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07 突然の襲撃者

「さて……始めるか」

ユウゴは大きく息を吸い込み、自分の対内で妖力と混ぜ合わせる。

そうして吹き出された彼の吐息は、毒々しい紫色に染まっていた。

それは風に散らされる事もなく、まるで意思を持っているかのように、真っ直ぐ狙いの村へと進んでいく。

毒の息を見送った二匹の妖怪は、人間より遥かに優れた耳に神経を集中させた。


ざわざわとした喧騒。そこに驚いたような声が上がり、しばらくして苦鳴が混じると、やがて静寂が訪れた。

そこからさらに十分ほど待ったが、物音がほとんど無いことを確認したユウゴ達は、そろそろと村に近づいていく。


森が途切れる辺りまで接近した所で、再び様子を窺う。

村には獣くらいなら防げそうな柵が設けられており、入り口付近には見張りらしき男が倒れていた。

しっかりと毒が回っているようで、泡を吹いて白目をむいている。

その様子を見て、ユウゴ達は森から出ると村の方へと歩を進めた。

倒れている男を調べると、死んではいないようだが意識は完全に失っている。

「なるほど、俺の毒はそこまで強くないみたいだな」

もちろん個人差はあるだろうが、大の大人が昏倒するくらいと判断して良いだろう。


「それにしても、この村人は……」

ヒサメが怪訝そうな顔をする。それはユウゴも同感だった。

倒れている男は、村人にしてはやたらと人相が悪い上に、身に付けている衣服も妙に傷んでいる。

見張りに立つ際、いざという時のために持っていたであろう武器も使い込まれたハンドアクスと、農業がメインの村人らしからぬチョイスだと二人は思う。

どちらかと言えば、世紀末風モヒカンといった方が似合う気がする。

「まぁ、人を見た目で判断するのもな……」

もしかしたらこの男は森に入る仕事をしているからハンドアクスなのかもしれないし、貧しいから傷んだ服を着ているのかもしれない。

「そうだね……ま、そんなことより村の様子を調べてみよう」

ヒサメに促されて、二人は村の中へと侵入していった。


「……どういう事だ、これは?」

ユウゴが戸惑いながら、隣のヒサメに問う。

村の中に倒れていたのは、門番と同じようにガラの悪いチンピラ風の男ばかりだった。どうみても農業等に勤しむ集団には見えない。

さるに祭りかと思われていた騒がしさも、ただの酒盛りだったらしく、周囲にはアルコールの臭いが漂っている。

「ひょっとして……こいつらは傭兵部の方に依頼が出てた、討伐対象の野盗達じゃかいかな?」

その言葉にユウゴはハッとした。そうだ、この地方にはいざという時のスケープゴートにしようとしていた野盗の集団がいるのだ。

なんということはない、ユウゴ達が実験をする前に、この村は野盗の襲撃を受けていたのだろう。

「え、じゃあ俺達この村を救った事になるのか?」

「そうだねぇ……でも毒も巻いてた訳だしねぇ……」


そんな会話をしていた時だった。

不意に、暗闇から赤い光が二人に向かって飛んでくる。

何だ……そうユウゴが口にする前に、その赤い光は彼の顔面に被弾し、爆発音と共に炎の華を咲かせた!

「ぐえーっ!!」

絞められた鳥のような悲鳴を上げて、ユウゴが倒れ伏す!

「なっ! 炎の魔法!?」

ユウゴを襲った魔法にヒサメが驚愕していると、彼等の反対側……村の奥から戦士風の者達が二十人ほど姿を現した。

一瞬、毒で倒れなかった野盗の攻撃かとも思ったが、それなりに整えられた装備と、首に下げられた認識表で、襲撃者は【ギルド】の者だと理解する。


「標的! ミノタウロスが一、邪妖精が一!」

正体を現しているユウゴとヒサメを確認したリーダーらしき青年が、大きな声で仲間に呼び掛ける!

「野盗どもを倒したのは、恐らくこいつらだ! 油断するなよ!」

「まさか野盗討伐にきてこんな魔物と鉢合わせとはな!」

「抜かるなよ、お前ら!」

その物言いから、彼等が野盗討伐の以来を受けてきた集団だとヒサメは察する。

いくつかの混合チームらしいその集団は、応! と答えると適度な間合いを取り、各々が上手く立ち回れるようにしてユウゴ達を囲んだ。

よく統率の取れた動きで、戦士達がじわりと包囲網を狭めようと一歩踏み出した時、倒れていたユウゴがバッと身を起こす!


「くっそ、熱っちいなぁ!」

開口一番に割りと平気そうな声をあげた彼を警戒してか、戦士達は少しだけ後ろに下がる。

「おお! 無事だったんだね!」

「ああ、結構痛かったけどな」

顔を撫でながらゆっくり立ち上がったユウゴは、自分達を囲む戦士達を見回す。

前衛の戦士が二十人。そして後衛の魔法使いや回復術士が七人。

そして……。


戦士達のさらに後方を睨むユウゴの視線を遮るように、リーダーの青年が立ちはだかった。

「顔面に火球の魔法(ファイア・ボール)をまともに喰らってダメージがほとんど無いのか……」

信じられないといった感じで呟くリーダーは、続けて叫んだ!

