78 神の降臨
まずはフェルリアの、魔法弓による牽制を兼ねた射撃が、神人類達を襲う!
弾幕じみたその手数に、思わず足を止める者もいれば、物ともせずに突っ切る者もいた。
そんな突出した一行を狙って、ユウゴとラヴァの近接戦闘コンビが飛び込んで行く。
「オラオラオラ!」
「ぬうん!」
牛鬼と魔王の、息もつかせぬ猛攻をまともに食らった数人の神人類が、吹き飛ばされて地面に倒れ伏す。
不意を突かれたものの、かろうじて二人の攻撃を凌いだ者達は、即座に気持ちを切り替えて反撃に移ってきた。
「よし!退却!」
「了解である!」
ところが、交戦する前にユウゴ達は神人類に背中を向けて後方へと駆け出していく。
「なっ、おい!ふざけるな!」
カッとなった戦士達がその背中を追い、さらに魔術師系の者達が攻撃魔法を放った。
「待ちやがれ、この野郎!」
「足元がお留守番だよ」
「です!」
罵声を浴びせながらユウゴ達を追っていた戦士系の者達が、横からの注意を促す声を聞いたと同時に、突然足を滑らせて盛大にコケる。
「なっ……」
起き上がろうとした連中は、なぜか地面が凍り付いているのを目撃した。
「ちゃんと足元を見ないから転ぶんだよ?」
「まったくなのです」
ケラケラと笑う、雪女の正体を現したヒサメとマールの姿に激昂する戦士達。
そんな彼等の後方から、地上の妨害など物ともしない魔法の攻撃が飛来する!
しかし、それらの魔法はユウゴ達を捉える数メートル手前で、突然暴発し消滅した。
「なっ!」
「んふふ、そう簡単にウチらに魔法は当てられまへんよ」
驚く神人類達に、妖狐の本性を現したビャッコが妖艶に微笑む。
彼女がばら蒔いた呪符がデコイとなり、敵の魔法を暴発させていたのだ。
「おのれっ!」
第二弾を放とうと詠唱を始める神人類達だったが、それより先にロリエルの魔法が彼等を撃ち抜く!
「魔法を撃った後が隙だらけなのは、神人類も変わらんな」
愛らしい顔に嫌味な笑みを張り付けて、魔王の一角は混乱している敵陣に再び魔法を放った。
「おい、防御魔法の展開はどうしたっ!?」
魔王の攻撃が降り注ぐ中、敵の攻撃を防ぐ役割の連中に向かって怒鳴る声が響く。
しかし、振り返って確認した防御担当の者達は、皆が皆とろんとした法悦の笑みを湛えたまま、かかしのように棒立ちになっていた。
明らかに異常な彼等の視線の先には、蠱惑な肢体を見せつけるように緩やかに舞う魔王レズンの姿があった。
「あ……かっ……ふぁ……」
レズンの方に目を向けて、その姿を見てしまった他の男達も、防御担当者達と同じような表情でその場に立ち尽くす。
「さすが神人類、完全に魅了は無理みたいね。でも、いい子だから、大人しくしててね」
レズンがウインクを一つ飛ばすと、だらしない男達の笑顔がますます蕩けていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
神人類VS魔王達の戦いは、それから一時間ほど続いた。
結局の所、牽制からの突貫、トラップに防御とカウンターといった行動を繰返し、最後は魅了されてぼんやりしている連中を倒して、ほぼ魔王サイドの完勝となった。
「ううむ……ユウゴ達に言われた通りにやっていたが、こうも神人類達を圧倒できるとは……」
異世界から助っ人を呼ぶまでに追い詰められていたロリエルが、ほとんど無傷で勝利できた事に不思議そうに呟いた。
しかし、そんなロリエルにユウゴ達は当然の結果だと胸を張って答える。
「いくら強い個人が集まった所で、連携もなんも無いんじゃ烏合の衆も同然だからな」
「せやねぇ。まぁ、張飛が三十人いても統率のとれた呂布十人を相手にしては勝てんやろいう所やろか」
ビャッコの例えに、そりゃいいと笑う妖怪組に対して、例えの意味がわからない異世界組がキョトンとした顔をしていた。
「ユウゴ様、ご無事でしたか!」
「こっちも片付いたぞ」
