67 囚われの女達
ユウゴ達を乗せた馬車は、街の中の大きな建物の前で止まった。
「こちらへ……」
御者台から降りてきた敵リーダーが、小声でユウゴ達に降りるよう促し、結んである紐の先を持って先導する。
建物の中には特に見張りもおらず、女達が集められている大部屋へとまですんなりと案内された。
(見張りもいないとは、不用心だな)
(ここから逃げても、街にいる男はすべてあのお方の配下ですので……)
囁くようなユウゴの呟きだったが、敵リーダーの答えで納得できた。
部屋の扉を開くと、中には三十人前後の女性が床にすわりこんでいる。
皆、一様に俯いて信じていた男達に裏切られた悲しみと、これから自分達がどうなるのかといった不安でいっぱいのようだ。
そのためか、新しく入ってきたユウゴ達に顔を向ける者は誰一人としていなかった。
(思ったほど、集められた女達は多くないな)
(そやね……城に連れて行くいうんは、これで全員なんか?)
ヒソヒソと話すビャッコの問いかけに、リーダーはコクリと無言で頷く。
この街から王都までは数日ほどかかる距離があり、モンスターからの護衛や食糧供給の問題から、一度に輸送できる人数はこれくらいが限度なのだそうだ。
とにかく、この女達に紛れて王都に向かう事は決まっているので、ただでさえ目立つユウゴ達は部屋の角に移動することにした。
(私はどうしましょう……?)
いまだビャッコの支配下にある敵リーダーが尋ねてくる。
(あー、そうやね……コヒャクの内情を調べて、ウチらに有益そうな情報を集めといてもらえるやろか)
かしこまりましたとリーダーは一つ頷いて、何事もなかったかのように部屋を出ていった。
(あれに掛かってる術はどれくらい持つんだ?)
(ざっと二、三日くらいやね。せやから、使い捨てであって本当なや情報を持ってくる事はないやろね……)
意外にシビアなビャッコのコメントだったが、ユウゴ達はそんなものかと納得するだけだった。
それからユウゴ達は部屋の角に座り込み、あちらに何らかの動きがあるのを待つ事にする。
しばらく時間が流れ、扉の向こうからガチャガチャと金属音をさせながら、数人がこちらに近づいてくる気配があった。
バン!と扉が開かれると、全身鎧を身に付け、腰に剣を下げた騎士風の男達が室内に入ってきた。
「待たせてすまなかったな。これから君達を王城へと移送する」
先頭に立つ三十代くらいの騎士がそう声をかけると、部屋の中に踞っていた女達からすすり泣くような声が聞こえ始めた。
「……まず、誤解しないでほしいのだが、我々は君達に危害を加える気はない。とはいえ、抵抗する者や指示に従わない者はその限りではないので、素直に言う通りにしてくれ」
一般の非力な女性が、屈強な騎士に逆らえるはずもない。
女達は言われるままに、騎士に連れられて次々と部屋を出ていった。
「さあ、後は君た……ち……」
大部屋の端にいたため最後になったユウゴ達を促そうとして、騎士達の言葉が詰まる。
五人の美女に一体の怪物。
そんなアンバランスな一行に、目を奪われたからだ。
「っ!!」
「よせっ!」
怪物の姿に剣を抜きかけた部下を、隊長らしき騎士が止める。
「し、しかし隊長! あれはどう見ても……」
「狼狽えるな!」
隊長に一喝され、部下は剣から手を離した。
それを見届けた隊長は、一つ咳払いをしてからユウゴ達に向き直る。
「……話は聞いている。君達がエルフの森に向かった部隊を壊滅させた、他国の【ギルド】メンバーだな?」
ユウゴ達が待っている間に、ラヴァから口づけされた門兵が目を覚ましたのだろうか……どうやら、ユウゴ達の事は上に伝えられていたようだ。
「……確かにそうです。それで、なにか私達は処罰の対象にでもなったのですか?」
誤魔化せる雰囲気ではないため、あえてユウゴは強気の姿勢で隊長に迫ってみせた。
それに怯んだ訳ではないだろうが、隊長は首を横に振る。
「いや、我々は何もしない。だが、君達は直接あのお方の前に出てもらい、そこで裁きを受ける事になるだろう」
ユウゴの眉が、一瞬だけピクリと動いた。
一番面倒だと思っていたあのお方とやらに接近するチャンスが、向こうからやって来たのだ。
これを僥幸と言わずしてなんと言おう。
「……フッ、どんな処罰が下されるか、楽しみですね」
「そう言っていられるのも、今の内かもれんがな」
囚われの身でありながらも不敵な態度を崩さないユウゴ達に、隊長は意味ありげな笑みを浮かべた。
「お前達は、どこかの【ギルド】に所属している連中なのだろう? いままでそういった類いの奴等が、何組この国に入ってきたか……」
やれやれと肩をすくめ、先人達の末路を口にする。
「あらゆる男達はあのお方の支配下に入る事を望み、そんな彼等に裏切れた女達は心を折られた」
