目的なのはそうだが、それ以上に俺はこの状況をどうにかしたい」

 最初から目的があったのか、宮本はそう言う。まあ、このメンツが集まって何にもない方がおかしいかもしれないけど。

 「お前ら二人だけだと、互いに行き違うことをこの間理解したからな。今度は俺が間に入って話をしよう」

 宮本が宣言して始まった話し合いはアリスが来るまで続いた。

 


 「キー君、なんか悩みが解決したみたいな顔してますね」

 宮本と櫻井が持ってきた見舞いの品を片付けながら、アリス、いやキー君と俺を読んでいるから瑠璃のほうか、がそう言う。

 二人でいるときは半々で瑠璃とアリスだった。今日は瑠璃が表に出ているようだ。アリスも数週間が経ち、ようやく落ち着いてきたのか以前の快活さが表に出るようになってきていた。

 「まあ、すこし掛け違えてたボタンをようやく直せたって感じかな」

 櫻井と俺、もう一年とちょっと。掛け違えていたそのボタンは宮本のおかげでようやくもとに戻った。

 けど、掛け違えたボタンは直っても、俺たち三人はこれからも歪なままだろう。

 四人組が無理やり三人組になったところで歪みは直らない。だけど、そんなことを目の前のやつに言えば、そいつは確実に自分を責めることになるだろう。

 だから、歪でもこれで良いんだとどこかで納得した。

 「そう、よかった」

 彼女はそう言って、笑うのだった。


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