48 大空洞アンデッド祭り
「誰だよ!狂戦士化とか言った奴は!?」
「ずみまぜんでじだっ!」
つい声を荒げたユウゴに、『炎剣』の魔術師ネルビタが半べそで即座に詫びを入れる。
「あ、いや……こっちこそ、なんかごめん……」
責任感の強そうな女魔術師に、半泣きの様子を見せられてはこれ以上何も言えはしない。
それに、ドワーフ達が言っていた凶暴化したモンスターの特長に、当てはまってはいるのだ。
肉は臭くて食用にならない、倒した後の肉体はボロボロで素材にならない、異常なタフネスさと力の強さ、どんなダメージでも怯む事なく襲いかかる等々……。
アンデッド化が予想外過ぎただけで、言われてみれば狂戦士とアンデッドには性質に共通点があった。故に、言葉だけの説明では皆が勘違いしてもおかしくはなかったのだとユウゴは冷静に思い直す。
しかし、一目見ればわかるアンデッドの特長をドワーフ達が告げなかったのは何故なのか?
もしや、何か裏があるのではとユウゴは助けたドワーフ達へ振り返る。
「なにぃ!アンデッドじゃとぉ!?」
「あれがそうなんか、初めて見たわ!」
すると、ユウゴ達の上げた声に、ドワーフ達が色めきだっていた。
「いや……って言うか、見たこと無いのかよ!」
状況も忘れてドワーフにツッコむ。
そんなユウゴに、彼等は何故か自信たっぷりな顔で、見た事が無い!と返事をして来た。
「儂らはあんまり大空洞から出んしなぁ」
「普通、モンスターは余すところなく使いきるもんじゃしな」
「死んだら下の階層の、溶岩の川に流すのが儂らの葬儀じゃから、蘇ってくる者なんぞ見た事ないわ」
つまりは、この大空洞という閉鎖空間に引きこもりっきりで、アンデッドを見た事が無いからそこの勘違いだったのだろう。
なんとも言えない、モヤモヤしたものを抱えていたユウゴに、ヒサメ達の少し焦った声が投げつけられる。
「そろそろおしゃべりは終わりにして、こっちを手伝ってくれないかな!」
気が付けば、ユウゴがドワーフから話を聞いていた間に、再び氷の壁を形成してアンデッドモンスター達を足止めしていてくれたようだ。
「ふむ、つい我輩もドワーフの話に呆れて、ぼんやりしていたようである。ここは先陣をきらせてもらおう!」
そう言いながら氷の壁の前まで進むと、氷の壁を使わせてもらうとヒサメに告げ、ラヴァは腰を落として拳を構えた。
「ぜりゃあぁっ!」
気合いの声と共に、正拳一閃!
砕けた大小の氷の破片が、散弾となってアンデッドモンスターを襲う!
氷の散弾の威力は凄まじく、肉は千切れ骨は砕けていく!
だが、アンデッド達はそんな事を歯牙にもかけず、歩みを止める事はなかった。
そんな一団のど真ん中に、二丁のハンドアクスを抜き放ったユウゴが飛び込んでいく!
「おおぉっ!」
暴風のように風を巻いてアンデッドどもを斬り裂いていく様は、まるで水滸伝の好漢の一人が持つ異名『黒旋風』を体現したかのようだ。
そこへさらにラヴァが加わり、もはや暴力の嵐を止める者は皆無となる。
アンデッドの頭が爆ぜ、首が舞い、胴が砕け、四肢が飛ぶ!
むしろアンデッド達が憐れに思えるほど、地獄のような光景が広がっていった。
味方ながら常識外れの暴れ方をしている彼等に、ドワーフ達がドン引きしている中で『炎剣』のメンバー達だけは、感心した様子でユウゴ達を眺めていた。
「おいおい、やっぱりあのユウゴは只者じゃねーな!」
「ああ、さすがは短期間で特級まで登り詰めただけのことはある。俺達も負けていられんぞ!」
「当ったり前だ!」
ユウゴ達に触発された『炎剣』のフォルノと剣士エンガルも、次々と眼前の敵を斬り伏せていく。
大空洞に侵入してきたアンデッドモンスターの数は、三十以上とあった。しかし、この調子ならばものの数分で駆逐する事ができるだろう……そう誰もが予想していた。
だが──。
「どうなってんだ、キリがねぇぞ!」
焦ったような声が大空洞にこだまする。だが、思わず叫びたくなるもの無理はない。
すでにユウゴ達が倒したモンスターの数は、すでに百を越えていたからだ。
バラバラになったアンデッド達の欠片が、小山のように折り重なっているというのに、襲いかかってくるアンデッドの圧力は減ることがなかった。
敵の一体一体は、ユウゴ達の敵ではない。
だが、退却を知らずにバラバラにされるまで向かってくる大群が相手では、どうした所でも疲労は蓄積していくし、動きは精彩を欠いていく。
対して疲れる事のないアンデッド達は、槍のような角で、破城槌のような突進で、壁も利用した立体的な攻撃で、死ぬまで(?)攻め立ててくる。
時折、メリラから回復魔法が飛んでくるものの、このままアンデッドの進行が止まらないのであれば、やがて数の暴力に飲み込まれるのは明白だった。
「どうする?氷で通路を塞ごうか!?」
ヒサメの提案をユウゴは即座に却下する。
「ダメだ。奴等が塞がれた通路を迂回しようとして、横穴でも掘り出したら、分散されてさらに手に負えない」
「だったら、地上に出て大元を叩くというのはどうだ?」
ドワーフ達と一緒に倒したアンデッドの破片の処理をしていた、『炎剣』の斥候ヒッケトゥから声がかけられた。
「賛成じゃ!これだけの数を送り込む以上、術者が近くにいないハズがない!」
襲ってくるアンデッドモンスターは、この周辺に生息するモンスターの物ばかり。
故に、すぐ近くに術者がいるというフェルリアの予想は、たぶん間違いないだろう。
「っしゃ!俺達が地上への道を切り開く!『氷刃』はそのまま突っ込んで、黒幕をぶっ叩いてくれ!」
フォルノの立案に、『炎剣』メンバーは迷いなく行動を始めた!
