50 覚醒者の発動
「俺達はリュミエルを殺る! それまで持ちこたえてくれ!」
「はっ! むしろ俺達が先にデモールを殺って加勢してやるさ!」
軽口を叩きあって、『氷刃』と『炎剣』はそれぞれの標的に向かって走る!
本来なら、圧倒的多数の敵を前に戦力の分散など愚行であるが、潰さねばならない頭が二つあり、しかもそれが互いをフォローしあうような物ならば、なるべく同時に叩くしかない。
幸いにも、魔法を得意とするリュミエルにはユウゴ達の打撃力が、アンデッドを使役するデモールには、炎の力が有効である。
背後から撃たれる危険さえ排除できれば、地力で勝利することも可能だと計算もあっての分散であった。
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「いくぞぉ!」
アンデッドの群れに突っ込むフォルノの体から、炎のような闘気が立ち上る!
それは輝きを増しながら仲間達へと燃え移り、『炎剣』のメンバーは神聖なる炎の塊となって死者の壁へと激突した!
「おらぁっ!」
気合いの声と共に振るわれた剣閃が、迫る鬼猿のアンデッドの体をすんなりと両断する。
神の闘気からなる炎を宿したフォルノ達の剣の前には、アンデッドの肉体など文字通りバターを斬るより容易い。
さらに仲間達の剣が、魔法がアンデッドと群れを次々と蹂躙していった。
「ふむう……リーダーの『神人類』はどうやら、対アンデッドに特化した能力を得ているようだな。しかもそれを仲間にまで付与できるか……」
自らの手駒がみるみる打ち倒されていく中、デモールは冷静にフォルノ達の能力を分析していた。
『神人類』が持つ神の闘気は、自身の能力向上だけでなく、このように「何か」に特化した能力を発現させるのが真髄である。
切り札とも言えるその能力は、普段は隠蔽されるのが普通だろうから、デモールが興味をそそられるのも当然と言えるだろう。
余談ではあるが、以前ユウゴ達と共に魔王ゲイバラーを討伐しにいった、エリエスやリネッサはここまで力を極めていなかったので、未熟者と評されても確かに仕方がなかったと言える。
さて、そうやってデモールが分析に時間を費やしていたわずかなな間に、フォルノ達はアンデッド軍勢の三分の一程をすでに打ち倒していた。
多勢に無勢で少々の疲労はあるようだが、その勢いは止まる事を知らない。
この様子なら、あと十分もしないうちにデモールの喉元まで迫るのは明白だった。
「フ……フフフ……面白い」
楽しげな声を漏らす、デモールの口角が上がる。
「ドワーフ相手には必要ないと思っていたが、どうやら私も「真の力」を使わねばならないようだな」
そう呟いた死霊魔術師の体から、神聖さを感じさせる闘気が立ち上ぼり始めた。
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「くたばれえぇぇ!」
物騒な雄叫びを口にしながら、フェルリアとユウゴがリュミエルを目指す。
しかし、的となっている金色のエルフは、慌てる事無く小さく口笛を鳴らすと、リュミエルの背後に弓を構えたエルフ達が突然、姿を現した!
エルフ達の狙いは、先行するユウゴとフェルリア。
二人目掛けて、無数の矢が放たれる!
「甘い!」
ユウゴの呟きと同時に、飛来した矢は彼らの目の前で弾かれた。
「なっ!?」
エルフ達から驚愕の声が漏れるが、一人リュミエルだけはそのネタに気づいたようだ。
「氷……か」
金色のエルフが看破したとおり、ユウゴ達の前には透明になるほど純度の高い氷の盾が張り巡らされていた。
「あんたは軍師系クソ野郎だと聞いていたんでね。絶対に、何かの罠を仕掛けていたと思っていたよ」
エルフの策を見抜いたヒサメに、リュミエルは小さく鼻を鳴らす。
「こちらからもお返しです!」
マールが放つ反撃の氷塊の弾丸が、新たな矢をつがえようとしていたエルフの射手達に降り注ぎ、その体を打ちすえる!
