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セルジオ王子の場合。-3-

***前回のあらすじ***

アメリアは自由だった。貴族として当たり前と過ごして来たセルジオにとって、アメリアは新鮮に映った。気づけばセルジオはアメリアのペースに飲まれていく。

 「アメリアが?」


 私は侍女の言葉に耳を疑った。


「ええ。元々あまり良くない噂は聞いていましたが、あの方婚約者の居る方やご年配の方まで手当たり次第に声を掛けて仲睦まじくなさっているそうですわよ。つい先ほども公爵家のご子息と腕を組まれてお庭を散歩なさっておいででしたわ」


 私は胸がざわついた。アメリアは私を好きだと言った筈だ。私は公務を投げ捨てて、アメリアが公爵の子息と居たという庭へと向かった。


 美しく整えられた庭に、アメリアは居た。侍女の言った通り、四阿(あずまや)のベンチに並んで腰を下ろし、アメリアは子息の腕に自分の腕を絡め、楽しそうに笑っている。私は足早に2人に近づくとアメリアの腕を掴んだ。公爵子息が慌てて立ち上がり、深く頭を下げて来る。


「ちょっとセルジュ、何よ。腕が痛いじゃない」

「アメリアどういうつもりだ? お前は私が好きだった筈じゃないのか」


 私は公爵子息を無視してアメリアの腕を掴んで四阿(あずまや)から離れ、アメリアへと向きなおった。アメリアは一瞬きょとんとした顔をしてから、私に挑む様な目を向けて来る。楽し気に笑いながら。


「だってセルジュは公務が忙しいんでしょ? 忙しいのは仕方がないわね。 でもそれはセルジュの都合でしょ?何故私がそれに合わせなきゃいけないわけ? セルジュが忙しいなら私は他の人を代用するわよ。寂しいのは嫌だもの。あなたの事は愛してるわよ? 愛してるから寂しいのが辛いんじゃない。あなたが公務を仕方がないというなら私が他の人とデートするのも仕方の無い事よ。お互いさまでしょ? やきもちを妬くくらいなら私が他に靡いてしまわない様にしっかり捕まえておけば良いのよ。あなたが公務よりも私を大事にしてくれたら私だって他の人とデートなんてしないわ」


……なるほど。確かに私は忙しくて中々時間が取れないのは事実だ。その為に寂しい想いをさせて居る事も判る。何処か釈然としないのは、私の我儘だ。


「判った。もう少し時間を取れる様に努力をしよう」

「だからセルジュ好きよ! 愛してるわ!」


 アメリアが満面の笑みを浮かべ、私の首に抱きついてくる。全てにおいて彼女は自由で真っすぐだった。

 私は彼女の様になりたいと思った。自分の考えをしっかりと持ち、流されない強さが欲しかった。ただ周りに言われるままに生きて来た私にとって、彼女は余りにも眩しすぎて、私は目が眩んだのだ。


***


 フェリに逢うのは随分と久しぶりだった。いつもアメリアに声を掛けられ、アメリアを優先してきたから。何度かフェリから会いたいという趣旨の手紙を貰ってはいたが、私はアメリアに逢いたかった。彼女は少しでも私が時間を取れずにいると、他の男と親しくなっている。私は彼女がそのうち誰かに取られてしまうのではと酷く焦っていた。フェリに回す時間を作るくらいなら、アメリアが他に行ってしまわない様に彼女の為の時間を作るのに必死だった。

 フェリの事は長い事放っておいてしまったから、彼女も気分を害しているのではと思ったが、アメリアの不評が高まっている今、早急に対処をしなくては。

 私は久しぶりの訪問ともあり、フェリに使いを出した。突然の訪問では彼女も困惑するかもしれないと思ったからだ。庭に用意されたお茶の準備に、私は少しほっとした。

 彼女は変わらず、静かな笑みで私を出迎えてくれる。

 少し会話を交わしたが、彼女の話は相変わらず公務に関する様な話ばかりだった。時折庭の薔薇が咲いただの他愛もない話題もするが、面白い話ではない。

 私は話題を変える様にアメリアの話を切り出した。


 途端にそれまで穏やかな笑みを浮かべていたフェリの顔が不機嫌そうになる。私はその表情に僅かないらだちを覚えた。彼女もまた、他の者と同じように言う。

 彼女ならと期待をしていたのに、彼女の口から出たのは他の者と同じ、貴族にはルールがある、彼女は余りに不躾で不敬だと。


 ……なんだ。この娘も、所詮はただの貴族の娘だったのだ。フェリならきっと彼女の気持ちを理解するだろうと思っていたのに。私の中で急速にフェリへの感情が冷めていくのを感じた。不愉快だった。こんなつまらない娘が私の婚約者だなんて。アメリアのいう事は正しかった。フェリは私を愛してなどいない癖に、貴族として相応しくないからと言うのか。貴族、貴族、貴族。ああ、つまらない。


