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58 幼帝の園

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ガハサ山脈でドワーフ達の集落を侵略者から守った戦いから、約一月がたった。

「……ようやく着いたな」

『氷刃』メンバーを乗せた小舟の舵を取りながら、ユウゴは眼前に迫る魔王『幼帝ロリエル』の島を見ながら呟く。

「いやぁ、ぴったり一ヶ月だったね」

道程を予想したヒサメの言葉に、疲れたように皆が頷いた。

それほど、今回の旅路は困難なものだったのである……。


二人の『神人類』を仕留めた彼等は、予定した通り一旦、拠点の街に戻ってから急ピッチで準備を整えて街を出た。

そうしてなるべく人目につかぬよう、深山峡谷を越え、時に国境をも越えて他国への密入国などをしながら海へと向かっていた。

その道中で様々なモンスターとの戦いもあったが、それはまた別の話。

しかし、そんな冒険を乗り越えて、彼等は今ここに至ったのである。


「ふぅ……なんて言うか、異世界ファンタジーな大冒険を堪能したぜ」

来たばかりの事はゴブリン相手に喜んでいたユウゴも、さすがにお腹いっぱいといった感じで、言葉を漏らす。

「せやなぁ……でも、ウチは異世界(こっち)に来て間もないから、結構楽しめましたわ」

そんなユウゴに比べて、まだまだ異世界が物珍しいビャッコは、良い経験でしたとコロコロ笑った。

「さて、どっかに上陸出来そうな浜はないかな……」

海も縄張りとする妖怪牛鬼であるユウゴにとって、潮目を読みながら自由に操舵をするなど朝飯前だ。

島をぐるりと回るようにして、小舟を着けられるポイントを探す。

島を半周ほどしたところで、ちょうど良い浜辺を見つけ、ユウゴはそこから上陸することにした。


「揺れない大地は素晴らしいのう……」

小舟を浜に着けると、陸地を踏みしめたフェルリアが感慨深げに呟く。

船慣れしていない者達の様子に苦笑しながら、ユウゴは辺りを見回した。

「さて……ロリエルの城ってどこだったかな」

「ん? ユウゴはヤツの城に喚ばれたのではなかったか?」

ユウゴの言葉を聞いたフェルリアが、不思議そうに問いかける。

「あー……俺は、あいつの城から逃げて来たんでな」

「なんで、そんなことになったのですか……?」

「それはね、ここの魔王がすごい変態だからだよ」

ユウゴの最初の仲間であるヒサメは、出会った時に彼から聞いた魔王ロリエルの性癖について皆に話す。

それを聞いたメンバー達は、なんとも言いがたい表情を浮かべていた。


「百歩譲って児童愛好家なのは良いとして、そんな理由で支配地を広げようとしておるとは……同じ魔王として嘆かわしいものであるな」

目頭を覆うラヴァに対して、ユウゴ達の目はお前が言うなと語りかける。

「まぁ、変態だろうがなんだろうが、俺達を還してくれるならどうでもいいさ」

魔王はもう一人いるものの、頑張って世界を支配して、精々ロリショタな楽園を勝手に築くといい。

投げやりに言う彼に、この世界を捨てる覚悟のメンバー達から非難するような声が上がる事はなかった。


かつて一目散に逃走したユウゴに変わって、同じロリエルに召喚されたビャッコが魔王の城まで案内を買って出てくれた。

「しかし、あの可愛い魔王さんがそないな野望を持っとるとは、知りませんでしたなぁ」

「なんだ、お前は喚ばれた時に聞かされなかったのか」

「ええ、ただ先に喚ばれたユウゴさんに協力せぇ言われただけですから……でも」

少し含みを持たせて言い淀むビャッコに違和感を感じ、どうしたとユウゴは問いただす。

「いえね、実はあの魔王さんに変化の術は使えへんか聞かれまして……」

おそらくロリエルは、以前ユウゴが披露した変化の術の事をを覚えていたのだろう。

「……教えたのか?」

「や、術は教えられへんでしたけど、変化できる呪符をあげてしもたんですわ」

ビャッコの言葉に、嫌な予感しかしなかった。

「人間の国に侵入する際に使用したい言うてなぁ……でも、ユウゴさん達の話を聞いとったら、くだらん事に使われなんだかと心配になってきましたわ」

安い物じゃないからと、小さくため息をつくビャッコ。

そして、その心配は見事に当たる事となる。


二日ばかりかけて、島のほぼ中央に位置するロリエルの城にたどり着いたユウゴ達だったが、様子がおかしい事に気づいて訝しげな表情を浮かべた。

「なんだ? 門番の一人もいないなんて……」

普通の城ならば、来訪者や敵に対して見張りの意味も込めて番人を置くはずなのだが、今はまったく姿が見えない。

