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I were わたしは私たちです  作者: 菊池一心
16/23

16.

16 幕間

 ……どうしてそんな顔をしているのだろう。

 



 家に帰ってきた彼は何か問題を抱えているようなそんな顔をしていた。それがどんなことかは分からないけど、なんとなくそのまま顔でいて欲しくはなかった。

 もう一人のわたしが、彼を案じているのが分かる。

 「さっきのお兄はなんか変だったね」

 カナは祭りの話をしているときのお兄ちゃんの様子について言う。

 「お兄は祭り好きな癖にここ最近は行ってないんだよ。一緒に行こうって誘ってもいいよ、カナが楽しんで来いなんて言うし。だから、あんなに素直に行くって言うのは久しぶり。ホント、久しぶりに見たよ」

 カナが感じた違和感は私の感じたそれとは違うみたい。

 それでも、なんとなくいつもとは違うということは分かった。

 「あんなにわざとらしく笑っているのは、お兄らしくない」




 カナの言葉にわたしが反応した。言葉にできなかった違和感が形になってわたしの前に現れたのだ。笑顔にならない笑顔。作り笑いが下手くそなのに、それでもその下手くそな作り笑いでどうにかその場をしのごうとする。

 彼の嫌いな一面を思い出した。

「またそんな風に笑うんだ」

そんな風に笑うことになった原因は何だろう。その相手が許せない。

彼には、いつも通り能天気に笑っていてほしいだけなのに。

それを台無しにする人が許せない。

「アリス、顔こわばってるよ」

こわばってる? 

そう言われて、無意識に頬に手を添えた。思っていた以上に顔に力が入っていたようで、頬が硬い。

「そんな顔したのは、お兄のせい? それとも私のせい?」

「カナちゃんのせいじゃないよ」

申し訳なさそうに言われて、こちらも申し訳なくなった。わたしは彼の事になると周りが見えなくなる。前から知っていたのに、いまだに直せない癖だ。

……たぶん、いつまでも直せないままなのだろう。わたしの一生はもう終わっちゃってるし。

私は冷静でいようとも、彼女がそれを許してくれない。

「アリス、ほんと大丈夫?」

カナは心配そうに私に声を掛けてくれる。

「大丈夫だよ」

私自身に言い聞かせるように小さくもう一度つぶやく。

大丈夫。

私は大丈夫。

わたしは大丈夫。


だからね、お兄ちゃん。そんな風に笑わないで。


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