「もらった!」
後方のエルフが戸惑っている間に、一気にリュミエルとの間合いを詰めた二人は、棒立ちになっているその顔面に拳と蹴りを叩きこんだ!
だが!
「フフフ……」
今だ余裕の態度を崩さないリュミエル。
ユウゴ達の攻撃は、彼の前で見えない壁に阻まれるように止められていた。
「くっ……風魔法の防御術か……」
「正解だ」
飛び蹴りを止められ、地上に着地したフェルリアを、リュミエルが発動させたカマイタチが襲う!
すんでの所で、同じく風魔法を使ったフェルリアは、真空の刃を避けて後方へ跳んだ。
「伏兵を見抜いたのは見事だが、それだけでは私に届かないぞ」
決して誇張ではなく、実力に裏付けされた台詞である。
しかし、そんなリュミエルに敢然と挑戦するような声が響いた!
「ユウゴ殿! フェルリア殿!」
ラヴァが、二人に呼び掛ける!
何か打開策がありそうなその声に二人が振り返ると、そこには……地面に寝転がり、赤ん坊に小をさせるような、一人で大股開きの姿勢を取ったラヴァの姿があった。
「バッチコイである!」
美女がそんな卑猥なポーズを取っているなら、そそられる物があっただろう。
だが、マッチョな中年男性にそんなポーズを取られても、見苦しい以外に受ける印象はない。
さすがのエルフ達も、ラヴァのセルフおしっこポーズに思考が停止したらしく、弓を構える事も忘れて棒立ちになっていた。
「なにやってんだ、お前はぁ!」
激昂したユウゴとフェルリアが、方向を変えラヴァに向かって突進していく。
混乱し、仲間割れかとエルフ達が状況を見守る中、ラヴァの元まで駆け寄った二人は、ふわりとラヴァの足の裏に飛び乗った。
「ぬうん!!」
足裏に乗ったユウゴ達を、ラヴァは渾身の力を込めて蹴り出す!
元魔王の尋常ならざる力によって、砲弾のような勢いを得たユウゴ達は、標的であるリュミエルに先程とは比べ物にならない威力を秘めた蹴りを放つ!
「これがスカイラブハリケ……キックだあぁ!」
少し躊躇した必殺技を叫び、繰り出された二人のキックが確実にリュミエルを捉えた!
爆発したような轟音と共に吹き飛ばされた金色のエルフは、後方のエルフ達に突っ込み、彼等を巻き込んで土煙を上げて大地へ激突する!
大型地雷が破裂したと勘違いしそうな轟音と土煙、そしての余波を受けて大地に転がるエルフの射手達。
死屍累々のその光景を眺めて、ユウゴは自分の策が綺麗に決まった事に静かな手応えを感じていた。
「やったであるな、ユウゴ殿!」
恥ずかしい構えを解いたラヴァが、二人の元へやって来る。
「ううむ、戦場でわざと馬鹿馬鹿しい構えを取ることで相手の注意を反らし、油断を誘う武術……異世界の技は奥が深いのである……」
某セクシーなコマンドーのコンセプトを実践し、その効果に感嘆の声を漏らすラヴァ。
実は漫画知識なんだけど……とは言えず、少しばかり後ろめたい気持ちを感じながら、ユウゴはリュミエルの安否を確認する事にした。
「下手すりゃ顔面が吹き飛んでるかもしれんけど……」
グロい想像をしながら、ユウゴがリュミエルの所へ歩み寄ろうとする。
すると、砲撃でも受けたように抉れていた地面から、唐突に新たな爆発が起こった!
