46 ドワーフ集落の長
「なにが『縁がある』よ。ヒサメさん達が、ドワーフの所に行くって聞いてたじゃない」
いつものようにフォルノにツッコミながら、『炎剣』のメンバー達がユウゴ達に挨拶をしてくる。
「って言うか、なんでアンタらがここに?」
コヒャク国の動向を調べるため、情報収集にブゲン国に向かった面々とこんな場所で顔を会わせるとは思ってもみなかったユウゴ達の顔には、困惑の色が浮かんでいる。
「ああ、それはだな……」
「よぉ、アンタら話は長くなりそうなんか?」
話しかけたフォルノの言葉を遮って、案内のドワーフが口を挟んだ。
しかし、それも当然だろう。ユウゴ達はこの集落の長に会いに行く途中だったのだから。
「ああ、すまない。思わぬ知り合いがいたんでな」
優先順位はドワーフ達との話の方が上だ。
ひとまずフォルノ達と別れようとすると、彼等もちょうど長の元に行こうとしていた所らしかった。
本当かと、ヒサメは疑わしそうな目を向けたが、フォルノ以外のメンバーが本当だと答えた為、なんとか納得したようだ。
「そ、そんなに信用ねぇのかよ……」
項垂れるフォルノをメリラが宥め、そうして一行はこの集落の長ウヌムの元へと向かった。
その途中、ドワーフから暑そうだが、大丈夫かねとヒサメやマール、フェルリアに声をかけられる。
特にエルフは寒さに適応した種族であるため、暑さに弱いとドワーフは心配したのだろう。
「まぁ、見た目は暑そうに見えるかもしれんが、この程度どうという事はない」
体毛のせいでかなり暑そうではあったが、戦士たるもの即座に環境に慣れなければなと、彼女は笑って見せた。
むしろ、フェルリアにとっては魔術師特有のローブに身を包んでいる、熱に弱いであろう異界の妖怪、雪女や雪ん子の方が、大丈夫か気掛かりですらあった。
しかし、二人は平然としており、
「あ、弱い氷雪魔法で体の周囲を適温に保ってるから平気」
「私もなのです」
と返してくる。
するとフェルリアが「ズルい!」と、子供のように顔を歪めた。
「二人が文句を言わないからワシも我慢してたのに、そんな方法があるなら教えてくれてもよいではないか!」
『銀狼』の二つ名で呼ばれた戦士の情けない主張に、その場の全員が苦笑いを浮かべる。
結局、ヒサメ達に同じような魔法をかけてもらい、快適になったフェルリアはホクホク顔で暑さの中を進んでいった。
ドワーフの民家の中でも、一際大きい屋敷に案内されたユウゴ達は、玄関先で少し待つように言われる。
案内のドワーフが呼び鈴を鳴らすと、中からドワーフの少女が顔を見せた。
「ほほう……なかなかの『ベッカム』だね」
少女を見たヒサメの瞳がキラリと光る。
ベリーショート、褐色の肌、ムチムチなボディで『ベッカム』という、ヒサメ独特のドワーフ女性表現だ。
サッカー関係者に怒られそうな不安はありつつも、ドワーフの少女は確かにその表現にぴったりの風体をしている。
少女と表現はしたが、むっちりとした肉付きにたわわに実る胸の双丘や、腰から尻にかけてのラインは立派な物で、見た目よりもいい歳なのかもしれないなどとユウゴが一人考えを巡らせていると、ドワーフ達が言葉を交わす。
「おお、長よぅ。客人だべ」
「ほう、よー来たのぅ」
「!?」
案内のドワーフに「長」と声をかけられた少女に、ユウゴ達が驚きの視線を向けた。
そんな反応に馴れているのか、少女はコロコロと笑いながら自己紹介をしてくる。
「わしが、この集落の長をやっとるウヌムという者じゃ。改めて、よー来たのぅ」
どうやら歓迎してくれているらしいウヌムは、立ち話もなんじゃからと、屋敷の中に入るよう薦めてくれた。
持ち場に戻ると言って案内のドワーフと別れ、ユウゴ達一行は大広間に通される。
「まぁ、適当に座っとってくれ。何か飲み物でも用意すっから」
そう言うと、ウヌムは大広間から出ていく。
彼女の言葉に従って、ユウゴ達は思い思いの椅子に腰を掛けて室内を観察する。
大広間とは言っても、地下の建造物に加えてドワーフサイズなので、十人以上が余裕で入れる部屋とはいえ、それほど広々とした印象はない。
多分、天井の低さなども、そういった印象を受けるのに一役買っているのだろう。
しかし、ドワーフの作品なのだろうか、室内に飾られた武器や鎧などはとても素晴らしくて、思わず目を引かれるほどだ。
「ふふふ……どうじゃ、わしが作り鍛えた武具は?」