 私は早々に席を立った。もう、フェリに逢う気持ちは浮かんでこなかった。時間を作る気持ちも、失せた。


***


 城は上を下への大騒ぎだった。

 隣国、カーフェルトの王が突然訪問すると言って来たのだ。それも寄りにも因って夜会の日にやってくるという。カーフェルトと言えば我が国に何度か戦争を仕掛けてきたことがある。戦争を起こした王が崩御し、新たな王が即位したのが3年前。前王に子は居ないと聞いていたが、隠されていたらしい。それからピタリとカーフェルト国は沈黙をし、かえってその沈黙が不気味さを増していた。野蛮な魔物の血を引くと言われるカーフェルトの王はどのような人物なのか。前王の代に領土を広げたカーフェルト王国は国としての規模は我が国よりも遥かに強大だ。断れるはずもない。

 3年の間国民の前に姿を現すことも無く、対応はいつも宰相がしていたという国の王。何故急に我が国への訪問を申し出て来たのか。


 けれど、私は内心少しほっとしていた。これでフェリのエスコートを断ることが出来る。こんな気持ちのまま、彼女のエスコートをする気になれなかったのだ。隣国の王の訪問の為となれば、其方を優先するのは当然の事。文句は言えまい。彼女は不服そうにしながらも、同意をしてくれた。けれど、彼女の不満げな顔が私を苛立たせる。こんなに、気に障る女だっただろうか。変わったのは彼女か。それとも私か。


 私は早々に彼女の許を後にした。その僅か後の事だった。後宮を出ようとした私を呼び止めたのはアメリアだった。


「セルジュ! 今宵の夜会、私もデビュタントなのよ。ねぇ、あなた私のエスコートをしてくれるでしょ? うふふ、素敵ね、舞踏会! 私とびっきりのドレスを用意したのよ。ダンスは得意じゃなかったけれど、お城の舞踏会なんて憧れだもの。がらにもなく練習をしたのよ、この私が! ファーストダンスを王子様と踊るなんてお伽噺みたいじゃない? わくわくするわーっ」


 流石に私は困ってしまった。カーフェルトの王の接待をするからとたった今フェリにも断りを入れて来た所だと言うのに、流石にそれは罪悪感を覚えてしまう。


「すまない、アメリア。今宵の夜会にはカーフェルトの王が来賓するんだ。私は彼の接待をしなくては」

「……あらそう。なら良いわ。他の人にエスコートを頼むから。前から求婚してきていた公爵家の子息なら直ぐにOKの返事を貰えると思うし。仕方がないから私は彼と初めてのダンスを踊るとするわ。彼の事は嫌いじゃないしそのまま彼と結婚になっても仕方がないわよね。だってあなたは王様の接待に忙しいんだもの。無理は言わないわ、頑張って頂戴。でも、貴方も所詮王族なのねぇ。私の事よりその王様の方が大事ならそうすれば良いわ」


 私は焦った。アメリアに求婚だと? とんでもない!アメリアが他の男のエスコートで夜会に出るなど、仲睦まじくファーストダンスを踊るなどと、嫉妬で狂ってしまいそうだった。


「待ってくれ、アメリア! 判った! 判ったから! 君のエスコートをしよう!」

「別に良いのよ。無理にしてくれなくても」

「違う! そうじゃない! ああ、愛しのアメリア。あなたのエスコートをする名誉をどうか私に与えて欲しい」


 私はアメリアの前に跪いた。その手を取って口づける。アメリアが満足そうに笑みを浮かべ、私はほっとした。もう、フェリの事など、私の頭から消えてしまっていた。

3話で終わる予定がアメリア嬢の勢いが止まらずまだ続いちゃう事に…(ガタガタガタ)も…もうちょっとだけお付き合い下さい;

頂いたリクエストは順次執筆致します。リクエスト頂きましたらお時間頂きますが、書かせて頂きますー。

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