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52 選択肢

「おおぅ! 大丈夫じゃったか、お主ら!」

大空洞まで降りてきたユウゴ達を、先に倒したアンデッドの処理を陣頭指揮していたウヌムが迎える。

だが、その敗北感がありありとした様子に、二の句が紡げないようであった。

ドワーフ達に、とりあえずはアンデッド軍団の進行は抑えている事を告げ、ひとまず休息を取らせてもらう事にする。

怪我人(フェルリア)がいることや、次の行動の話し合いもあるのでチームごとに部屋を用意してもらい、休憩後に今後の方針について皆で会合を開く事だけを決めて、早々に宛がわれた部屋へと移動していった。

ユウゴと顔見知りと思われている新参のビャッコは、当然のようにユウゴ達について行く。


部屋に入り、早速フェルリアをベットに寝かせる。

メリラの回復魔法によって痛みは引いているようだが、腕を失った精神的ショックからか、感情を失ったようなぼんやりとした表情を浮かべていた。

「ケモっ娘さん、大丈夫そうですか?」

ビャッコに問いかけられ、フェルリアがわずかに頷いたように見えた。

それが意識した物なのか、反射的なものなのかはわからないが、とりあえず話を聞ける状態ではあるらしい。

そう判断したビャッコは、部屋の四方に符を貼り付け、中の声が外に漏れないよう結界を張ってから、改めて自己紹介を始める。


「さて、いちおう先に名乗りはしましたが、改めまして。ウチの名前はビャッコいいます」

よろしゅうにと彼女は頭を下げた。

「それで、えーっと……ウチの正体(・・)、言っても?」

「ああ、ここにいる面子は俺達がこの世界の者じゃない事を承知してる」

「へぇ……」

少しばかり驚いたようだったが、それなら話は早いと彼女はこちらの世界に来たあらましを話はじめる。

「まぁ、ウチの正体は察してる人もおるやろけど『妖狐』です。特技は、陰陽道関連の術を少々……」

聞きなれない術式(まほう)を使う狐と聞いてもラヴァ達はの反応は、ふーんといった程度のものだった。が、言葉の意味を理解するユウゴとヒサメは、かなりの緊張感を覚えていた。

この世界に呼ばれた妖怪は、あらゆる伝承や能力等が統合され、存在自体が格上げされる。

つまり目の前の妖孤は、下手をすれば九尾の狐に代表される、伝説級の妖孤と同等の力を持っている可能性があるのだ。


「まぁ、名前の由来ですけど……宇迦御魂命の神使たる白狐、西方の守護者の四聖獣、百の姿に化ける狐……お好きにとってくれてかまいませんよってに」

口元を抑えてコロコロ笑い、冗談めかして彼女は言うが、どの由来にも恥じぬ力を持っていると暗に告げているような物である。

「ちなみにこの話し方も、なんちゃって関西鈍りなんですわ。イントネーションも適当ですよって、ツッコミとかは勘弁しとってな」

どこまでも正体をはぐらかすビャッコの態度に、狐の用心深さと化かす事へのこだわりを感じさせらた気がした。


「──それでなぁ、えらい可愛い魔王を名乗るお嬢さんに召喚されて、こっちに来てしもうたんよ」

そこで元の世界に帰りたかったら、先に来ているユウゴという奴に協力するよう言われたとビャッコは簡潔に説明した。

「ロリエル……あやつ、また異世界から喚んだのであるか……」

呆れたような呟きをラヴァが漏らす。

またも異世界の住人を呼びつけたのだから、彼が呆れるのも無理はあるまい。

しかし、召喚魔法にはとてつもなく膨大な魔力が必要との事だったはずだ。

だとすれば、かのロリ魔王はどれほどの魔力を持っているというのだろうか。

それが凄い事なのだと頭では理解していたが、初対面で粗相をし、ひどくマニアックな性癖を暴露したイメージしかないユウゴには、いまいちその凄さが想像できなかった。


「それで、まぁ話に聞いたユウゴさんの妖気を辿ってきたら、さっきの戦闘に出くわしたいう訳ですわ」

とりあえずユウゴ達に敵対しているらしい、エルフと死霊魔術師の邪魔をしたそうだが、フォルノ達が真の標的である『神人類』だと聞くと「あっちはほっとけばよろしかったかなぁ……」などと漏らす。

