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49 許されざる者達

「誰だ?」と、聞いてみたい所だったが、鬼の形相で敵の首魁を睨む二人に、ユウゴもラヴァもオロオロするばかりだ。

しかし、フェルリアがここまで激昂する相手(エルフ)といえば、何となく察しはつく。

おそらくは、彼女の腕を落として部族を追放したというエルフの族長……それが、フェルリアの視線の先にいる、リュミエルと呼ばれた金色のエルフなのだろう。

では、フォルノが殺意を向ける、あの死霊魔術師は……?

その答えが出るよりも早く、リュミエルはフェルリアを思い出したように声をかけてきた。


「……ああ。誰かと思えば、フェルリアとかいう忌み子(ゴミ)ではないか」

遠い昔に捨てた、壊れた玩具をたまたま見つけてなつかしむような様子で、リュミエルは彼女を見ていた。

「まさか、まだ生きていたとは思わなかったよ。あ、ひょっとして奴隷になっている忌み子がいると報告があったが、お前の事かな?」

「だったらどうだというんじゃ!」

奴隷は演技ではあったが、せせら笑う金色エルフの声に込められた侮蔑の気配が、フェルリアを苛立たせる。

「みっともない話だ……どうせ使われるなら、お前らの真の主である我々のために使われた方がいいだろう? そいつらを殺して、戻って来るというなら受け入れてやってもいいが、どうだ?」

道具は道具らしくちゃんと使ってやろうと、リュミエルはクイクイと手を振ってみせた。

フェルリアにした仕打ちの事を、まるで悪びれないリュミエルの態度に、彼女の顔から表情が消えていく。


「貴様……ワシにあんな真似をしておいて、何を言っている……」

嵐の前の静けさのような、か細いフェルリアの呟きをリュミエルは聞き付けたようだ。

途端、彼の顔はみるみる不機嫌そうな表情になっていく。

「なんだ、その口の聞き方は。(わたし)道具(おまえ)を使ってやると言っているのだから、平伏して礼を言うのが当然だろうが!」

責め立てる金色エルフの言葉に、フェルリアの怒りは限界値を越えた。

「リュミエルぅ!」

怒りの咆哮と共にフェルリアが愛用の魔法弓(テルミステア)を抜き放ち、駆け出そうとする!だが、その瞬間、大地を揺るがすような衝撃と轟音が周囲に響き渡った!

「!?」

その衝撃の正体は、彼女の隣でユウゴが踏み込んだ『震脚』の一撃!