フォルノとエンガルが敵の注意を引いている間に、アンデッド達の死角からヒッケトゥが通路の出口に油を撒いて、数体のアンデッドを転ばせる。
それで群れの足を止った所に、詠唱を完成させたネルビタの魔法が放たれた!
『疑似火竜の息吹!』
ネルビタが生み出した、まさに火竜のブレスを思わせる炎の奔流が、アンデッド達を巻き込みながら通路を登っていく!
そこへ、メリラから熱耐性の魔法を付与されたフォルノとエンガルが飛び込み、炎と共に地上へと駆け上がっていった。
「『氷刃』の皆さんも、後を追ってください!」
見事な連携にぼーっとしていたユウゴ達だったが、メリラに一喝されてハッとする。
そうして、モンスターごと通路を蹂躙していた炎が収まるのを見計らい、地上へ向けて走り出した。
そこまで狭い通路ではなかったはずだが、炭化した死骸や斬り捨てられた残骸がそこいらに転がり、ユウゴ達が横に広がって進みづらくなっている。
仕方なく一列になって進んでいると、やがて地上の光が見えてきた。
ただ、その光を遮るように、交戦している複数の影も見える。
「フォルノ、エンガル!左右に散れ!」
ユウゴの掛け声に反応した二つの影が、指示通りに左右に動く。
それらを巻き込まないよう、ユウゴとラヴァがショルダータックルで進行上にいた複数の影を吹き飛ばし、さらにそのままの勢いで地上へと躍り出た!
暗い場所から明るい場所に飛び出したため、わずかに視界がぼやける。
すぐにそれは収まったが、正常になった彼等の目に写ったのは、予想以上に信じがたい光景だった。
目の前には、アンデッドの壁、壁、壁。
大空洞に投入されたであろう数を遥かに越える、文字通り肉の壁としか言いようのない数のアンデッドが、山を背にするユウゴ達の前に立ちはだかっていた。
さらにアンデッドはモンスターのみならず、【ギルド】メンバーらしき人間の成れの果てや、エルフにドワーフといった亜人達の姿も見える。
「馬鹿じゃねーのっ!!!!」
何処のどいつかは知らないが、こんなにも大量のアンデッドを使役するなど正気の沙汰ではない。
悪臭などももちろんだが、病気でも流行りだしたらどうするつもりなのだろうか!?
一瞬、目眩を起こしそうなユウゴ達だったが、その鋭い感覚がアンデッドの壁の奥にいた、ただならぬ雰囲気の人物達を捉えた!
おそらく、彼等がこのアンデッド軍勢を指揮している二人の人物と思われる。
一人は痩せた古木を思わせる、ひょろりとした背の高い魔術師らしき男。
不健康そうな肌の色と、眼鏡の奥に光る冷たい眼差しが特徴的な男だ。
杖のような物の代わりに、それぞれの指に指輪を嵌め、魔導書のような物を広げながらこちらを観察している。
そしてもう一人。こちらは一瞬、ユウゴが、見間違えたのかと思うほど意外な存在……エルフだった。
金色の毛並みは自ら発光するかのように輝き、少し前にであったエルフ達よりも遥かに上位の存在であることを窺わせる。
本来ならば、これほど大量の死者が森の近くで発生しているのだ、エルフ達がアンデッドの討伐に乗り出していてもおかしくないはずだ。
なのに、おそらくアンデッドを操る魔術師と並び立って、こちらを訝しげに眺めている。
「……まぁ、なんにせよ指揮官らしいあいつらを仕止めれば、アンデッドも止まるか」
ハンドアクスを構え直し、奴等の元まで突貫しようと、わずかに身を沈めたその時!
「デモール・ムエナトス!」
「リュミエル・リエース!」
突如、背後から聞きなれない名を呼ぶ声が轟いた。
その声に込められた感情……激しい怒りに何事かとユウゴが振り返ると……。
地上に出てきた、フォルノとフェルリア。
二人は、今にも噛みつかんばかりの形相で、アンデッドの向こうにいる連中を凝視していた。




