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63 その後のエルフとドワーフ

この世界での料理はこれが食い納めとばかりに、食堂のメニューを全制覇したユウゴ達は、雪崩打つように宿へと向かう。

さらに大浴場で汗を流し、夜はそれぞれ自由に行動をする事にした。

飲む者、寝る者、愛し合う者様々だったが、各人有意義な時間を過ごして迫る大仕事への英気を養う。


そうして気力、体力を回復させた(一部は消耗した)ユウゴ達一行は、戦乱の地となるコヒャク国のさらに奥を目指して拠点の街を後にした。


「……やはり見られておるのぅ」

何となく居心地が悪そうにフェルリアが呟く。

彼等『氷刃』チームが今歩いているのは、ギスハーブン大森林。

そう、先立ってその族長であるリュミエルを討ち取った、いわばこちらを仇と見なしているであろう、ほぼ敵対勢力と言えるエルフ達の縄張りをユウゴ達は進んでいた。

「ほっとけ、ほっとけ。攻めて来るなら捻り潰せばいい」

相手にするなとフェルリアを宥め、一行はどんどん突き進んで行く。

なぜ、こんなルートを行くことにしたかと言えば、ドワーフの大空洞を利用するのがもっとも早道となるからだ。


リュウセ国にしろブゲン国にしろ、今の情勢で国を経由しようとすれば出入国の審査でかなりの足止めを食らうのが目に見えている。

しかし、ドワーフの勢力圏であるガハサ山脈の地下大空洞ならば、四国どれにも通じてる道があり、なにより顔見知りであるウヌム達がいるために、面倒な手続き等の手間がない。

こっそり入って、さっさとレズン確保(用事)を済ませたいユウゴ達にとっては、これが格好のルート選択だった。

とはいえ、エルフ達から見ればユウゴ達は族長殺しの仇であり、フェルリアのような裏切り者を抱えている不倶戴天の敵であろう。

そうである以上、いつ襲われるかわからない危険な状況ではあるのだが、今の所は遠巻きな視線があるだけで直接的な絡みは一切無かった。

そのまますんなりと素通りできるかと思っていた矢先、脇の茂みから飛び出してユウゴ達の前に立ちはだかる影が一つ!


「アニキ!」

警戒した『氷刃』メンバーに対し、彼等の前に姿を見せたエルフの男は親しげにそう声をかけてきた。

だが、「アニキ」等と呼ばれるほど自分達を慕うエルフがいただろうか?

もしかすると、エルフ語で敵対する意味でもあるんじゃないかとユウゴが考え、フェルリアに尋ねようとしたその時、当のエルフは「俺ですよ、アニキ!」ともう一度声をかけてラヴァに向かって手を(・・・・・・・・・・)振った(・・・)


「むっ!お主はもしや……」

「そうです!ラヴァのアニキに愛の指導(・・・・)を頂いた者です!」

気付いたラヴァに、ときめく乙女のような笑顔を浮かべ、エルフの男は駆け寄ってくる。

(あ、こいつはあの時の……)

近付いてくるエルフの顔に、ユウゴも彼を思い出した。

『氷刃』が最初にこの森林地帯を訪れた時、襲いかかってきたエルフの一団がいた。

彼は情報収集のために捕虜になり、ラヴァに尋問(・・)されたエルフだ。

「初めの数日は尻が痛くて仕方なかった……」「やがて癖になってきた…」「今は同士を増やしている……」等と、聞きたくもないもない心変わりの経緯が漏れ聞こえてくる。


「族長が討たれた際に、アニキ達も関与していたと聞きました……」

アニキ達()の所で、一瞬だけフェルリアに視線を送りながらも、エルフの男は話を続けた。

「絶対だと思われていた族長が敗北したことで、エルフの中でも意識改革が起こったんです」

ただ一人の絶対君主に盲従するのではなく、代表者を数人選出して話し合あい、最善の結果を目指すよう改革していくとの事だった。

また、他種族や忌み子への偏見を無くし、優れた意見や人材を取り入れられるように頑張るとの事である。

「すぐには蟠りは無くせないかもしれませんけど……俺達には、アニキが教えてくれた男同士の熱い繋がり(・・・・・・・・・)がありますからっ!」

「うむっ!頑張るのである!」

激励するラヴァにうっとりとした目を向けるエルフの男。

そんな二人を、皆うんざりしたような顔をして見ていたが、特に同族(エルフ)であるフェルリアはかなり難渋を示していた。

「別にこの世界に未練は無いが……しかし、自分の種族に変態趣味の文化が広がりそうになるのを目の当たりにするのは……複雑じゃ……」

現代日本(むこう)じゃ、たまに有ることだからと慰めにならない慰め方をした後、エルフ達の今後の健闘を適当に祈って、ユウゴ達はギスハーブン森林地帯を抜けるべく先を急いだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おう、なんじゃ。お前らではないか!」

