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セルジオ王子の場合。-2-

***前回のあらすじ***

婚約が決まり、後宮へ住まう事になったフェリにセルジオは寂しくない様にと心を配った。フェリは黙々と妃教育に勤しみセルジオに対し頬を染める事も無い。そんな折、子爵が連れて来たアメリアと出会う。

「セルジュ様!」


 時間が取れたので、フェリに逢いに後宮へと向かっている時だった。セルジュ? 誰の事だろう。私が周囲を見渡すと、アメリアが庭から此方に駆けて来た。ドレスの裾を膝近くまでたくし上げて。

 私は驚いて顔が赤くなってしまった。ドレスをたくしあげ走るような令嬢は見た事が無い。思わず笑ってしまう。面白い娘だ。


「こんにちは、セルジュ様! ねぇ、お父様が街で評判の美味しいお菓子を届けてくれたの! 一緒に食べない?」

「セルジュと言うのは私の事かい?」

「ええ! セルジオ様ってなんか言いにくいわ。だから愛称よ。駄目?」

「いや、構わないよ。でも、私はこれから婚約者の所に行くところなんだ」


 私がそう断ると、アメリアはつまらなそうに首を傾げた。


「婚約者? ふぅん、セルジュ様婚約してるんだ」

「ああ。フェリーシャ=エンドールと言ってね。辺境伯のご令嬢だよ。私とフェリは幼い頃に婚約をしてね。親同士が決めた婚約者だよ」

「そう。で、セルジュ様はその子と約束でもしているの?」

「え? いや、たまたま時間が取れたから会いに行くだけだよ」

「ふーん。会いたいの」

「え?」


 私は考え込んでしまった。逢いたいかと問われれば、別に、としか答えられない。特に楽しい話題があるわけでもない。だが彼女は私の婚約者なのだから。定期的に逢いに行くのは義務だ。

 私がそう答えると、アメリアは挑戦的にニっと笑った。その笑みに私はどきっとする。


「それはとっても変ね!」

「変?」

「ええ、変だわ! だって逢いたいわけでもないのに義務で会いに行かなくちゃいけないだなんて滑稽よ。2人が愛し合っているなら判るわ。それは当然の事だもの。でもセルジュ様もその婚約者も別にお互い愛し合ってなど居ないんでしょ? 逢いたくて焦がれているわけじゃないんでしょ? なのに事務的に渋々会いに行くだなんて。そもそも恋は心が決めるものよ。親が決めるものじゃないわ。親が勝手に婚約者を決めてそれに従うあなたも変!」


 私は面食らってしまった。そうなのか? 恋などした事が無いから判らない。ただフェリが未来の奥さんだと聞いたからそうなのかと思っただけだ。逢いに行かなくてはいけないと言われたから会いに行くだけだ。言われてみれば、確かにこれはおかしいのかもしれない。


「ね? で? セルジュ様の気持ちは? 私はね、あなたとお茶がしたいわ。折角の美味しいお菓子だもん。あなたにも食べさせたいわ。本当に人気のお菓子なんだから!」

「私は……」


 私は。この娘と居ると楽しい。思いもよらない行動を取り、思いも寄らない事を口にする、私に対して対等に口を利くこの娘に、私は多分、惹かれている。


「私は、アメリアとお茶がしたいかな」


 フェリとの時間は、今度また作ればいい。彼女には、敵わない。私が笑うと、アメリアは嬉しそうに笑って私の腕にぎゅっと抱きついて来た。アメリアの身体はとても柔らかくて、私の胸はドキドキと高まる。


「やった! 嬉しい! こっちよ! 私の部屋行きましょ!」

「お、おい、結婚前の男女が部屋で二人と言うのは……」

「硬い事言いっこなしよ! お菓子を食べてお茶を飲むだけよ。変に勘ぐるだなんてその方がよっぽど嫌らしいわ。やましい事なんて無いでしょ? 気にしない気にしない!」


 満面の笑みを浮かべ、私の腕を引いて燥ぐアメリアに、私も笑って付いて行った。


***


 私が後宮へと向かうと、必ずと言って良い程アメリアが声を掛けて来るようになった。私が来ないかと庭で散歩をしながら待っているのだと言う。なんとも可愛い事を言う。

 私は彼女に声を掛けられるたびに、フェリとの時間を後回しにした。私自身、フェリと会う時間よりもアメリアと過ごす時間の方が楽しい。フェリと居ると、やれどこそこの村が飢饉に襲われているから援助をした方が良いだの、やれどこそこの街は素晴らしい土が取れる様だの、このお茶はどこそこから取り寄せた名産で売り込んでみてはどうかだの、まるで公務をしている様な気になってしまう。彼女は勤勉すぎる。アメリアと居ると、私は自分の心に忠実であっていいのだと思えた。


 何度かアメリアと二人で過ごす様になると、彼女は私を敬称無しに「セルジュ」と呼ぶようになった。私を敬称無しに呼ぶのは、父上と母上だけだ。それはとても新鮮で、大切な秘め事の様に思えた。アメリアは私を好きだと言う。私も彼女が好きだ。恋人同士の様に寄り添ってお茶を飲む時間はとても甘くて私を蕩けさせる。無防備に私の腕に身を寄せて、甘える様にすり寄ってくるアメリアはとても可愛い。


「私はね。セルジュが王子様だから好きなわけじゃないわ。セルジュがとても素敵で格好いいから好き。優しいから好き。あなたは私を否定しないし面白いと言ってくれるから好きよ。後宮ってつまらない所ね。皆私を不躾で不敬な娘だと言うわ。でも私、間違っているとは思わない。敬う気も起こらない相手をただ身分が上ってだけで敬うふりをするのも、好きでもないのに結婚を強いられるのも、歩き方から食事の仕方まで決められているのも私に言わせれば滑稽でしかないわ。私は好きだと思えばそういうし、嫌いなら嫌いだと言うわ。自分の心に従っているだけ、それの何が悪いというのかしらね。可笑しいのは貴族って社会よ。ねぇセルジュ。あなた王子様でしょ? こんなおかしな体制、あなたが王様になったら変えてしまったらいいわ。皆もっと自由に生きるべきよ」

「ああ、そうだな。うん、私もそう思うよ、アメリア」


 アメリアの言葉はとても嬉しかった。アメリアは私を王子としてではなく、私と言う一人の人間を見てくれる。私の気持ちを尊重してくれる。彼女の言う様に、この堅苦しい貴族社会を変えることが出来たらどんなに素晴らしいだろう。誰もが自由に生きれる、誰もが平等で居られる世界。それを想うとわくわくとした。けれどアメリアは後宮で孤立をしてしまっているらしい。

 既に何人かの令嬢からアメリアの不敬に対する苦情が上がって来ている。それならば、フェリに頼んだらどうだろう。彼女は私の婚約者だ。彼女がアメリアに賛同をすれば、他の令嬢達は何も言えまい。フェリも幼い頃から両親から離されてエンドールから遠い王都に連れて来られ、あんなに妃教育を詰め込まれ、きっと不満はある筈だ。賛同してくれるに違いない。


 私はフェリと近いうちに逢う時間を作ろうと決めた。


ご閲覧・ブクマ・評価 有難うございます!3話構成予定なので後1話。今日更新できるかと思います。

頂いたリクエストは順次執筆致します。リクエスト頂きましたらお時間頂きますが、書かせて頂きますー。

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