表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

セルジオ王子の場合。-5-

***前回のあらすじ***

夜会の席で、フェリとアメリアが口論を始めてしまう。苛立ったセルジオはフェリに婚約破棄を言い渡した。そこに隣国の王が登場し騒ぎは収束したが、アメリアは捕らえられ、セルジオも謹慎を申し渡された。

 部屋の戸が、ノックをされた。夜会が終わったらしい。部屋を訪ねて来たのは父王だった。直ぐに私は侍女にお茶を運ぶように命じ、父をソファへと招いた。

 侍女がお茶を淹れ、部屋を出て、長い沈黙が訪れた。


「父上……」

「お前も愚かな事をしたものだな」


 父の言葉に私はぐっと言葉に詰まる。紅茶を口に運びながら、父が静かに口を開いた。


「アメリアと言う娘だがな。極刑は免れまい。会う事は二度と許さん」

「な……!」


 私は血の気が引いた。…極刑?


「あれ程の不敬を働いたのだ。次期国王にはクラウドを据える。お前は西の塔に移す。本当に愚かな真似をしてくれたものだ……」


 私は震えが止まらなくなった。何故?どうして?疑問が頭の中をぐるぐるとして吐きそうになる。


「王は国の頂点だ。その頂点が貴族の在り方を否定すればどうなる? 家臣は誰もついては来ないだろう。お前は下位貴族如きが王族であるお前に不敬を働くことを容認するばかりか、上位貴族に不敬を働く女に賛同しあまつさえ国のためにと尽力してきた令嬢を許可なく婚約破棄したのだ。これが大罪である事も判らんのか?」


「ですが! 王と言えど人間です! 貴族のしがらみを捨て、自由に生きる社会を私は──!」

「ではお前はたったひとりで国を動かせると言うんだな?」

「……どういう、意味でしょうか」

「貴族が国の為に領を統べ、領民から税を集め、その税が国へと納められ、国を賄っている。その領地を治めるのは貴族であり、貴族の地位が地に落ちれば誰がその貴族に従う?上位貴族が富や財を持つ事は我が国が豊かで安定している国だと他の国へと知らしめる牽制となる。が、その上位貴族を平民上がりの下位貴族の小娘が軽んじればどうなる? 小娘如きに軽んじられる国などどうして恐れられようか」


 私は息を飲んだ。知らなかったわけでは無い。知っていたが、あえて意識などしない、当たり前の事だったはずだ。私は全身の力が抜けた。

 一つ間違えば近隣諸国から狙われる材料を提供していた事になる。しかも、王族である私自らが率先して。


「フェリ……。フェリーシャ、殿は……」


 私は声を絞り出した。喉が張り付く。


「カーフェルト国王より正式な婚約の申し出があった。其方との婚約解消の手続きは済んだ。早々にカーフェルトの王妃として隣国に嫁ぐことになるだろうな」

「何故、カーフェルトがフェリを……」

「あの二人は幼馴染だったそうだ。お前が馬鹿な真似をしなければ、フェリーシャ姫は我が国の妃となり、隣国カーフェルトとも友好関係を結べたはずだった。カーフェルト王は彼女がお前との婚姻を取るのなら、彼女の為に我が国への援助も惜しまないつもりだったと、この国との和平を申し入れるつもりだったと言っていた。フェリーシャ殿は其方を夫とし支える為に尽力してきた娘だ。例え隣国の王へ思いを寄せていたとしても、我が国の為にお前を取ったはずだ。お前が馬鹿な真似さえしなければ、奪われずに済んだものを」


 父上のため息に、私は全てを失ったことを悟った。


***


 何処か遠くで、鐘の音が聞こえる。

 あれから数年後、父王が崩御し、弟のクラウドが王位についた。アメリアがどうなったのかは判らない。私は今、遠い辺境の地に居を構え、僅かな使用人だけを連れ移り住んでいる。それからさらに月日は流れ、私は妻を娶り、静かに暮らしている。子供も2人、生まれた。

 自ら家畜の世話をして、野菜を育て、自給自足の生活だ。苦労も多いが穏やかだ。王族として過ごした日々は、今思うと夢の中の出来事だった様にさえ思える。恐らく誰も、私が元王族だとは気づかないだろう。王都は此処から遥かに遠い。誰も私を知らない土地で、私はもう一度やり直す人生を送っている。

 妻は穏やかで優しい女性だ。少しだけ、フェリに似ている気がする。アメリア程の情熱は無いが、静かな愛があった。

 あのままアメリアと出会う事無く、フェリと結婚をしていたなら、きっとこんな生活が送れたのかもしれない。もう、過ぎてしまった話だが。

 フェリは隣国の王妃となり、カーフェルト王国は大きく変わったという。野蛮な国と恐れられた国は今、国交も盛んで豊かな美しい国に変貌したらしい。素晴らしい国だったと旅の商人が話してくれた。


「父様ー、見てぇー」


 青い海が広がる、白い砂浜の波打ち際で、幼い子供たちが作った砂の城が、波に浚われさらさらと崩れた。


 あれは、若かりし日に見た泡沫の夢。夏の日差しの様なアメリアと言う眩しすぎる光に眩んだ目が見せた幻。私の愚かさが招いた罪は、消えることは無いだろう。私が彼女を容認したばかりに、全てを壊し、不幸にしてしまった私が、今こうして静かな幸せを噛みしめるのを、神はいつまで許して下さるだろうか。


 脆く儚い砂の城。全ては夢と散って、今は静かな時間だけが流れている。


~Fin.~

ふっはー。王子編、これにて完結です!次はアメリア編、更新は明日になるかと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