森を抜け、山道を登ってきたユウゴ達を見つけたドワーフの一人が警戒を解いて親しげに近付いて来た。

前に訪ねた時のように、ガハサ山脈の地下大空洞に繋がる洞窟の入り口を警護しているようだったが、以前と違って人数は少し減っている。

「もうアンデッドは群れで来たりしねぇだろうがらよ、警護の人数を前と同じに戻したんだ」

そんな会話が聞こえたからだろうか、洞窟の中からさらに二人のドワーフが姿を見せた。

「お!おめえらじゃねぇか!」

「本当だ、お前らだ!」

「名前覚えろよ」

人間の顔の見分けがつかないのか、たんに無頓着なだけなのか……なんとも雑なドワーフ達にため息が漏れる。

それはさておき、ユウゴは長の一人であるウヌムに頼みたい事があると彼等に告げた。

「おう!ちょっと呼んでくるからよう!」

少し待っとれと言うが早いか、ドワーフは坂道を文字通り転がるようにして地下へと向かっていった。


それから少しの間、警護のドワーフ達と雑談をしていると先程のドワーフが戻って来た。

「あれ?随分と早いね?」

確か、この入り口からドワーフの集落はそれなりの距離があったはずだが、予想以上に早く戻ってきたドワーフに、ヒサメが怪訝そうな表情を見せる。

「おうよ、大空洞には連絡用の魔法道具があるからな!」

あちこちに坑道を伸ばし、鉱石を掘り出すドワーフ達も、時として崩落等の事故や、地下を根城にするモンスターの襲撃を受けることもある。

その時の緊急連絡用アイテム(範囲は大空洞内限定)が各入り口近くに備え付けられているとの事だった。

「前に来たときには気がつかなかったな」

「まあ、バタバタしでたがんな。でよう、いま手が離せねえからそっちが来いってよ!」

「そうか。じゃあ、お邪魔するぜ」

邪魔はするなよと嗜めるドワーフに、人間の挨拶だと苦笑しながら洞窟に入る。

前にも来た事があるので、勝手知ったるなんとやら、ユウゴ達はスイスイと洞窟を抜けて大空洞までたどり着くと、ウヌムの納める集落の方へと歩を進めた。

前のように、下位火竜(レッサーサラマンダー)の乗り合い竜車でも通り掛からない物かなと思っていたが、残念ながら今回はそう上手くはいかず、テクテク歩いた『氷刃』チームは程なくしてウヌムの集落へとたどり着いた。

適当にすれ違うドワーフ達に挨拶をしながら、集落の奥にあるウヌムの家に向かう。

そうしてたどり着いた家のドアをノックすると、中から入って来いと声がかけられた。


「よぉ、ウヌ……ん?」

家の中を覗き込んだユウゴだったが、リビングに彼女の姿がない事に気づいて首をかしげる。

「おう、こっちじゃ!」

戸惑う気配を察したように、家のさらに奥に位置する工房から呼ぶ声がかかった。

そちらの部屋に向かったユウゴ達が見たものは、様々な鉱石やモンスターの素材を自分の前に並べて吟味しているウヌムの姿。

「よう、どうしたんじゃ?」

彼等に背を向け、素材の目利きをしたままのウヌムに、ユウゴは大空洞を利用してコヒャク国まで行かせてほしいと申し出た。

「まぁ、他ならぬお主らの頼みじゃし、それは構わんよ。ただ、条件が一つある」

「条件?」

怪訝そうなユウゴの声に、そこで初めてウヌムは振り返り、ビッと彼の腰辺りを指差した。

「お主のその武器……儂にメンテナンスさせろ」

一瞬、意味が理解できずにポカンとする。が、どうやらドワーフの名工であるラーダッタ作の武器を、メンテナンスがてら詳しく調べたいという事らしかった。


「くふふ……この刃の輝き、素材となったモンスターの命を感じさせるフォルム……た、たまらんのぅ……」

手渡された二丁のハンドアクスに頬擦りしそうな(危険だから止めた)ウヌムは恍惚とした顔を浮かべ、今にもよだれを流さんばかりだ。

イカれるほどの腕利き職人は狂人と紙一重などと揶揄される事もあるが、それが本当なのだなと染々と思う。

「まぁ、元の世界(あっち)でもたまにあのクラスの変態(マニア)はいるよね」

「あー、いるいる」とヒサメの言葉に納得するユウゴとビャッコに、こちらの世界の住人達(フェルリアたち)は、少し漏れそうになっていた嫌そうな表情を上手く隠すのであった。

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