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04 異世界チュートリアル

「ゆ、雪女!? って事は、お前も日本から現代日本から召喚されたってのか!?」

「うん。新潟県と福島県の間くらいに住んでたんだけどね」

「いや、お前さんの住んでた場所はどうでもいいよ!」

そんな事より、ユウゴよりも先にこの世界に飛ばされていた妖怪(どうぞく)がいた事が驚きだった。

(あのロリ魔王、そんなこと一言も言って無かったじゃねーか!)

内心、ぐぬぬ……と拳を握るが、ふと奴等の会話を思い出す。


『ユウゴを愛玩用にして、他の奴を召喚すればいいんじゃないか?』


奴等は確かそんな事を言っていた。

(つまり、俺以外にも召喚されてる奴がいる可能性はすでにあった訳だ……)

身の危険を感じて逃げるのに必死で、そこまでまだ頭が回っていなかった。

それにロリ魔王どもの美的感覚からすれば、いかに美女なヒサメでも美少年に化けられるユウゴほど執着するような相手では無かったのかもしれない。

なんにしても、ここで同郷(にほん)の者に出会えたのは行幸と言えるだろう。


「ところで……なんだか着のみ着のままみたいだけど、異世界(こっち)に来てから何かあったのかな?」

「あ、ああ……。俺をこっちに喚んだ連中から、慌てて逃げてきたもんでな……」

「ほほう……」

ユウゴの言葉に、ヒサメは興味を引かれたようだ。

「何やら面白そうだね。向こうに私のテントがあるから、そちらでゆったり話を聞こうじゃないか」

自分についてくるように促すヒサメに、有益な情報が聞けるかもしれないと判断したユウゴは立ち上がり、彼女の後に着いていった。


「……ふうん、どうやら君を召喚したのは『幼帝』らしいね」

「『幼帝』?」

テントの近くでたき火を囲み、温かいスープをもらいながら今までの出来事を語っていたユウゴだったが、聞きなれないその単語に怪訝そうな顔をする。

彼の問いかけに、ヒサメは頷きピッと指を三本立てて見せた。

「この世界にはね、魔王と呼ばれる存在は三人いるのだよ」

「三人……」

思わず呟くユウゴに、ヒサメは教師のような口調で三人の魔王の名を語った。

曰く、


『幼帝』ロリエル・ロリエッタ

『外道王』ゲイバラー・オッスオッズ

『魔女王』レズン・ビアンコ


「君をこちらに喚んだのは『幼帝』ロリエルだろうね」

「お前もこいつに喚ばれたんじゃないのか?」

「私は『魔女王』レズンに喚ばれたんだよ」

『魔女王』との異名をとる存在を思い出してか、ヒサメは身震いをする。

「そんなにレズンてのは恐ろしいのか?」

自分を呼び出したロリエルがただのクソガキにしか思えなかったのだが、それと同等程度の相手に、目の前の雪女が怯えているようなのが不思議だった。

「いや……『魔女王』はレズビアンでさ。呼び出された私に、無理矢理襲いかかって来たから怖くって……」

ヒサメの言葉に、ユウゴは口に含んでいたスープを盛大に噴き出した!

悲鳴をあげて飛び退くヒサメに、すまんと咳き込みながら謝罪する。

「ま、魔族ってのはロクな奴がいないな……」

毒づくユウゴに、ヒサメはまったくだよと同意する。

「レズンが世界を支配したら男は愛玩用か労働用。女による特権階級を築くとか頭の悪い事を言ってたしね」

うんざりした様子のヒサメから語られたレズンの野望に、同程度の酷い野望を語っていたロリ魔王の姿が思い出された。

ちなみに魔王同志はすこぶる仲が悪い。それは性癖によるものらしいが。

そんな酷い奴等に使われる身となった自分達が悲しくて、ユウゴとヒサメは深いため息を吐いた……。


しかし、まさか異世界から妖怪を召喚するような魔族が、複数いるとは思っていなかった。

もしも、もう一人の魔王ゲイバラーも妖怪を召喚できるとしたら、この世界にはどれだけの妖怪(どうぞく)が来ているのだろうか。

「私はこっちに来て一年になるけど、妖怪と会ったのは君が初めてだよ」

ユウゴの表情から考えを汲み取ったヒサメが言う。

「そうか……」

仮に喚ばれた妖怪がいたとしても、そいつだって元の世界に戻りたいハズだ。

上手く見つかれば、ユウゴ達が還る手助けにもなるだろう。

「いずれ見つかったら協力したいもんだな」

「そうだね、私と君みたいにね」

いつの間にか、彼女と協力することにさせられている。

もちろん協力する事自体は問題ないのだが、主導権を握られるのは面白くない。

(まぁ、それでも今は下手に出るしかないけどな……)

