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ひとりぼっちの少年はお姫様を拾う こぼれ話。  作者: 鈴森 ねこ
アンデルベリー一座 城に行く
4/12

04.また会う日まで。

***前回のあらすじ***

リクに手を引かれ、フェリーシャが部屋に通された。リュートに頼まれ出会いから今に至るまでの話を終えたリクは、夜会を開きたいと申し出る。貴族の為の夜会ではなく、城に仕える者への感謝の気持ちを示したいというリクに、アンデルベリー達は快く引き受けるのだった。

 リュートは一人、テラスに出て涼んでいた。瞼の奥に、先ほどまでの光景が焼き付いている。本当に、お伽噺の様な光景だった。カタンと小さな音がして、リュートは肩越しに振り返る。


「お待たせしましたか?」


 低く落ち着いた声の主は、この国の宰相だった。リュートは彼に話が聞きたいと、この場所へと呼び出していた。


「いえ。お忙しい宰相殿にご足労願い恐縮です」


 リュートは恭しく頭を下げる。顔を上げたリュートの眼は、何処か警戒を含んだ色を湛えていた。


「話と言うのは、陛下の事ですね」


 宰相はゆっくりとリュートの隣へと歩を進める。リュートは視線を外さずに頷いた。


「私は旅の吟遊詩人でもありますので。このような機会は二度と無いと思われましたので、ご無礼とは存じますが、お話をお聞かせ願いたく」

「何をお聞きになりたいと?」


 ──狸め。此方の聞きたい事など、とうに判っているだろうに。リュートもまた口元に微笑を張り付けて手にした竪琴に指先を滑らせた。ポロロ、と澄んだ音色が響く。


「私は陛下が──リクが可愛いのですよ。過ごした時間は極僅かですが、私は彼を弟の様に思っています。リクは素直で純朴です。そんなリクを使い貴方は何をしようとなさっておいでなのでしょうか」

「随分な言われようですね」


 くつり。宰相が喉を鳴らして嗤う。が、直ぐにその表情は、真剣な眼差しを帯びる。長くなりますが、と前置きをし、宰相は静かに語りだした。


***


 前王は、愚王だった。独善的で贅を好み、色を好み、残虐な性格は僅かな粗相すら許さない、狭量な王だった。領土は広がったものの、税は重く国は貧しく、民の怒りが爆発するのも、もう秒読みの段階だった。宰相は嫌悪の表情を浮かべる。


「私はこの国を愛しているのですよ。リュート殿。前国王陛下の妃であらせられたテレーゼ様の愛したこの国を。テレーゼ様はエドゥアルド陛下──リク様によく似た美しい漆黒の髪と鮮やかな青い瞳のお美しく、思慮深く、情に篤い聡明な方だった。公爵家の姫であらせられた頃から、あの方は民に慕われ、臣下に慕われる素晴らしい方だった」


 宰相の口ぶりから、王妃への淡い想いが垣間見えた。


「私はね。リュート殿。テレーゼ様亡き後、陛下の愚策によりこの国が亡びる事は容認できなかったのですよ。ですから密かに陛下の統治を快く思わない者を集めました」

「……まさか……」


 リュートはぞっとなった。宰相の瞳に浮かんだ暗い色に、暗殺の二文字が浮かぶ。


「陛下が病に伏したのは偶然です。ですが私にとっては願っても居ない僥倖だった。陛下がお隠れになる前に、私は陛下の替りとなる者を探しました。そんな折りです。リク様ご存命の可能性を知ったのは。テレーゼ様のお子が生きておられるかもしれない、それを知った私の気持ちが。リク様にお会いした時の私の気持ちが。お分かりになりますか?リュート殿。あの方は、テレーゼ様に生き写しだった。見た目も、内面も間違いなくテレーゼ様の血を色濃く受け継いでおいでだった。そのリク様にこの私が敵意など向ける筈も無ければ、あの方を利用するなど有りえません」


 まっすぐにリュートを見つめる宰相の眼は、嘘を言っている様には思えなかった。


「私は──いえ、我々は、皆リク様を心からお慕い申し上げている。あの方に仕えられることは誉れ。まだ未熟な面もありますが、幸いフェリ様も聡明な方だ。あのお二人なら、この国は変わっていける。テレーゼ様が愛した、あの方の望まれた良い国に」


 敵に回せば恐ろしい男だっただろう宰相が、何故一介の楽師風情に此処まで赤裸々に語ったのかは判らない。だが、リュートにはそれは彼の覚悟の様に思えた。リクが道を踏み外さなければ、良き家臣として仕えてくれるに違いないと思えるほどには。


 リュートはふっと表情を和らげた。それから深く、頭を下げる。


「非礼をお詫びいたします。宰相殿。此処でお聞きした話は、一切他言は致しません。まぁ、愚王の話は私も欲しいのでそこはご勘弁を。どうか、リクを宜しくお願い致します」


 リュートの言葉に、宰相の顔にも、穏やかな笑みが浮かんだ。


***


「お会いできてうれしかったです、アンデルベリーさん。リュートさん。ヴィエラさん」

「リクも元気でね」

「お招き感謝するよ、国王陛下」

「君が良き王となり後世に語り継がれる事を願うよ」


 リクは3人と固く握手を交わした。3人は馬車へと乗り込む。城の門の前には、城に仕える者が大勢集まり見送りに出てくれていた。


「きっとまたいらして下さいませ!」


 フェリが手を振る。荷台から振り返ったリュートとヴィエラもそれに応えた。

 見送りに出て来た人々も、口々にありがとうと礼を言ったり、また来いよと声を掛けてくれたり、賑やかだ。


「そぉーれっ!」


 アンデルベリーが手綱を打つと、馬車はガタゴトと走り出した。

 リク達は、見えなくなるまでずっと見送っていた。城を守る門兵も、大きく手を振っている。リュートとヴィエラも、見えなくなるまで手を振り続けた。


***

 ガタゴトと馬車は街道を走っていた。


「いやぁー、カーフェルト竜王国! 思っていたよりもずっと良い所だったねぇ」

「ほんと! リクらしいっていうかなんて言うか」

「折角だし、やっぱりアルゼールは後にするか。もうちょっとカーフェルトの国を見て回りたいしなぁ」

「良いわね! リクの歌を広めて回りたいし、賛成!」

「リュートは何やってんだ?」

「歌詞の書きなおしさ。この国に伝わる話だけでは足りなかったからね。生の声は貴重だよ」


 リュートは竪琴を手に取った。指先を滑らせると、ポロロと澄んだ音が響く。


 ──それはとある国の片隅の小さな恋の物語

 ──ひとりぼっちの少年はお姫様を拾う

 ──やがて二人は恋に落ち 運命によって引き裂かれ やがて世界を揺り動かす

 ──数多の苦難のその先に 数多の幸福をもたらした 王と王妃の物語──


 リュートの奏でる竪琴の音は、高く澄んだ青空に、どこまでも響いて行った。


──Fin.──


ご閲覧・ブクマ、有難うございました!最終話、こぼれ話1個目、アンデルベリー一座がフェリと出会うお話、これにて完結です。ご感想でリクエスト下さったみひろさん、有難うございました!次のこぼれ話はご感想でアメリア嬢に言い返して欲しかったと仰って下さったかるはさんにお応えして、フェリがちょっと頑張るシーンになります。短編になると思うので、明日には書けるかな?頑張りまーすw

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