「ちっ……やはり生きておったか……」
舌打ちするフェルリアの視線の先に写ったのは、風で土を払いのけながらゆっくりと浮かび上がってくるリュミエルの姿。
「……やってくれたな、虫けらどもが」
怒りに戦慄くリュミエルの呼吸は荒く、口の端しからは血が流れている。
やはり、先程の攻撃はかなりのダメージを与えていたのだろう。
強がってはいても、リュミエルが追い詰められている事は明らかであった。
「はっ、貴様の親衛隊は皆ノビておるぞ! オヌシの命運も、どうやら尽きたようじゃな!」
積年の怨みを晴らすチャンスを手にしたフェルリアに対し、リュミエルは気絶しているエルフ達を一瞥して小さく笑った。
「こいつらは初めから宛にしちゃいない。が、お前達が私に痛手を負わせるとは、予想外だった……そこは認めよう」
諦めたのか、静かな口調でリュミエルはユウゴ達を賞賛する。
「だから、お前らに見せてやる……私の真の力をな!」
その言葉で、まだリュミエルに戦闘意欲があることを悟ったユウゴ達は一斉に身構えた。
しかし、彼等にとっても予想外な事態が起こる。
ダメージを負ったリュミエルの体から、神聖な闘気が沸き上がってきたのだ。
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「ばかな……」
隣り合った戦場で、敵の変化に戸惑うリーダー達が同じ呟きを漏らした。
デモールとリュミエル……二人が纏うのは、まごうことなき神の闘気。
つまり、二人は『神人類』。
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「な、なんでお前みたいな外道が、神に選ばれるんだっ!」
「外道であることは認めよう。しかし、私ほど敬虔な神の信徒はいないぞ?」
「なん……だと……?」
「なぜなら、私は神の身元に数えきれないほどの魂を送っているのだからな!」
「ふざけるなぁ!」
フォルノが炎を纏って駆ける!
だが、そんな彼の前にアンデッド達が立ちはだかった。
「邪魔だぁ!」
フォルノがアンデッドを斬りつける。その一撃だけで、死者は塵に還るはずだった。
「なっ!」
フォルノが思わず呻く。
その彼の眼前には、斬られても塵に成るどころか平然としてしているアンデッドの姿があった。
「馬鹿な!」
炎属性と聖なる属性を備えた一撃に、アンデッドが耐えられるハズがない。
そんな驚きの表情を浮かべるフォルノ達に、デモールは勝ち誇った顔で解説を始めた。
「無駄だよ『炎剣』の諸君。この『神人類』能力は、私の作ったアンデッドの弱点である『炎と聖属性の無効化』だ」
「なにぃ!?」
彼等が驚くのも無理はない。
弱点のあるからこそ、アンデッドはほとんど雑魚のような扱いを受けている。だが、その弱点が無くなってしまえば、アンデッドは圧倒的な物量とタフネスさで押してくる、脅威の存在となってしまう。
「さぁて、今度はこちらのターンと行かせてもらおうか」
フォルノ達の焦りを読み取り、大仰そうに両手を広げて宣言するデモールの顔には、愉悦の笑みが浮かんでいた。
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「さて……どう死にたい? 虫けらども」
神の闘気を纏ったリュミエルの姿に、妖怪や元魔王の背筋が凍る。
間違いない……確かにこのエルフは、『神人類』であり怪異殺しだ。
「なんで……『神人類』は人間にしか生まれないはずじゃ」
「確かにな。それ故に、エルフでありながら覚醒した私は、特別な存在と言えるだろう」
ほんの少しの優越感と、揺るぎない自信のこもった声でリュミエルは答える。
「それがどうしたっ! こけおどしには乗らんぞ!」
神の闘気にわずかながら畏縮しているユウゴ達に代わり、それらの影響を受けないフェルリアが口火を切った。
魔法弓を構える彼女に対し、リュミエルがその表情にわずかな感情を浮かべる。
即ち、怒り。
「お前の存在が鬱陶しいんだ」
一言漏らしてリュミエルが放った風魔法。
それは大気の大槍となって、フェルリアの魔法弓を粉々に粉砕し、フェルリアの残された右腕、その肘から下を……ズタズタにして千切り飛ばした。