「現状は味方側の標的一人より、敵側の標的二人を潰した方がお得だからな。お前さんの判断は間違ってねぇよ」

ユウゴがフォローすると、ビャッコは少しばかり意外そうな顔をした。

何か疑問でもあるのかと問うと、牛鬼はもっと脳筋で皆殺しを推奨してくるかと思っていたとの答えが返ってくる。

「……お前も現代日本(あっち)で、人間に交じって暮らしてたらならわかるだろ?」

妖怪も物を考えて行動をしなければ、生きていけないということだ。

「そうですなぁ……」

しみじみと、妖怪達はため息をついた。


「さて、それでは今後の話ですけど……」

「ちょっと待ってくれ……」

話を遮るように、上体を起こしながらフェルリアが口を開く。

「それより先に決めねばならぬ事があるじゃろう……」

そう言って、彼女は深く息を吐いた。

「ワシをここで捨てていけ」

何かを決意……或いは諦めた顔で、フェルリアは言い放つ。

「……ああ? なに言ってんだ、お前」

わずかに怒りの籠った口調で、ユウゴはフェルリアに問い返した。

「何をもなにも……こんな様になったワシは、もう戦えまいて」

自嘲ぎみ吐き捨てる彼女の言葉に、誰もが「そんなことはない」と言い返す事は出来なかった。

この場にいる彼等は、誰もが優れた戦士や魔術師だ。

だからこそ、両腕を失った彼女が役に立つかどうかなど、すぐに想像がつく。

彼女を切り捨てる……それも一つの選択肢である事は間違いない。

しかし、ユウゴだけはそんなフェルリアに食って掛かった。


「おい……お前、死ぬつもりじゃねぇだろうな?」

心の奥底で少しだけ沸いていた考えを見透かされ、フェルリアは自棄(ヤケ)になって笑う。

「オヌシらについてくことも出来んし、復讐も叶わんじゃろうからなぁ……そうなると、無駄に生きてても仕方がないわ」

力なく笑う彼女の声は、絶望に満ちている。

だが、俯くフェルリアの顔をユウゴは無理矢理上げさせた。

「ふざけんなよ、小娘(ガキ)! 義手でも何でもつけて、絶対についてくるくらい言ってみろ!」

正面から見据えられ、フェルリアはわずかに怯む。


「……簡単に言うでないわ。オヌシらに足手まといの回復を待つような、そんな暇はないじゃろうが」

「だったら気合いを入れて、リハビリしやがれ」


「ワシは、オヌシの枷になりたくないと言っておるんじゃろうがっ!」

「小娘が一丁前に、気を使った事を言ってんじゃねえ!」


「小娘言うな! ワシは百七十じゃぞ!!」

四百歳(おれ)に比べたら、まだ小娘だっつーの!!!」


ハァハァと息を切らせて睨み会う二人。

そんな彼等を端から見ていたヒサメが、ビャッコに問いかけた。

「あなたの術で、フェルリアの腕を何とか出来ないものかな?」

「うーん、出来んことはないやろうけど、難しいですなぁ……」

「そうだろうねぇ……って、できるの!?」

珍しくツッコミを入れたヒサメと一緒に、全員の目がビャッコに集中する!

「失った腕を元に戻す……確かに出来んことはありませんけど、条件が二つほど有ります」

スッと立てた二本の指を折りながら、その条件をビャッコは告げた。


「一つは、生け贄として腕を捧げてもらう事。そしてもう一つが……その生け贄はユウゴさんである事」


「ダメじゃ!」

ビャッコの出した条件に、真っ先に反対したのはフェルリアだった。

「ワシのためにユウゴを犠牲にしては、本末転倒ではないか! そんな事は絶対に……」

「──弱毒」

ユウゴが呟きと共に弱い毒霧を吐き出すと、それは興奮するフェルリアの口に吸い込まれ、彼女は眠るようにぐったりと倒れる。

「怪我人が興奮するんじゃねえよ」

静かにフェルリアを横たえ、ユウゴはビャッコに質問を返した。

「俺じゃなきゃダメってのは、どういう訳なんだ?」

とにかく彼女の話を全部聞いてみなければ判断は出来ない。

そんなユウゴの考えを汲んだビャッコは、胸元から紙片を取り出しながらそれを説明していく。


「この術は、対象者の欠損部位を他者の物で補う術です」

「……アシュ○マン方式か」

某超人レスリング漫画のキャラ名を口にすると、ビャッコがコクンと頷いた。

ア○ュラマン知ってるんだ……などとヒサメは思ったが、空気を読んで口にはしない。

「さらに陰陽五行に基づいて、対象者を活かす気の持ち主でなければなりまへんのや」

どんな生き物でも五行のバランスはあるが、その中でも強く現れる気相というものがある。

エルフ(フェルリア)は木気、牛鬼(ユウゴ)は水気を強く持つため、彼から彼女への移植しか出来ないのだと、ビャッコ述べた。

「なるほどな……理屈はわかった」

ラヴァとマールはともかく、多少なりとも陰陽道の考え方を知っているユウゴとヒサメは、彼女の言うことに納得がいっていた。


「ちなみに、私達は何の気が強く出ているのかな?」

ヒサメがビャッコに問うと、

「そちらのマッチョさんは土気、雪女さん達は金気になりますなぁ」

といった返事が返ってくる。

そんな彼女の答えに、ヒサメは意外そうな声を漏らした。

詳しく聞きたそうな雪女達に、ビャッコは妖怪は人間よりも芯となる気が顕著に出やすいのだと解説する。

「雪女さんの存在に大きく関わる『雪や氷』は、火に弱くて溶ければ水になります。さらに冷気は植物の育成を阻害しますよって、それらの性質を五行に当てはめると金気となりますのや」

なるほどと納得した彼女の様子に満足したようで、少し脱線しましたが……と話を戻しながら、ビャッコはユウゴを見据えた。

「今も話したとおり、金気では木気に勝ちすぎるし、土気では弱すぎるんです。故に、水気を持つユウゴさんの腕がもっともフェルリアさんに適合しやすいんですわ」

そう言いながら、先程取り出した符を彼女は目の前に翳す。


「さぁ、どないしますか?」

フェルリアを見捨てるか、己の腕を差し出すか。

決断を迫る彼女の問いに、ユウゴが出した答えは……。

作中の「氷=金気」は、あくまで自分の独自解釈です。

とりあえず作中設定ということで、「違くね?」と思っても大目にみてやって下さい……。

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