45 ドワーフ達の地下世界
依頼主であるラーダッタの話では、ドワーフ達はガハサ山脈の地下に網の目のように広がる大空洞を利用して、各地に集落を築いているらしい。
この大空洞は、四方に位置している四つの人間達の国にそれぞれ繋がっており、それを利用して交流を持っているとの事だった。
しかし、引き込もってひたすら技術の研鑽に励む事を好むドワーフ達は、あまり積極的に人間やエルフと交わろうとはしていなかった。
そういう意味では、人間の街で武器屋などを営んでいるラーダッタの方が変わり者といえるだろう。
「さて……確か、入り口はもうちょっと登った所にあるんだったか」
ラーダッタに聞いていた、大空洞のへ通じる入り口を求めて、ユウゴ達はゆるゆると山を登っていった。
それほど急でもない山道を、ちょっとしたハイキング気分でユウゴ達は進む。
天気は晴れ渡り、爽やかな風が吹いてとても心地がいい。
眼下に広がるギスハーブン森林地帯は緑の海を思わせ、現代日本では見れないような風景に、ユウゴの心は踊った。
「仕事じゃなくて、遊びで来れてたら楽しかったんだがな」
ポツリと呟いたユウゴに、フェルリアやラヴァが首を傾げる。
そんな二人に、現代日本ではキャンプや山登りは娯楽の一部だと伝えると、二人はますます訳のわからないといった顔になった。
「食料や寝床が簡単に得られる、人里の方が便利ではないか?」
身も蓋もないフェルリアの考えに、ラヴァはうんうんと頷いて見せる。
確かにモンスターや野盗が跋扈するこの世界では、レジャーでキャンプなんて行動は危険度が高いのかもしれない。
自然に対するアプローチの仕方が根本的に違う彼女達に、ユウゴは久々な異世界ギャップを感じるのだった。
「ユウゴ兄さまの言いたい事もわかるのです」
現実的な不便さを訴えるフェルリア達とは違い、この世界で生まれそだったマールはユウゴの意見に賛同する。
「たまには仕事や研究抜きで、自然の中を散策するのはとてもよいものだったのです。魔法の研究が行き詰まった時は、よく気分転換に散歩していたものなのです」
「だよなー、そういった『ちょっと違う日常』って大事だよな」
「はいなのです!」
にこやかに話すユウゴとマール。しかし、その隣ではヒサメがうんざりしたような顔で呟いた。
「その気分転換のために、私はよく無茶な依頼に行かされたけどね……」
かつて、ヒサメが単独でこなした高難易度の依頼のうちのいくつかは、そんなマールの気分転換の果てに沸いてきたアイデアに由来するものだったらしい。
「ああ……思い出したら、腹が立ってきた……」
今のマールは妹として、ヒサメに師事する身。迂闊にも藪をつついて蛇を出してしまった彼女は、必死になってヒサメにすがり付くのだった。
「……さて、そろそろ入り口のある場所のハズだけど」
しばらく登って来たユウゴ達一行は、キョロキョロと辺りを見回す。
「あっ!あれはドワーフの人達じゃないですか!?」
マールの声に、彼女の見ている方向に目をやれば、確かにいくつかの人影があった。
遠目からは子供くらいの背丈にしか見えないが、こんな場所に人間の子供がいる訳がない。ドワーフは成人でもそれくらいの身長しかないので、おそらく当たりだろう。
「よし、行ってみよう」
ユウゴ達は、さっそくその人影の方へと歩き出した。
「止まれ!何者だ、お前らは!?」
山道を登ってこちらに向かってくるユウゴ達に対して、接触しようとしていた人影達から警告の声が浴びせられる。
遠くから子供のように見えた彼等は、やはりドワーフであった。
こちらに警戒した目を向けてくる人数は五人。いずれも槍や山刀などで武装しており、なかなかの力量を感じさせる佇まいである。
「待ってくれ、怪しい者じゃない」
敵意が無いことを示すように軽く両手を上げ、自分達がザクスン国の【ギルド】メンバーである事、そして同じドワーフのラーダッタから依頼を受けた事などを告げた。
「おお、ラーダッタさんから!」
彼の名を出した途端、ドワーフ達から向けられる気配が和らいだ。
「ちゅー事は、お前さんらが変なモンスターの事を調べてくれる人間達か」
ユウゴがそうだと答えると、ドワーフ達は破顔して彼等の元にやって来る。
近付いてきたドワーフ達をこっそり観察してみると、よくあるファンタジーなそれとは違い、口髭こそあるものの、そこまで立派な髭を生やしてる者はいない。
地下で行動することが多いと聞いたが、日焼けしたように肌は浅黒く、背は低いながらもまるで岩を想像させられるような雰囲気を持っていた。
そんな彼等は、やはり戦士としても相当なのだろうと推測される。
