02.数年ぶりの再会。
***前回のあらすじ***
アルゼール国内を旅して回り、南のロワイエにて興行を行っていたアンデルベリー一座に、一人の男が声を掛けて来た。体格の良い肩よりも少し長い栗毛を後ろで1つに束ねた琥珀色の瞳のその男は、カーフェルト国王の使いだと告げる。驚くアンデルベリー達に、男は一通の手紙を差し出した。その手紙には、以前一緒にアルゼールの王都まで僅かな期間共に旅をしたリクからの手紙だった。王となったリクは、彼らを城へと招待したのだった。
カーフェルトの城は、重厚な作りだった。城が近づくにつれ、リクに逢えるという喜びに沸いていたアンデルベリー一座の面々は、段々不安になってくる。そもそもが王宮などに行けるような身分でも無ければ、街中で演奏をする大道芸人の一座なのだ。緊張で皆言葉が出なくなってくる。ガラガラと、馬車の走る音だけが響いた。
重々しく閉ざされた門の前には甲冑を身に纏い、ハルバードを手にした門兵が扉を挟む様に立っていて、馬車が近づくと槍をクロスさせ馬車を止める。アンデルベリーは馬を操り、馬車を門の前に止めた。
「あー、ええと……。わ、我々はアンデルベリー一座と申しまして、ですね、そのー、実はカーフェルト国王陛下にお招きを、頂きまして、ね……?」
緊張と自分の口から出たその言葉の嘘くささに引きつった笑いを浮かべ、アンデルベリーは持っていた手紙を門兵に差し出した。手の震えが手紙に伝わり、手紙がガクガクと揺れている。
門兵は手紙の裏に押された印を確認すると、にこーっと人懐っこい笑みを浮かべ、カツンとハルバードの先を地面に付いて塞いだ道を開けるようにした。すぐさま門兵の一人が門の上の見張り台へ合図を送り、門がゆっくりと開かれる。
「陛下より伺っております! ようこそ、カーフェルト竜王国へ! お待ちしていました。どうぞ入口までお進みください」
アンデルベリーはほっと表情を和らげた。後ろからのぞき込む様に様子を伺っていたリュートとヴィエラの表情にも安堵の色が浮かぶ。馬車はガラガラと門を潜った。
***
入口に到着すると直ぐに男が出て来て馬車を引いていく。上品そうな女官が、3人を城の中へと案内をした。初めて入った王宮は、エントランスが驚く程広く、天井に見事な絵画が描かれ、床は磨き上げられた大理石が微妙な色の違いやカットによって美しい模様を描き出している。天井から下がるシャンデリアがキラキラと輝いていた。
3人はその光景にぽかんと口を開け、見入ってしまう。目がちかちかしそうだった。
お上りさん丸出しで、3人はきょろきょろと周囲を見渡しながら案内をしてくれる女官に付いていく。ヴィエラがふと足を止めた。
「ね、ちょっと、あれ」
こそっと笑いを含んだような声でヴィエラが窓の外を指さす。指された指の先には、大きな木の枝にロープが張られ、素朴なブランコが1つ、心地よさそうに風に揺れていた。
アンデルベリーとリュートも、思わずほっこりとしてしまった。
「あれ、きっとリクよね」
3人は顔を見合わせ、笑いあった。
***
3人が通されたのは豪奢な客間だった。
ソファを勧められたが、美しい織物と刺繍に彩られ、繊細な細工の施された見事なソファに皆座ることが出来ない。汚しでもしたら大変だ。お茶を運んできた侍女が、3人の様子にきょとんとしてからくすくすと笑いだした。
「どうぞお掛けになって下さい。陛下はお気になさいませんわ」
バレバレだった。3人は顔を見合わせ、ガチガチに緊張しながら腰を下ろす。
「陛下はそれはもう皆様がいらっしゃるのを楽しみになさっておいででしたわ。わたくし達も皆楽しみにしておりましたのよ」
侍女はお茶を淹れながら楽しそうに笑う。侍女がお茶うけにと置いたお菓子は、どれも高級そうで、初めて見るものばかりだった。
「ただいま陛下をお迎えに上がっております。今しばらくお待ちくださいませ」
侍女が丁寧に頭を下げる。3人は慌てて立ち上がり、頭をぺこっと下げた。侍女はにっこりと笑うと、部屋を出る。部屋の外に控えていた近衛騎士が静かに部屋の扉を閉める。3人は大きく息を付き、ソファへと沈みこんだ。
***
慌ただしい靴音が響いてくる。お菓子を摘みながらお茶を飲んでカラカラになった喉を潤していた3人は、はっと同時に顔を上げた。扉が開けられると、満面の笑みで頬を蒸気させた青年が立っていた。待ちきれなかったのか自ら扉を開けたらしい。
懐かしい、鮮やかな青と紫の瞳。艶やかな黒髪。背はぐんと伸び、美しい青年に成長しては居たが、浮かべた笑みも、その人懐っこい笑みも、当時の面影を強く残していた。
「「「リク!!」」」
3人同時に立ち上がり、同時に彼の名を呼んだ。
「アンデルベリーさん!リュートさん!ヴィエラさぁん!」
青年は子供の様に駆け寄ってきて、子供の頃そのままに3人に抱きついて来た。3人も笑いながら受け止めた。
数年ぶりの、再会だった。
***
「それにしても驚いたなぁ。あのリクがねぇ」
「僕も驚きました」
えへへ、と照れ臭そうに笑うリクの顔は、あの頃の幼さを残したままだ。すらりと伸びた背は、既にヴィエラは勿論、アンデルベリーやリュートよりも高い。
「で? リクの大事なお姫様は?」
「あ、呼びに行かせたんで、もう来ると思います」
リクがそう口にした時、部屋の外に居た近衛兵が「王妃殿下がお見えです」と声を掛けて来た。
リクがぱぁっと笑みを浮かべ、扉まで出迎えに行く。
扉が開けられ、リクは嬉しそうに扉の向こうへ手を差し伸べる。白い手が伸びて、リクの手に重ねられた。恥ずかしそうに頬を染め、瞳を輝かせながら顔をのぞかせたのは、はちみつ色の髪と大きなぱっちりとした水色の瞳の美少女だった。
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リクエスト頂きましたらお時間頂きますが、書かせて頂きますー。