釈然としないものを感じながらも、ユウゴはさらに質問を続けた。


「──────うん、これでこの世界の地理というか人間の居住地区については、だいたい解った」

ヒサメの持っていた地図を眺めながら、ユウゴは頷く。

地図に記されていたのは、大陸に広がる四つの大国。

それが主な人間の勢力範囲であり、彼らが今いるのはそのうちの一つ王国の西の端だ。

そして、その大陸を囲むような配置で四方に魔王の住む島がある。

「ん? 島が四つなのに魔王は三人なのか?」

この流れと配置ならてっきり四人いてもおかしくないと思ったのだが、「そんなぴったり配置されてるわけないじゃん、ゲームじゃあるまいし!」と小バカにされてしまった。

「この西に位置する魔王がいない島は、強力な魔物が闊歩する修羅の島さ。下手に踏み込めばあっという間に殺されるよ」

誰も手を出さない無法地帯。

まぁ、用も無いのにわざわざそんな危険な場所に行くこともないだろうと、ユウゴはその情報を頭の片隅に追いやる。


「さて、ユウゴがこの世界での仮の身分証明(アンダーカバー)が欲しいというなら、私のようにギルドに所属するのが一番かな」

どんな世界だろうと、自身の身分証明は大事だ。

なんとかならないかとヒサメに尋ねた所、そんな答えが返ってきた。

「ギルドっていうと……いわゆる冒険者ギルド的なやつか?」

ユウゴの問いにヒサメは頷き、詳しく説明してくれる。


それによれば、用心棒から魔物の討伐、さらには戦争の兵力として重用される『傭兵部』。

そして、未開の地の調査や稀少な動植物の確保などを行う『探索部』の二つがあり、それを統括しているのが【ギルド】と呼ばれる組織なのだそうだ。

「まぁ、言ってみれば傭兵部(バトルジャンキー)探索部(スリルジャンキー)って所だね」

「もうちょっと言い方ってもんがあるだろう……」

殺伐とした彼女の説明には、少しユウゴも顔をしかめる。

とにかく、その【ギルド】に所属すれば最低限の身分は保証されるし、配布される依頼をクリアすれば金銭が得られるという。

「まぁ、いっぺん町に戻ったら、その時に登録しよう」

自分が保証人になってあげるというヒサメに、他の知り合いもいないユウゴは甘える事にした。


「あ、そういえばさ、こっちの世界に喚ばれて体に変化は無かった?」

突然言われてハッと思い出す。日本にいた時は無かった部位が増えていた事を。

「ああ、確かにあった! あれってどういう事か解るのか?」

「うん、これはレズンに聞いた話なんだけど……」

彼女が『魔女王』から話によれば、こちらの世界に召喚した際、ヒサメという個人の雪女ではなく、雪女という存在の全てを統合した物にヒサメという人格が付与された者として顕現したとの事なのだ。

「まぁ、要するに日本にいた雪女の全能力が宿ったヒサメ……超ヒサメになったってことだね」

ややこしい考察をするのが面倒になったのか、そう彼女は締めくくった。


(なるほどな……)

ざっくりとした説明だったが、ようやくユウゴは自分に生えていた蜘蛛のような復腕に納得がいった。

彼が召喚された際に、ヒサメと同じような現象が起きたのだろう。

だとすれば、身体的特徴として蜘蛛のような復腕が生えただけでなく、彼が元々は持っていなかった他の牛鬼の特殊能力が身についていてもおかしくない。

(……最初は分の悪い勝負だと思ってたが、これならあるいは)

魔王の天敵、神に選ばれし者『神人類』。それは桃太郎に代表されるような、いわゆる『人外の者』を倒す存在だ。

普段なら手も足も出ないだろうが、様々な能力が身に付いている今なら、立ち回りしだいでは勝てるかもしれない。

わずかに見えてきた勝ち筋に、ユウゴは自然と拳を握っていた。


「あ、ちなみにこっちに喚ばれてから、元の世界でCカップだった私はGカップにパワーアップしました」

まさに(スーパー)! と、これ見よがしにポヨンポヨンと胸を弾ませて見せるヒサメ。

「こんな風に力が暴走しないように気を付けて!」

自慢げに言う彼女に対し、忠告はともかく、その情報いるか? と、内心思う。だが、そんな事を思いつつも、暴れるGカップから目が離せない自分に、悲しい男のサガを感じるユウゴであった……。


「さて、これまで色々と説明したけど、最後に確認するよ?」

姿勢を正してそう言ってヒサメは、真っ直ぐにユウゴの目を覗きこむ。

「元の世界に還るために、魔族の天敵である『神人類』を始末する。それは、この世界の人間にとってかなり迷惑で不幸な事になるだろう。それでもやるかい?」

確かめるように問いかけるが、ユウゴはフッと鼻で笑った。

「やるに決まってるだろうが。この世界の連中のよりも、自分の都合の方が大事に決まってるからな」

「奇遇だね、私もそうなんだ」

向かいあって黒い笑顔を浮かべた二人は、結託の証しとばかりに互いの拳を合わせる。

ここに異世界から放り込まれた、牛鬼と雪女の同盟が締結した。

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