77 激突
白刃が舞い、火花が飛び散る!
堅い剣撃の音を響かせて、エリエスはとある神人類と斬り合いをしていた。
「くっ! 王族でありながら、魔族に媚び売る裏切り者めっ!」
「あら、話を聞いていませんでしたの? 私は、すべて丸く納めようとしているだけですのよ」
必死の形相で剣を振るう神人類の男に対し、エリエスは余裕の表情を崩さぬまま、相手の攻撃をいなしては合間をぬって反撃を行う。
かつて魔王と戦った時とは比べ物にならない剣の冴えであり、彼女がどれだけ研鑽を積んだのかが伺い知れるというものだ。
「ふん! なんと言おうと、結局は己の欲望を満たそうというだけだろう!」
「そうだ!そのために身内すらあっさり殺すんだから、たいした王族様だぜ!」
エリエスの相手をしていた男とは別の方向から、もう一人の神人類が飛び込んでくる。
さすがのエリエスも二人同時に相手をするのはキツいのか、強引に剣を弾くと二人から距離を取った。
「どうした、裏切り者!」
「俺達も、あの司祭みたいにすんなりと殺してみろや!」
明らかな挑発。
しかし、当のエリエスは、何か含みを持った笑みを浮かべるだけだった。
「あの子と私の間にどんなやり取りがあっても、それは余人の知る所ではありませんわ。ですが、挑発とはいえその物言いは、少し頭にきました……」
不愉快極まりないといった感情を現にし、エリエスの姿が霞むと同時に、一筋の剣閃が走った!
(馬鹿めっ!)
怒りに任せた一撃が通じるほど、彼等も甘くはない。
まんまと挑発に乗ったエリエスの剣撃を一人が受け止め、もう一人が隙だらけとなった彼女の頭へと目掛けて武器を振り下ろす!
激しい金属のぶつかり合う音が鳴り響き……彼女の頭をカチ割ったはずの男の得物が、エリエスの剣で弾かれてしまった。
「なっ!」
驚きの声が二人から上がった。
「と、止めたハズだろ!?」
「お、俺の武器が……」
武器を弾かれた男ばかりでなく、エリエスを止めたはずの武器を斬り裂かれた男も驚愕の表情となった。
「あら? ずいぶんと脆い武器を使っておりますのね」
「も、脆いだと……」
自分の愛用武器の強度は、自分が一番よく知っている。
魔力の込められた武器すら切断するに及んだ彼女は、同じ神人類という枠の中でも桁が違い過ぎた。
「ほら、また挑発してみてはいかがです?」
リネッサを利用し、挑発で叩いた軽口の代償を払わせるべく、怯えの宿った神人類達へと、エリエスはゆっくりと近付いていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お前の事は知っているぞ、特級チーム『炎剣』のリーダー、フォルノ!」
「俺も、お前らの事は話に聞いた事があるぜ」
そう言って、フォルノは自分の前に立つ三人の神人類の名を順に当てていく。
いずれも知られたチームのリーダーであり、特級もしくは準特級に名を連ねる猛者ばかりだ。
「なぜ、魔王なぞに与する? 我ら【ギルド】に所属する者にとっては、奴等も倒すべき標的だろう」
「そうだ!確かに傭兵として戦う事の多い我々だが、魔族に対しては一致団結するべきではないのか!」
「我々の創造主たる神に……」
神人類達が畳み掛けるように言葉を発するが、それが言い終わる前にフォルノの炎が彼等を襲った!