唐突なその行動に、怒りに燃えていたフェルリアがキョトンとしていると、顔を上げたユウゴがニヤリと笑った。


「落ち着けよ、フェルリア。あの野郎を殺るなら、まずはアンデッドをなんとかしなきゃならねぇだろ?」

あまりにも当たり前過ぎるユウゴの言葉に、我に返ったフェルリアは頭に登った血を下げるように深く息を吐き出した。

「すまんな、少し熱くなりすぎたわ……」

落ち着きを取り戻した彼女に、ユウゴは頷いてもう一度、微笑みを返す。

「フェルリア殿とリュミエル(あやつ)の因縁は理解したのである。必ず我輩がお仕置き(・・・・)をしてくれよう」

「お、おう……」

ズイとと前に出たラヴァも、フェルリアの肩にポンと手を置く。

本人は、彼女を励ましてくれているのだろう。が、義憤と同時に欲望を秘めた横顔と、わずかに膨らませた股間が説得力を奪う。

そんなくラヴァに、フェルリアは素直に感謝することができなかった。

気まずくなって彼から目を反らしたフェルリアに、ヒサメとマールがちょいちょいと手を振って呼び寄せる。

「さぁて、あの偉そうなエルフの顔面をぶん殴る作戦を考えようか」


ヒソヒソと作戦会議(?)を始めたヒサメ達を横目で見ながら、フェルリアと同じように死霊魔術師(デモール・ムエナトス)を睨みつけていたフォルノが小さく笑う。

「やっぱり、いい奴にはいい仲間が集まるんだな……クソ野郎がクソ野郎とつるむみてぇによぉ!」

フォルノは吠えるが、当のデモールは小首を傾げるばかりだ。

「さて……どうやら何処ぞの【ギルド】メンバーらしいが、私に恨みでもあるのかな?」

「当たり前だ……お前のその(ツラ)、忘れた事はない!」

フォルノに続いて、エンガルも憎々しげにデモールへ呪詛の言葉を投げつける。

「ふむう。しかし、戦場では殺し殺されるのは当然。それが……」

「戦場じゃねえ……」

正論で返そうとするデモールの言葉を、フォルノは静かに遮った。

「お前が俺達の村や町を実験(・・)で滅ぼしたのは、戦場での殺し合いとは違うだろ……」

「……なるほど、確かに恨まれる筋合いはあったようだ」

何か思う所はあったようで、デモールはフォルノの言葉を肯定する。

しかし、彼の声には後悔や憐憫といった、感情が動いたような響きはない。

ただ、その顔に浮かんだのは……明らかな狂喜。

「敢えて見逃した小虫が、復讐心を糧として私の前に立ちはだかるとは……面白い、なんとも面白い!」

その時、フォルノ達に追い付いき洞窟から出てきた残りの『炎剣』メンバー達も、楽しそうに笑うデモールの姿を確認して怒りの形相を浮かべる。

「いつまでも変わらないクソ野郎で安心したぜ……俺達のチーム名『炎剣』の名に懸けて、てめえとアンデッドどもは焼き尽くす!」


「ふむ……?」

『炎剣』の名を聞いたデモールの顔から笑みが消えた。

「聞いたことがあるな、そのチーム名。リーダーに『神人類』を戴く、ザクスン国の特級チームだったか」

フォルノ達の態度から、無言の肯定を得た死霊魔術師は、物珍しげにフォルノをしげしげと眺める。

「まさか、逃げた小虫が特級にまで登り詰めるとは……」

「お前がコヒャク国の中央に招聘されたと聞いたからな……それに対抗するだけの牙を研いだって事だ」

【ギルド】の傭兵部で常に前線に向かい、コヒャク国の動向に注意を払っていたのも、すべてはここデモールを討つためだったのだろう。

怒りが落ち着いてきた今の彼等は、憎い仇を前にして恨みを晴らす喜びすら感じさせた。

「私を殺すために修行し、修羅場を乗り越えて、ここまで来た……か。感動的だな」

フォルノ達の今までの苦労を(いたわ)るように、デモールはうんうんと頷いて見せる。

「だが、無意味だ!」

そんなフォルノ達を嘲笑うかのような死霊魔術師の一声と共に、アンデッドの軍勢が動き出す!

死者が織り成す怒濤の行進は、目の前の物をすべて飲み込む津波を思わせた。

しかし、そんな死者達の前に、フォルノ達の横から『氷刃』の面々が飛び出していく!


「死人は死人らしく、死んでおれ!」

フェルリアが愛用の魔法弓から、高質量の水の矢を無数に放つ!

それは最前列に立つアンデッド達の頭を砕き、体の一部を吹き飛ばして濃密な霧へと変化していった。

「目眩まし?」

戦場を覆うようなフェルリアが作り出した霧に、リュミエルがその真意を図ろうとして呟く。

「残念、ハズレだね」

金色のエルフが漏らした呟きわ否定した瞬間、ヒサメとマールの魔法が完成する!


強氷結(ルドス・キューパ)!』×2


猛烈な冷気の嵐が吹き荒れ、霧の水分で濡れたアンデッド達をたちまち凍らせていく!

以前、魔王の島でユウゴ達を迎撃に来た尖兵の魔族達を一瞬で倒したのと同じ戦法だ。


極寒の嵐を呼ぶ魔法の二重詠唱を受けて、死の壁の如く迫っていたアンデッドの群れは、物言わぬ氷の柱となった。

「どうよ! 馬鹿正直にチマチマ倒さなくても、しばらく動けなくして術師を狙えばいいって訳だ!」

「なるほど、確かに合理的だな」

自慢げに語るユウゴに対し、当のデモールが感心したように頷いた。

その、まるで他人事のような態度は余裕の現れなのか、アンデッド軍が凍結されてもまったく態度に変化がない。

「ちっ……おい、フォルノ! 今のうちにリュミエルとデモールを叩くぞ!」

「おう!」

底知れぬ敵の雰囲気から、速攻で決めるべきと判断したユウゴの呼び掛けに答え、『炎剣』メンバーが走りだす!


「ふん、駒には駒の役目を果たさせねばな……」

駆け出した『氷刃』と『炎剣』を眺めていたリュミエルが、パチンと指を鳴らした。と、次の瞬間、凍結していたアンデッド達の氷が砕けて、再び進軍を開始する!

「な、なにぃ!」

思わず驚愕の声を上げたものの、半端に止まろうとはせずに前衛と一当たりする事でブレーキ代わりにしたユウゴ達は、一旦アンデッドの軍勢から距離を取った。

「な、何をされたんですか……?」

ただの氷ならともかく、自分達の魔力が十分に込められた魔法の氷があまりも簡単に破られ、さすがのヒサメとマールも困惑していた。

「なに、簡単な事だ。アンデッドどもが凍りつく前に薄い風の魔法でコーティングし、凍りついた後でわずかに出来た空気の隙間に魔力を送って内側から瓦解させる……」

単純な仕掛けだよと、リュミエルは肩をすくませる。

しかし、その一連の行動を成功させるためには、こちらの意図を完璧に読みきり、さらには強大な魔力を有していなければ不可能だ。


(これが……エルフを統べる者の力か……)

単に傲慢なだけではない、実力に裏付けされたリュミエルの力の片鱗に、背筋を冷たい物が流れる。

「さあ、次はどんな手でくるんだ?」

再びアンデッドの壁を操り迫る、デモールの楽しげな声が届く。

単純な大物量で押し流そうとする死霊魔術師と、強大な魔力を扱いこちらの手を封じる金色のエルフ。

しかし、ここで躊躇すれば主導権を握られ続け、やがて追い詰められるだろう。

恐るべき力を秘めた二者を前にしてはいるが、ユウゴ達はそれらを食い破るべく次の行動へと移った!

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