そして、あのお方へ忠誠を誓った【ギルド】の精鋭は、そのまま親衛隊として仕えているという。
「女ばかりだから裏切りの心配はないと楽観視しているのかもしれんが、多少暴れた所で制圧されるのは目に見えているぞ」
ユウゴ達を刺客と疑っているからなのか、脅しを含んだそんな話で下手に戦闘行為に及ばないよう釘を刺す。
「それは恐ろしい。精々、気を付けましょう」
そう答えたユウゴ達は、まったく怯えた気配も見せ無いくせに、震える真似をして見せる。
並の者がやれば、それこそ手打ちにされてもおかしくはない。しかし、絶世の美女がやればまるで映画のワンシーンのように映えて見えた。
「……いい度胸だ」
半ば本気で感心した様子で呟いた隊長は、騎士達に指示を出してユウゴ達を別室へと促した。
「さて、君達を移送する前に確かめなければならない事がある」
小首を傾げるユウゴ達。そんな彼女達の約一名に、イラッとした顔で隊長はラヴァを指差した。
「お前は明らかに異常だ!」
断言されたラヴァは、ふむうと顎を撫でる。
「女と言い張っているが、なんだその髭は!?」
「エルフの女性も体毛が生えているのだ、我輩に髭があってなんの不思議があろうか?」
ラヴァの隣にいるフェルリアが頷くと、思わず隊長は口ごもってしまう。
隊長が言葉を探して押し黙ったのをチャンスと見たのか、ラヴァがどんどん畳み掛けていった。
「だいたい、この豊満な胸を見ても我輩を疑うなんて、失礼しちゃうのである!」
ミシミシと空気が張りつめるほど、ぶ厚くパンプアップさせた胸元を主張しながら、ラヴァは得意気な顔をする。
「ふざけるな、女の胸と大胸筋は別物だろうが!」
激昂し、飛び出しかけた騎士の一人にシンパシーを覚えたユウゴは、我知らずうんうんと深く頷いていた。
その後しばらく揉めていたが、ここでヒサメが口を挟んだ。
「外見で問答をしていても始まらないだろう……一発で男か女かわかる方法があるじゃないか」
そんなヒサメの一言に、一斉に注目が集まる。
「あるだろう? 男にあって、女には無いモノが」
そこで騎士達はハッとしたような表情になった。
あまりにもラヴァの外見にインパクトがあったため、そんな簡単な事を失念していたのだ。
「確かにそうだ、それなら一目瞭然だな!」
一瞬、勝ち誇ったものの、隊長はラヴァを見て嫌そうに顔を歪める。
なぜなら、それを調べるのは責任ある彼の仕事だったからだ。
「ふふん、では我輩の秘密の花園をお見せしよう」
楽しそうなラヴァとは対照的に、隊長の嫌そうな顔はますます濃くなっていく。
それでも、務めは果たさなくてはならない。
覚悟を決めた隊長は、ラヴァと共に一行から離れ、彼女(?)が捲り上げたスカートの中を凝視した。
少しの時間、そのまま固まっていた二人だったが、やがてどちらからともなく、こちらに戻ってきた。
「隊長ぉ! どうでしたかっ!」
部下の騎士達が殺到してラヴァの性別を尋ねる。
すると、隊長は両手で顔を覆い、ガクガクと激しく震えながら小さな小さな声を絞り出した。
「………………無かった」
その呟きのような報告は、騎士達にとってショックだった。
そして、ユウゴ達にとってもあの子供だましな瞬間芸で騙される騎士隊長は衝撃的なものだった。
「なんであれで騙されるんだよ……」
「純粋なんだろうか」
「ただのアホウじゃろう」
「それはストレートすぎて、もうちょっとその……手心というか……」
いまだに震えている隊長を眺めながら、ユウゴ達はなんでこんな残念な奴が騎士の隊長やってるんだろうと首を捻っていた。
しかし、戸惑うユウゴ達と同様に、隊長の言葉を聞いた騎士達も平静ではいられなかったようだ。
「無かったということは……」
「奴は本当に、女……?」
「あのおっぱいの冒涜者が……」
ざわざわと動揺する部下達の状況を見て、それを鎮めるために一足早く立ち直った隊長は、パンパンと手を打って注目を集める。
「俺が取り乱してすまなかった。が、お前らも落ち着け。たとえこの化けも……女がなんであれ、我々は己の命令を粛々と果たすだけだ!」
それが騎士の本懐だと告げる隊長の言葉に、ほとんどの者が自らに課せられた使命を思いだし、仕事を全うせんと立ち上がる。
「行きましょう、隊長! 彼女達を、あのお方の所へ連れていきましょう!」
「ああ!」
部下に向かって大きく隊長は頷いた。
「見苦しい所を見せてしまった。さあ、あのお方の元へ参ろうか」
ラヴァショックから立ち直った彼等に、そう声をかけられたユウゴ達は、ノリで生きてるような連中の姿に薄笑いを浮かべる。
そうして先導して部屋を出ていく隊長の背中を追うように、縄に繋がれたユウゴ達も部屋を出ていった。