「このミノタウロスは要警戒だ! あと邪妖精がエロ過ぎるから気を付けろ!」

「くっ! マジか……マジだ!」

「異常にタフなミノタウロスと異常にエロい邪妖精……なんて組み合わせだ!」

「はぁ……エロっ……」


「なんでエロの方に目がいってんだ、お前らは!」


ユウゴの戦力よりもヒサメの色香に注目が集まっていく戦士達に、思わずユウゴはツッコんだ!

そのツッコみに、一瞬戦士達がハッとするも、彼等の目はまたヒサメの方へと向けられていく。

「……お前、何かやったのか?」

何だか、欲求不満とかだけではなさそうな戦士達の雰囲気に、こっそりヒサメに尋ねてみる。すると彼女は、ニヤリと笑って魅了の魔法(チャーム)を少々……と答えた。

「あれだね。男を魅了して惑わすのは雪女の基本だから」

雪女の本質……つまり男を惹き付ける雪女の能力を上乗せして魔法を使ったということなのだろう。

それはそれで凄いのだが、同じ男として色香に惑わされている彼等を見ていると、いいように転がされているな……と、少しユウゴは切なくなる。


「あはぁん♥」

無駄にしなを作って色気のあるポーズをヒサメがとれば、それに釣られて男達はそちらへフラフラと引き寄せられる。

明らかに遊び始めた彼女へ、再び戦士達の後方から火球の魔法が放たれた!

「危ねぇ!」

思わず飛び出してヒサメを庇い、ユウゴはその背で火球を受け止めた!

またも爆発音が響き、ユウゴの動きが止まる。

本来ならここで一気に戦士達が畳み掛けて来るのだろうが、今の奴等は骨抜きになっていて、まともに連携が取れていない。

その状況に少しばかり感謝していると、魔法を放ったとおぼしき女魔法使いが怒声を上げた!


「なにやってんの、あんたら! いい加減、シャキッとしなさい!」

怒鳴り付けられて、ようやく戦士達の瞳に力が戻る。

そうして彼等は振り替えると、女魔法使いに向かって口を開いた。

「うるせぇ、貧乳! 少しくらい目の保養させろや!」

この唐突な暴言に、魔法使い達は唖然とし、ユウゴも言葉を失う。

わずかに無言の時間が流れたが、我に返った魔法使いがブチキレた!


「ひ、貧乳って何よ! しかも今ここでいう必要があるのっ!」

「貧乳に貧乳って言って何が悪い!少しはあの邪妖精みたいに出るとこ出してみろや!」

「な、なんですってぇ!?」

やがて戦士達の一行は、男と女の陣営に別れて内輪揉めしだす。

「お、落ち着けよお前ら……今はそんな事で言い争ってる場合じゃないだろ……」

完全に無視されて、つい仲裁に入ってしまったユウゴ。そんな彼に、両者から罵声が投げつけられる!

駄牛だの、百グラム銅貨一枚だのと手酷く罵られたユウゴが何もそこまで言わんでも……とへこんでいると、クイクイと腕を引っ張られた。


「奴等が揉めてる今がチャンスだよ。さっさと逃げるとしよう」

ユウゴの腕を引いていたヒサメが、そんな提案を口にしてきた。

確かに彼等の注意はユウゴ達から完全に外れており、今なら難なく逃げられるだろう。

「そう……だな。逃げるか」

揉めてる今なら戦士達を倒すのは容易い。

しかし、下手に損害を与えて自分達が討伐対象にされても困る。

それに先程リーダー格の青年がことさら大声で現場の状況を叫んだのは、彼等のさらに後方にいるであろう仲間に伝える意味もあったに違いない。

全滅させればユウゴ達の事は謎になるかもしれないが、最後方にいる奴を捕まえるのは至難の技だ。

ならば毒の実験も済ませたのだから、ここは逃走するのも悪くない。

彼等の本来の目的である、野盗の討伐はある意味成されているし、暗い闇夜の森に逃げ込めば深追いもしてこないだろう。

そうと決まれば善は急げ。

ユウゴはヒサメを小脇に抱えると、言い争う戦士達に背を向けて一目散に駆け出した!


「っ! 待ちやがれ!」

背を向ける獲物(ユウゴ)達に、やることを思い出したのか、一旦ケンカを中断して戦士達も動き出す!

だが、初動の差と種族における身体能力の差が味方し、ユウゴ達ははどんどんと戦士達を引き離していった。

ついでにヒサメが地面の一部を凍らせて、転倒を誘発する。

時おり飛んでくる魔法や弓矢に悉く当たりながらも、ユウゴの足は止まる事なくなんとか森に逃げ込む事に成功。追撃からも身を隠す。

そのまま森を駆け抜け、拠点にしていたキャンプ地点まで到着すると、ようやく一息ついた。


「いやぁ、ちょっとしたトラブルはあったけど、とにかく実験は成功だね」

「そうだな、上手く使えば『神人類』とやりあう時の手札にできるだろう」

それなりに手応えがあった能力実験に満足しつつも、ユウゴはなんとなく逃走してきた村の方に目を向ける。

そうして思うのだ。なんだか、ヒサメに引っ掻き回されたような気がするな……と。

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