「な、何をする!?」
「お前ら、あの神の話をちゃんと聞いてたのか?」
呆れ顔のフォルノに向かって、神人類も食ってかかる。
「もちろんです! ですから邪悪な魔族を……」
「だから、その魔族も神が創ったって言ってただろう。つまり、この戦い自体が神の遊び……茶番って訳だ」
先程の神の言葉をそのまま受けとれば、自分の創った創造物の力比べが見たいだけ。
そんな馬鹿馬鹿しい物に付き合っていられないという、フォルノの意見ももっともだ。
皆が口ごもってしまう中、それでも神官系の神人類は反論してきた。
「この戦いは、確かに茶番かもしれません! それでも、人類の行く末を決める戦いに変わりはないでしょう!」
「そうだな……だから、俺達を弄ぶ神を倒すと言っているんだ」
揺るがぬフォルノに、神人類達はぐぬぬ……と顔をしかめた。
「俺はかつて、ある神人類の実験で故郷を失った。それ以来、決めたんだ……俺から仲間や大切な場所を奪おうとする奴は、神でも許さねぇってな」
以前、仇だった死霊使いの神人類を倒してからも、その想いに変わりはない。
だからこそ、フォルノは己の信念と大切な物のために剣を振るうのだ。
「……勝てると思うのか、神に」
「どっちにしろ、負ければ終わりだ。なら、俺は俺の思うまま戦うさ」
説得は無理だと悟った神官が天を仰ぎ、他の神人類達も武器を構える。
「お前の考えはわかった。我々も我々の信じるままに、全力を尽くさせてもらうぞ」
今さらながらな彼等の決意に、フォルノは小さく吹き出してしまう。
「やっと覚悟が決まったのかよ……遅すぎだぜ」
嘲笑うフォルノの剣が、彼がリーダーを務めるチーム名を表すかのように、赤く燃え盛る炎を纏った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……うーん、青年の主張であるな」
フォルノやエリエス達のやり取りに聞き耳を立てていたラヴァが、感慨深げにウンウンと頷く。
「こう、青い情熱が身近にあると、なんとも……抱き締めてやりたくなるのである」
「お前が言うと、違う意味にしか聞こえないからやめろ」
クネクネと身を捩りながら若人に思いを馳せるラヴァに釘を刺し、ユウゴは自分達の敵へと目線を移した。
彼等を取り囲むのは、総勢二十数人の神人類。
いずれも手練れであり、怪異を殺す者として申し分ない実力を備えていると思われた。
しかし、そんな彼等ではあったが、未だに動こうとせずユウゴ達と対峙したまま様子を窺っている。
その理由……それはユウゴ達が見せている、余裕の態度にあった。
三倍近い天敵に囲まれていながら、魔王サイドはまったく動じていない。
そんな魔族達の佇まいが、百戦錬磨の神人類達に何か罠でも有るのではないかと、警戒感を抱かせていた。
(……始まっちまえば、どうにかなるとは思うんだが)
神人類達の内心とは裏腹に、ユウゴ達に特に秘策となるような物はない。
どちらかと言えば、開き直りからくる余裕な態度であったのだが、敵からすればそれが不気味だった。
「……なら、こちらから行くか」
真の敵である神が後に控えている以上、ある意味前座な神人類達を相手に睨みあっていても仕方がない。
「んじゃ、それぞれ役割よろしく」
少し前、神人類達に神が説明を行っていた間に、簡単な打ち合わせをしていたユウゴ達は、先手を打つべく神人類達に向かって歩を進めた。
そうしてユウゴ達が動き出せば、神人類達も迎撃体勢に移る。だが……。
「遅い」
ほんの一瞬だけ出来たわずかな隙に、ユウゴが捩り込むように割って入る!
「!!!!」
一秒にも満たない、動揺からくる硬直に合わせた牛鬼の拳が、先頭にいた神人類を数人吹き飛ばした!
「っ!!」
殴り飛ばされた内の殆どは、受け身を取ったり着地をしたものの、一人は打ち所が悪かったのか人形のように地面に転がる。
不意打ちに近かったとはいえ、一撃で神人類を沈めるユウゴの脅威を目の当たりにして、敵の間にわずかな動揺が走った。
「……人数が多いくらいで、油断しすぎじゃないのか、お前ら」
ポキポキと拳を鳴らすユウゴに、出鼻を挫かれた一団は再び武器を構え直す。
「行くぞ! 人類を救うために、魔王達を討ち取れぇ!」
皆を鼓舞するために誰かが雄叫びを上げ、怒号のような神人類達の声がそれに共鳴してうねりとなった!
それと同時に動き出した怪異殺しの群れは、一種異様な圧力となってユウゴ達に迫ってくる!
「ははっ!そうこなくっちゃな!」
敵のテンションの上がり具合に反応して、明らかにハイになってるユウゴに、冷静な仲間達がため息を吐く。
「あー、もう……スイッチ入っちゃってるなぁ」
「とにかく、きっちり仕事はこなすとしましょか」
テンションが上がる者と下がる者。
傍目に見ても温度差は歴然としていたが、それでも人類の希望である神人類と、異世界の住人を交えた魔王達の本隊同士が正面からぶつかりあった!