鍛えられた太い腕に、使い込まれた武器は歴戦の戦士のそれだ。
しかし、それだけに彼等が手こずらせられる、謎のモンスター達というのは、どれ程の物なのだろうかと、一抹の不安がよぎった。
「いやー、調べもんすんのに向いてる「探索部」の連中が来るって聞いとったから、どんな柔そうなのが来るかと思ってたけど、えらい強そうでねぇか」
「おお、しかも『銀のエルフ』もいるんか!? こりゃ、大したもんだ」
森のエルフ達とは違い、フェルリアの姿を認めたドワーフ達は好意的な笑みを浮かべた。
どうやら、戦士としての技量に優れるエルフの忌み子は、彼等にとって並のエルフより敬意を払える相手らしい。
「まぁ、とにかく詳しい話は長達にしてもらうべ。案内すっから、ついてきてくれ」
そういうと、ドワーフ達はユウゴ達を先導して地下世界への入り口となる洞穴へと入っていく。
「結構涼しいもんだな」
ユウゴ達が進む洞窟内は、火と鉄を好むドワーフの通路とは思えないほどひんやりしていた。
彼等が普通に歩けるほど天井も高く、壁の所々にぼんやりと光る鉱石が散りばめられていて、夜目が効かなくても歩くのに不自由はない。
「この入り口は、たまに来る人間との取引きなんかの時に使われる通路だかんなぁ」
ここはいわゆる、来客用の通路のようだ。聞けば、ドワーフ専用の秘密の通路などもあるらしい。
しばらくの間、くねくねとした道を進んで行くと、徐々に空気が変わっていくのが感じられた。
涼しげで快適だった周囲の温度が上がり、じわりと汗ばむほどの気温になった頃、ユウゴ達が歩いてきた洞窟とは比べ物にならないほどの広大な空間が彼等の前に広がった。
「おお……」
思わず感嘆の声を漏らすユウゴ達に、ドワーフ達は自慢げに紹介する。
「ここが俺達の住む大空洞、通称ドワーフの地下世界だ」
天井まではおよ二十メートル、対面の壁までは五十メートルほどだろうか。
さらに左右の先が見えない巨大洞窟には、まばらに行き来するドワーフ達の姿があった。
「ラーダッタさんが所属してた部族は、こっちの方だ」
大空洞に合流した通路から出た案内のドワーフ達が、右に曲がって手招きをする。
「おおーい、ウヌムの長んとこに行くなら乗せてくれ」
「おお、ええぞ。乗ってけ」
小型の竜らしきものに荷台を引かせていたドワーフに、案内役のドワーフが声をかけると、快くユウゴ達を乗せてくれた。
「これは……竜なのか?」
「まぁ、竜っちゃ竜だな。下位火竜っちゅうやつだ」
炎の精霊の一種である火精霊竜が完全に授肉したのが、レッサーサラマンダーなのだという。
サラマンダーは本来なら精霊として強力な火の力を行使するのだが、授肉したことによりせいぜい炎に抵抗力を持つ程度の物となってしまった。それ故の下位なのだそうだ。
狂暴なモンスターの一種ではあるが、孵化したころから面倒をみていれば飼い慣らす事ができるらしい。
そんな馬車ならぬ竜車に揺られつつ、道すがらこの大空洞の成り立ちを聞くことができた。
彼等の話では、数百年前にこやガハサ山脈を根城にしていたいたという超巨大ミミズ、地柱神蚯蚓が掘り進めた跡こそがこの大空洞だという。
こんな馬鹿でかい穴を開けるようなミミズを想像し、ユウゴの背筋にゾクゾクとしたものが走る。
「ちなみに、そのアトラスワームってのはどうなったんだ?」
「わからん。だげっちょ、伝説では更なる地下で溶岩を食って成長してるって話だな」
たまに起こる地震は、かの大ミミズが身動ぎしたせいなんだとドワーフは豪快に笑った。
現代日本では妖怪こそおとぎ話のような存在だが、スケールの違う異世界の伝説に、初めてユウゴは言葉を失っていた。
「ここがラーダッタさんがいた、ウヌムの長の集落だ」
トンネルのような大空洞から、巨大なドーム状の広場に到着したところで案内のドワーフが告げる。
竜車に乗せてくれたドワーフに礼を言い、早速ウヌムの長の所へ向かおうとしたその時。
「おお! ヒサメ達じゃないか!」
突然、横からユウゴ達を呼ぶ声が聞こえた。
何となく聞き覚えのある、その声の方に目を向けると、ヒサメが嫌そうに「げっ」と声を漏らす。
それもそのはず、彼女にとってある意味天敵とも言える人物が、手を振りながらこちらに歩いて来る姿が見えたからだ。
「まさかこんな所で会うとはな。やっぱり、俺達は縁があるんじゃないか?」
ヒサメの嫌そうな顔も気にせず、笑顔を見せる男。
西方のブゲン国に向かうと言っていた、特級チーム『炎剣』のリーダー、フォルノ・ヴォルボウが、なぜかこのドワーフ達の集落にいた。




