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国外追放になりました。

前世の記憶を思い出した。


こことはまったく違う世界でごく平凡な人生を送り、大学生のうちに命を落とすまでの20年間の記憶。


思い出して衝撃を受けた。前世を思い出したことも、別世界に転生を果たしていることも大変な驚きではあったが、1番驚いたことは前世の趣味であった些細な記憶に対してだった。


「私、乙女ゲームの世界に転生していた……?」


前世の趣味、それはゲームであった。そしてそれを思い出すうちに、昔プレイしたある乙女ゲームが、今自分が生きているこの世界に酷似していることに気がついてしまったのだった。

今の現実である剣と魔法のあるような世界観は、ゲームでもそうだっだし、ゲームに出てきた登場人物は、名前も外見的特徴も一致する人達がこの現実にも確かにいた。そして私もその1人であったようだ。


「私、悪役令嬢というやつだったのね」


思い出して納得してしまった。今のこの状況に。


軽いため息をついて、1度気持ちを落ち着けるために、近くにある丁度いい大きさの岩を見つけて腰を下ろした。

落ち着くために深呼吸して、ゆっくりと周りを見渡せば、昼の輝かしい太陽に照らされたその荒れた地が良く見渡せた。

乾燥気味に見える地に草や木が所々に点在していて、しかしそれ以外には何もなく随分と寂しい風景であった。


よく見れば少し離れた木の影からは狼のような、目の赤い生き物がこちらを伺っているようだ。魔物だろうか、食事となり得そうな私を襲うタイミングを伺っているらしい。

それなりに魔力をもった私を今すぐ襲うことは無さそうだし、襲われたところで対した事が無さそうな魔物だが、流石に自分に害意のある魔物が近くにいると落ち着かないので魔法で魔物の近くに爆発を起こして追い払っておく。ぎゃわん、と驚いた鳴き声を残して魔物はどこかへ去っていった。


「はあ……。

思い出すのが遅すぎたわ。今思い出したって、どうしようもない」


ここは人のいない荒野であった。思い出したゲームのストーリーは既に終わっていて、悪役への断罪を逃れることが出来ずに、私はこうしてここにいる。


ゲームの内容はある意味とても王道だった。

平民だったヒロインが突如魔法を使えるようになった事で、魔法学園に転入。そこで出会う王族貴族達と恋に落ちて様々な障害を乗り越えた末に結ばれる、というものであった。


そしてその障害の一つが私、ソフィア・フォルスト公爵令嬢。


攻略対象の1人である第一王子の婚約者で、第一王子ルートの最大の悪役という立ち位置だ。

ルートでは王子に近づくヒロインに過激な嫌がらせをして王子から遠ざけようとするも、最終的に王子にそれを咎められ断罪される。それにて王子とヒロインを邪魔するものはいなくなり、王子ルートのハッピーエンドが迎えられるのだ。


「ゲームか……。

こんな事、子供の頃とか断罪前とかに知りたかったわね。

ゲームの流れを知ったところで、ゲームが終わっているのでは嫌な結末を変えることも出来ないじゃない」


現実は今、私にとって最悪の結末である、王子ハッピーエンドを迎えていた。

私は生まれ育ったフォルスト公爵家を追い出されて、僅かな金銭も持たされずに身一つで国外の荒野へ置き捨てられた。その上今後2度と国に入る事を禁じられている。

まだ16の若い女性を頼るものもない地へと起き捨てる、そんなの普通に考えれば今後生きていくのも難しい。

それは刑を執行する側も分かっていたはずで、これは実質死刑と変わらない刑であった。


ゲームをプレイしている時にはヒロインの側の目線だったので、ヒロインの敵であったソフィアが断罪されたのを見た時は、ある種の達成感さえあった。

だけど実際断罪される側になって見ればそれどころではない。


そもそもゲームをしていてもソフィアのせいとされていたヒロインへの嫌がらせだが、あれをやっていたのは私ではなかった。

疑われてしまう言動が私にあったのも認めるが、そこにヒロインを傷つける意志は無かったのだ。


だけど、それらしい証拠を揃えた断罪イベントは、多くの貴族が集まる王族主催の夜会で行われたのだ。

そんな場でみっともなく無罪を訴える事が出来ずに私の罪は確定してしまった。

少し悔しいが、あそこで喚いてはフォルスト公爵家の品位を疑われていたので、その判断は間違えでは無かったと思っている。

あの証拠の量では、無実を訴えた所ですぐにはどうにもならないと思ったし、それならば公爵令嬢である私が大勢の貴族の前で実際の汚点を晒すわけにはいかなかった。

言いたいことは山ほどあったが、私が口を閉ざし大人しく罪を受け入れたことでフォルスト公爵家は、家としての罪は問われる事は無いだろう。


公爵家、家族のことが頭をよぎる。

家族は私との縁を切った。

第一王子の不況を買った、罪を着せられた私をかばえば、父は公爵の地位を追われていた事だろう。

そうなれば屋敷や、父が外で複数経営している商会で雇っている千人近くの従業員が路頭に迷う事となる。

それは何としてでも避けなければならないと思い、私と縁を切るように私から提案して説得したのだ。


父も母も弟も、皆、最後に見た顔には酷い涙が溢れていた。


昨日の夜、牢の中にいた私は、僅かな間だけ家族との面会を許されたのだが、そこで大切な家族には信じて欲しいと無実を伝えると、家族はそもそも疑ってなどいないと言ってくれた。


父は、初めは全てを捨ててでも国外へと付いて行くなどと言っていたし、母は牢の柵越しに無言でぎゅっと抱きしめてきた。

弟に至っては王族なんて滅びればいいとか、バレれば不敬罪ものの言葉を涙ながらに憎々しげに呟いていて少し怖かったが。

その様子を思い出して少し笑ってしまう。


「私は、家族から愛されていた。もう会えないとしたら寂しいわね」


皆優しく、仲のいい家族であった。

令嬢という身分があった割に、国自体への愛着はあまり無かった私だが、家族との縁が無くなったというのは寂しいものがあった。

16年間、共に暮らした家族が今日からいない。

一緒にいないだけで、家族はこれからもあの家でいつも通りの生活を送っていくはずなのに、そこに自分がいないと言うことに少しだけしんみりとしてしまった。

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