飾られていた武具に見とれている間に、飲み物を持って戻ってきたウヌムが誇らしげに尋ねてくる。
「ああ、素晴らしいな。俺もいずれ一振り作ってもらいたいもんだ」
独特の武器を使った戦闘を得意とするユウゴ達に比べ、普通に剣を使うフォルノの方が、受けた感銘は大きかったようだ。
反応のよさに、機嫌よく頷いていたウヌムは、飲み物を配ると自分も席について話をしようかと促した。
「じゃあ、先に俺達の話からだな」
直接、ドワーフ達の生活に関わる依頼を受けていたユウゴ達が口火を切る。
「俺達がラーダッタから受けた依頼は、ドワーフの集落に現れる見慣れないモンスターの調査だ。とりあえずは、どんなに容貌でどんな被害があるのか教えてほしい」
「うむ」
頷いたウヌムは、モンスターについて語り出す。
それによれば、出没するモンスターはこの地下世界に現れるタイプではない、いわゆる森や平地に出没するタイプの物が多いらしい。
「わしらもあまりモンスターに詳しい訳ではないが、森林鬼猿や暗殺者熊。猛突猪に槍角大鹿っちゅうた、ギスハーブン森林地帯のモンスターを多く見かけるのぅ」
他にも巨大な蜥蜴や巨大昆虫系らしきモンスターが出る事もあるらしいが、それらはドワーフの知識に無い物のため、よくわからないとの事だった。
「なんだろう……どちらもあまり山岳地帯に出るタイプではなさそうだけど」
ヒサメの呟きももっともで、ドワーフを好んで捕食すでもない限りは、森や平原の方が餌が豊富なはずである。ならばわざわざ大空洞まで来る必要がないのだ。
「例えば、強力なモンスターが餌場に出現して追われてきたとか?」
「それなら話は簡単なんだがな……」
ユウゴ達が行うのは調査までだが、原因が確認できればそれに越したことはないだろう。
その後もユウゴ達は頭を捻るが、あくまで仮定の話しか出てこない。
「うーん、じゃがここに出るようになったモンスターは普通じゃないんじゃよ」
ウヌムの言葉に、皆が首を傾げる。
「普通じゃないって……どういう事かな?」
「うむ、まずはとにかく狂暴じゃな。最後の一体が死ぬまでまで襲ってくる事を止めぬ」
群れて襲ってくるとはいえ、不利になれば逃げるのはモンスターでも同じはすだ。
事実、ユウゴ達は森でジルワオガエイプと戦った際にも、彼等の強さを知った鬼猿達が一目散に逃げていったのは記憶に新しい。
「それでのぅ、倒してはみても肉は臭くて食えんし、毛皮や骨もボロボロになってしまって、素材にも使えん。本当に厄介な連中じゃよ」
ウヌムはやっていられんと、重いため息を吐いた。
少女のような外見ゆえに、疲れきったその姿には気の毒になってしまう。
しかし、狂暴化だけでなく、死骸もダメになってしまう……それを聞いた『炎剣』の魔術師ネルビタが意見を挟んだ。
「もしかしたらだけど、普通のモンスターに『狂戦士化』の魔法がかけられているのかもしれないわね」
彼女の言う狂戦士化の魔法とは、対象者の命が尽きるまで疲労することなく戦う事を可能にする物である。
特徴として、戦うこと以外の思考は無くなり、さらに得られる力の代償としてやがて力尽きた骸はボロボロになり、まっとうな形を残さなくなるという。
「つまり、何者かがモンスターを狂戦士化させて、ドワーフを襲わせているって事か」
ユウゴは呟き、顎に手を当てる。
この仮定は、かなり真に迫っていると思う。思うのだが、一体誰が……そう考えた時、ふと閃く物があった。
「まさか……エルフ?」
その呟きに、『氷刃』のメンバー全員が顔を見合わせる。
ドワーフの元を訪ねようとした時、それを妨害しようとしたエルフ達の姿が皆の頭に浮かんだ。
「じゃが……奴等がそんな狂戦士化の魔法を使うなど、聞いた事がないぞ」
放逐される前はエルフの部族に所属していたフェルリアが、憮然と言い放った。
そもそも、そんな魔法が使えたなら、フェルリア達のような忌み子はとっくに狂戦士化されて使い潰されていただろう。
「まぁ……情報から判断して、狂戦士化といった物が確率的には一番高そうか」
だとすれば、誰が何の目的でそんな真似をしているのかも調べる必要が出てきそうだ。
本来ならモンスター調査だけのはずだったが、しばらくはこの集落に滞在させてもらって、地道に調査をしていく事になるだろう。
そうと決まればと、ユウゴ達が長期宿泊の交渉をしようとしたその時!
けたたましく鳴る鐘の音と、モンスターの襲撃を知らせる声が集落全体に響き渡った。