そんなユウゴ達の元に、各々が担当した神人類を倒したエリエスとフォルノが駆けつけてくる。
「おお、お前らも無事だったか」
良かった良かったと迎えながら、この二人が敵に回らなかった事を、ユウゴは心底ありがたいと思っていた。
バラバラでうまく連携も取れない状態の集団を倒すより、多対一の方が勝つ方が難しい。
それを成し得たこの二人は、間違いなく神人類の中でも最高峰の強さと言っていいだろう。
とはいえ、さすがに二人ともボロボロの姿でかなり疲労しており、相当の激戦だった事を物語っていた。
「さて……これから本番だが、エリエスとフォルノは休んでてくれ」
「そんな!私も……」
言いかけたエリエスをユウゴが制し、その肩をフェルリアがポンと叩く。
「主には本当に助けられた。ここから先は、ワシらに任せてくれまいか」
煽りや対抗心からではなく、本当に気遣う言葉をフェルリアからかけられて、さすがのエリエスも返す言葉を無くしてしまった。
「……わかりましたわ。でも、貴女も必ず生きて帰ってください。で、なければ、ユウゴ様は私がいただきますから」
「ぬかせ、誰がやるか!」
恋敵達は小さく笑らい、それぞれ背中を向けて踵を返した。
そんな二人を見ていたフォルノが、彼の様子を伺いにきたヒサメに今更ながらな質問をする。
「しかし、お前ら人間じゃなかったんだな」
「うん、まぁがっかりさせてしまったかな?」
「いいや? むしろ合点がいった」
人間でなかったのなら、ユウゴやヒサメが神人類でもないのに、あの異常な強さを誇っていた事にも納得がいくというものだ。
それを聞いて、「そうかい?」と肩をすくめるヒサメに、フォルノは大きなため息を一つ吐いて、しげしげと雪女姿のヒサメを眺めた。
「氷の邪妖精か……どうりで、いくら勧誘しても袖にされる訳だぜ」
「ああ。根っこの部分から、私達は性に合わないんだ」
きっぱりと言い返しはしたが、ヒサメはそれでも……と続ける。
「私達に味方してくれた事は、感謝してるよ」
「ふふん。俺はただ、人の運命を弄ぼうっていう、神が気に入らなかっただけさ」
少し照れながら言うフォルノに、そういう事にしておこうとヒサメも返す。
「さて、最後の戦いに行ってくるよ」
「おう! 負けんなよ」
「もちろんさ」
マールと共に歩き出すヒサメは歩き出す。
本当に前だけ向いて進む、そんな彼女の眩しい背中に、フォルノは少しだけ悔しそうに小さく舌打ちをした。
「よぉし! 約束通り、俺達が勝ったぞ!とっとと、その御尊顔をお見せしやがれ、この野郎!」
慇懃無礼なユウゴの物言いに、上空から神の笑い声が響いてきた。
『フハハハ、本当に数の差をひっくり返して勝つとはな。よかろう、私自らが相手をしてやろう』
そんな神の声と共に、光の柱が地上へと降りてくる。
やがてその光は集まりながら形をつくり、全裸の男性の姿となった。
『まずはおめでとうと言わせてもらう。この世界の生存競争は君達の勝利だ』
「って、おい……そんなことより、なんか羽織るくらいしとけ!」
『貴様らの基準で物を言われても困るな。むしろ、神の御姿を見れたのだから、眼福というものだろう』
均整のとれた肉体を捻りながら、股間のモノを見せびらかすように振ってみせる神。
だが、「むっ!」とわずかに食いついたのはラヴァのみで、女性陣はむしろ冷ややかな目で神の醜態を見ていた。
「ないわー」
「ひどく見苦しいのです」
「現代日本なら、即座に事案発生やなぁ」
「ユウゴの方がスゴい」
「大人はやはりダメだな……」
「純粋にキモい」
『………………』
ぼろくそに言われ、何となく気まずくなったのか、神がコホンと咳払いをする。と、背後からその肩をトントンと叩く者がいた。
振り向いた神の目に、いつの間にか背後に回り拳を振りかぶったユウゴの姿が写る。
「とりあえず、ノルマ達成な」
戦いの前に神をぶん殴ると予告した牛鬼の拳が派手な音をさせ、がら空きだった神の顔面に深々と突き刺さった!