魔王の居城故に来訪者がそうそうあるとは思わないが、万が一の敵に備える様子もないのは不用心にも程があった。

「おおーい! 誰かいないのかぁ!?」

とりあえず?ユウゴが大声で城の内部にいるであろう、魔族達に呼び掛ける。

すると、物見らしい窓にチラリと人影が写り、次いで城門がわずかに開いて、こちらを覗き見る者の姿が見えた。


「!?」

ユウゴ達は思わず言葉につまる。

なぜなら姿を見せたのは、こんな魔王の城に似つかわしくない、キラキラとした美少年だったからだ。

さらに後ろから二、三人の美少年や美少女が顔を見せ、そのうちの一人が声を上げた。

「あ!あれって、ビャッコさんだ!」

「本当だ!」

「それに、ユウゴもいるよ」

ユウゴとビャッコの事を見知っている辺りで間違いない。

この美少年、少女はロリエル配下の魔族達である。

やはり、ビャッコの残した変化の呪符は、くだらない事に使われていたようだった……。


ごつい化け物が少年少女のロールプレイをしている事に、こちらの世界生まれの三人は何やってんだと言わんばかりに嫌そうな顔をするが、ユウゴ達妖怪組はしょうもない真似しやがって程度の感想しかない。

彼等妖怪は、美少年少女(そういうもの)にも化けるからだ。

ただ、必要に応じて化けるのと、趣味嗜好で化けるのとでは訳がちがう。

だからユウゴは、チャンスがあれば魔族(こいつら)ぶん殴ろうと密かに決意していた。


とりあえず城内に通されたユウゴ達は、そのままロリエルの元へと向かう。

道中、彼等を案内をしてくれている美少女が、実はユウゴがこちらに来たばかりの時にぶちのめしたミノタウロスだと知って頭を抱えそうになったのはさておき、ロリやショタだらけの城内の最奥にユウゴ達はたどり着いた。

「ロリエル様、ビャッコさん達が戻って来ました」

美少女(ミノタウロス)が声をかけても返事はない。だが、彼女(彼)は構わず扉を開けた。


──玉座の間、なのだろう。

ユウゴが召喚された際に見た室内と、同じようなレイアウトだ。

ちがう所と言えば、ここにも美少年、少女が数多くたむろっている事だろうか。

キャッキャッ、ウフフと戯れる子供達に化けた魔族達。

そして、そんな彼等を至福の表情で眺めるのは、玉座に鎮座する魔王の一人、幼帝ロリエル!

左右に美少年と美少女を侍らせる、史上最悪のロリの姿がそこにはあった。


「……おい、ロリエル」

堂々と室内に入ってにも関わらず、無反応のロリエルにユウゴが呼び掛けらる。そこで初めて、彼女は彼等を認識したようだ。

「……なんで大人がここにいる?」

しかし、ロリエルの意識はユウゴ達をただの邪魔物としか見なさなかったようで、立ち去れとだけ告げると可愛らしい外見の部下達を愛でる作業に戻った。

「こ、こいつ……」

常軌を逸した幼帝の様子に、さすがのユウゴ達も動揺してしまう。

「もはや彼女の目は現実を見ていない……この光景が彼女の楽園なんだね」

自分で作った楽園にドハマリして現実が見えなくなっている様は、滑稽ではあるが幸せそうでもある。

個人的には面倒だから放置しておいてやりたい所だが、帰るためにはそうもいかない。


「……荒療治しかねぇな」

ポツリと呟き、ユウゴはビャッコに幻術を解くよう頼んだ。

「確かにこのままじゃ埒か空きませんなぁ……ウチにお任せください」

快く引き受けた彼女は、ササッと印を結び、早口で呪文を唱える。

「仮初めの幻よ、消えたまえ! 急々如律令!」

彼女が唱え終わった瞬間、少年少女の外見が砕け散り、仲睦まじく絡み合う屈強な魔族達といった、悪夢のような絵面が一面に広がった!


「ぎゃああぁぁぁぁっ!!!!」


周囲で悲鳴がこだまし、阿鼻叫喚の地獄となる。

魔族達は血の涙を流し、過呼吸に陥って倒れる者が続出していた。

この光景がここだけでなく、城内全てで繰り広げられているのだろう、部屋の外からも嘆く声と倒れる音が届いてくる。


「落ち着けお前ら!」

慟哭する魔族達を片っ端から気絶させ、ユウゴは玉座に座ったままのロリエルに話しかけた。

「これで目が覚めたか? 遊びは終わりだ、お前は約束通り……」

元の世界に帰らせろ……そう続けようとしたユウゴは、眉をひそめる。

ロリエルの様子がおかしい。

その目は焦点み結ばず、何やら燃え尽きたように真っ白になって、微動だにしていないのだ。

そんな魔王の様子に、ヒサメがそっと脈を取り、胸に触れて鼓動を調べる。と、彼女はユウゴ達に振り向いて首を振った。


「……死んでる」


ポツリと告げるヒサメの一言に、今度はユウゴ達の驚愕する声が城の外まで響いた。

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