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プロローグ

この世に落ちた悪の種。それは邪念を吸収して成長する。その根源を滅ぼすため、天上人フォガードと彼が育成した勇者達が立ち向かう。これはそこから始まり、人の心から悪の種が生まれるときを綴った物語である。


(※やはり一から出直そうと思い、削除してから投稿することにしました。)


※説明が不足している部分があったので、その説明を加えました。

 この世界を見下ろす岩山があった。天空を突き抜けるように鋭く高くそびえ立ち、その先を暗雲が覆い隠している。 それは柱と言ってもよかった。

 その頂上を確認した者は存在しない。天界に続くという説もある。先端に向かってどす黒い雲が年中消えることなくその周囲を取り巻き、まるでそれ自体が邪気を集めるアンテナであるかのように、邪悪さを蓄積していく。高い湿度に覆われた地面にはろくに草も生えず瘴気が漂っていた。さらには重々しい大気を強力な磁場が包み、近付く船は方角を見失い、死ぬまで海域を彷徨うという。そこを訪れて無事戻ってきた者はおらず、確かめに言った者もまた戻らなかった。それらの話が後世に渡って語り継がれ、人々はその海域を『魔界の入り口』と名付け、口にすることすら恐れていた。

 その地に一人の男が降り立った。くるぶしまで丈のある青灰色のローブを身に纏い、フードから覗く頭髪は干草のように寂びれた銀色で、顔面には、積み重ねてきた年数の深さを反映するかのような深い皺がある。その風貌はまさに老人で、仙人にも見えるだろう。しかし、その眼光は鋭かった。年老いた者のそれとは程遠く、そこから溢れ出す生命力に満ち溢れた光は、老後の余生に身を委ねた者の色ではなかった。

「名も無き悪の根源よ。我の導きに従い、天上界に浄化せよ……!」

 両手を天に掲げ説き伏せるようなその声は、無機質な音を立て、地を伝い振動する。 

 千年もの間何度となく、それは繰り返されてきた。

 この世に悪の種を落とした天上人――“フォガード”――それがこの男の名であった。彼は下界から浮遊してきた邪気を集めて種に替え、天界で花に育てる役目を持っていた。それが散るとともに邪気は浄化される。彼はその種を花に替える前に、下界である人間界に落としてしまったのである。

 種は悪を生み出す根源としてこの世に根を張り、不気味な岩山を出現させた。その根源が出現してから、この世に魔物が増加し始める。罪を問われた哀れなフォガードは、天上界から追放され、この世に落ちた全ての悪の根源を滅ぼす為に人の世に落とされた。人間として生まれ、その身体に犯した罪の記憶と魂を宿し、それを全うするまで永久にその宿命を背負わされることとなったのである。

『貴様ノ育テタ勇者ハ芽ガ出ヌナ?』

 姿無き魔の存在の嘲りの声が響く。何重にも重なった振動にも似たその声が、しゃべる度に地面や大気を振るわせる。

『貴様ニハ 悪ノ根ヲ育テルコトガ相応シイ』

「永い戦いになりそうだ……」

 魔の存在の嘲りに対し、フォガードのその答えは諦めにも聞こえた。

 歳を重ね肉体は滅びるが、その魂は消えず再び同じ宿命を背負い生まれ変わる。その都度、悪の根源を滅ぼしに掛かるが、全ての根を絶やすまでに至らなかった。

 落とした種は、最初一つだった。

 しかし、それは多くの種をばらまいたかのように、次々と新たな魔の存在を生み続けた。それが千年……

 大気と地面が振動する。姿無き魔の存在の声だった。

『貴様ノ肉体ハ既二滅ビ 魂ノ帰ル場所ハ無クナッタ』

 この時フォガードは、肉体から魂だけ抜け出してここに来ていた。肉体は脆く、失えば使命を果たせなくなるからだ。距離を問わないのも理由の一つだった。それが肉体を失った。魂だけが浮遊している。フォガードという一人の人間の存在がこの世から消滅した。それは彼を打ちのめすには充分な宣告のはずだったが――

「長居しすぎてしまったか……」

 フォガードのその声に焦りの色は見られなかった。それは諦めたからではなく

 この時を――むしろ、狙っていたからである。

『貴様ガ死二 コノ世界モ終ワリダ……』

 それは地獄絵図を意味する。侵食が進み、この世界が魔の存在で埋め尽くされ、“魔界”に変わり……

「継承者がいる」

 顔色一つ変えず、フォガードは言った。

『ホォ……偉大ナ魔道士デモ育テタトイウノカ?』

 姿無き魔の存在の嘲笑いは続いた。

 何度目だろう。果たして何人の勇者、伝承者を育成してきたことか、数えきれぬほどだった。その弟子達とフォガードが、生きてその結末を見る日は訪れなかった。結末はいつも魔の存在が勝利をおさめ、フォガードはやがて寿命で身が朽ち果てていく。

 そして同じ宿命の元、再びこの世に誕生する。



 その戦いに終わりはなかった。




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