言っておきたい事がある。(フェリvsアメリア)
頂いたリクエスト(?)から、フェリとアメリアの対決シーンです。
ざまぁ展開になります。
後宮を出ることになった前日、私はアメリアとの面会を申し出た。どうしても、もう一度会っておきたかった。私が、私の答えを見つける為に。こんな風に迷ったままは嫌。もやもやしたままは、嫌。
私は近衛騎士に案内をされ、地下にある牢へと向かった。木製の扉に取り付けられた重厚な鍵を牢屋番の兵が開ける。私は近衛騎士に待っていてくれるように頼んでから、アメリアの投獄されている牢の中へと入った。牢の中には簡素なテーブルと椅子、平民が使う様な質素なベッド、暖炉が1つあるだけの粗末なものだった。膝を抱える様にしてベッドに座ってふて腐れた様に唇を尖らせていたアメリアは、私をじろっとにらみつけて来た。
「何の用よ」
「貴女と話す以外ここに来る理由なんて無いでしょう?」
「私は話す事なんて無いわ」
私は椅子の向きを変え、ベッドで膝を抱えるアメリアに向きなおった。アメリアは私から目を逸らし、ぷい、と横を向いてしまった。何から話そうか。少し考えて、口を開いた。
「私と、カーフェルト国王陛下は、小さい頃に出会ったの。侍女が連れて行ってくれた森で、私迷子になってしまって。彼とはその森で出会ったの」
アメリアはそっぽを向いたままだ。私はそれでも構わなかった。
「私、彼が大好きだったわ。私は朝が来るのが楽しみだった。朝になれば彼に逢いに行けたから。でも、セルジオ殿下との婚約が決まって、私は王都に移されたわ。……だから、私も貴女が言った様に、不満があったわ。お父様とお母様は愛しあってなんて居なかった。多分私はお母様の不貞の子なのだと思うわ。お兄様は私を汚いものでも見る様に見たもの。貴族のしきたりで結婚して、必要だったのは跡継ぎになるお兄様だけ。私は政略結婚の為の道具だったわ。だけど、私にも心はあるもの。道具と扱われるのは嫌だったわ」
「……そうでしょう? 私の何が間違ってるっていうの?! そんなの可笑しいって思う事の何処が間違ってるって言うのよ! 私は間違ってないわ! なのに何で投獄されなきゃなんないの?!」
噛みつく様に言うアメリアに対しても、私は妙に気持ちが落ち着いていた。
──ああ、そうか。今の私と彼女の立場は、逆なんだわ。あの時は私、余裕が無かった。何故私がこんな目にって思っていたから。彼女の言葉に反論することが出来なかった。ゆっくりと記憶をたどる。
「そうね。気持ちと言う意味では間違っていないと思うわ。──でも、やっぱり貴女のした事は間違ってる」
「どこが──!!」
ギっと顔を歪め睨んでくるアメリアは、以前の余裕は消えていた。投獄はよほど堪えているのかもしれない。平民とはいえ、元は裕福な商人の娘だもの。
「最初に逢った時に、貴女私に言ったわよね。爵位を持っているのは私じゃない。私が敬意を払いたくなるような人なら敬意を払うって」
「言ったわよ。それの何処が間違っているっていうの?!」
「貴女の言動がそのまま家の、国の、不敬として扱われるからよ」
アメリアが怪訝そうに眉を寄せる。
──そうよ。だから、私は諦めるしかなかった。貴族が好き勝手をすれば、それによって起こる事は、自分が不評を買うだけでは済まされないのだ。
「貴女を養子に迎えたマイツェン子爵は、グランドル伯の補佐役だわ。その子爵家の貴女がグランドル伯の不評を買ったらどうなると思う? グランドル伯は貴女の家を切るでしょうね。貴女とは関係ない、そう周囲に知らしめるために。そうなれば子爵家は失脚だわ。子爵は貴女を迎えに来た? 来ないでしょう? 貴女が好きにしたせいで、子爵家もまた不評を買ってしまったからよ。今まで好きに出来たのは、貴女の後ろにセルジオ殿下が居たから。けれど殿下もまた不評を買って地に落ちたわ。貴女が好き勝手をしたせいで」
驚いたようにアメリアの眼が見開かれる。考えもしなかったことを言われたという様に。
「……貴族の政略結婚は、言うなれば人質だわ。けれどそれによって得る利は大きいわ。例えば私の場合なら、エンドールはカーフェルト王国の侵略がいつ起こっても不思議ではない土地よ。戦争になれば莫大なお金が掛かるわ。婚姻が成立すれば援助は惜しまれない。王家は家督を継ぐお子が必要だわ。貴族達が納得をする血筋を持つお子が。政略結婚には意味があるのよ」
「そんなの、何故貴族だからって聞かなくちゃならないのよ」
「決まっているじゃない。その土地を総て居るのが貴族だからよ。国の為、統べる土地の為、貴族にはそう言った自由は無いわ。だから夜会が行われて、少しでも好意を持てる方と婚姻出来る様にするのではないの。それが不満なら平民に落ちれば良かったのよ」
アメリアは何か言い返そうとしては口を噤む。顔はすっかり青ざめてしまっている。
「貴女が貴族を否定して好き勝手をしたせいで、婚約関係にあった子達が多く引き裂かれたわ。貴女がルールを蔑ろにしたせいで爵位を継げなくなってしまった子息も居るわ。貴族のルールも守れない貴女を、一体誰が支持するというの? 諸外国相手なら場合によっては戦争になるわ。そうなれば貴女のせいで多くの民が命を落とすことになる。そういう懸念材料のある人を妃にしようとする人を王になど出来るわけが無いでしょう? だから、セルジオ殿下も、もう王位に就くことは出来ないわ。私はずっと彼が王になる為どれだけ努力をしてきたか知ってる。でも彼の今までの苦労も努力も全部貴女が壊してしまった。それでも貴女は自分が正しいと言い張れるの?」
「だって……。そんなのおかしいわ……。私、そんなつもりじゃ……。ただ、思った事を言っただけで……」
「そうね。だから言ったではないの。そういう勝手な事はまかり通らないって。貴族には貴族のルールがあるって。聞かなかったのは貴女だわ」
私は椅子から立ち上がった。
──そうだった。それが貴族としての責務であって、矜持だった。大丈夫だわ。私はもう、取り戻した。ちゃんとリクを支えて行ける。
「でも、私は貴女に感謝もしているの。貴女が壊してくれたお陰で、私は一番一緒になりたかった人の妃になれるわ。ありがとう」
私はにっこりとアメリアに微笑みかけた。もう会う事は無いだろう。
「──フェリ様っ!」
「フェリーシャ様、よ。──アメリア様、あなたって──」
ベッドの上で這いつくばる様にして真っ青になって震えながら私を見上げるアメリアを、私は見下ろした。
「つまんない人ね」
「──っっ!!!」
ほっほっほ。ついに言ってやったわ。
アメリアの顔が真っ赤になるのを見やってから、私は胸を張って堂々と牢から出た。
扉に駆け寄ってきたアメリアが中からぎゃんぎゃん騒いでいたけれど、私の気持ちはすっきりしていた。
地下から出ると、眩い程に明るくて、私はやっとアメリアの作り出した迷宮から、抜け出せた気持ちだった。
──私はもう、前を向いて行ける。
ご閲覧・ブクマ・評価 有難うございます!こちらは1話完結になります。もう1個王子との対決も書くかもしれません。
頂いたリクエストは順次執筆致します。リクエスト頂きましたらお時間頂きますが、書かせて頂きますー。