39 王族の暗躍
「まぁ、それが妥当じゃろうな」
「私も魔女王に関わりたくないから、賛成かな」
「わざわざ藪をつつく必要はないのです!」
現代日本に帰るために、幼帝との接触は不可避だが、魔女王とわざわざ絡む必要はない。
必要にかられなければ、面倒事を極力避ける選択ができる仲間達に、ユウゴ類は友を呼ぶというのは本当だなぁと感心していた。
たが、それでなくでも余計な手間のかかる道中を過ごしてきたのだから、さっさと本来の目的を遂げたいとユウゴ達の意見が一致したのも不思議ではないだろう。
「まぁ、ロリエルが相手ならば我輩に任せてほしい。帰還魔法を使うことをグズったら、こうして……こうである」
見えない人形の首をコキリとへし折るような、少し怖いジェスチャーをしながら、ゲイバラーは微笑む。
魔法という、ユウゴにとって専門外の力が当たり前な世界において、その力の使い手である仲間達や、まったく魔法が通用しないゲイバラーの存在は正直頼もしい。
「さて……それじゃあ、私達の本来の目的である『神人類』の打倒に向て打ち合わせでもしようか」
「ああ、あとゲイバラーの偽名や、仮の身分設定も考えておかないとな」
ヒサメとユウゴの言葉に頷く『氷刃』の面々。
彼等は!邪悪な笑みを浮かべながら人類の希望を狩り取る為に、また魔王の仮設定について、思い付くアイデアを夜がふけるまで話し合っていた。
翌日。
夜営の後始末を終え、ユウゴ達は残されたボートを漕ぎ、ザクスン国最北端の町を目指した。
陸地は見えているのでさほどの距離でもなく、鼻唄混じりユウゴはオールを漕いでいく。
「ユウゴは船も漕げるのじゃな」
ボートの極力真ん中に陣取りながら、フェルリアが心細そうに話しかけた。
元々、森の種族であるエルフの彼女にとって、大きな船ならともかく、木っ端のようなボートでは不安があるのだろう。
「ああ、俺の種族である牛鬼ってのは水に関係がある妖怪だからな。海に住んでる奴もいるし、この程度の距離なら絶対に転覆させないから、安心しておけ」
安心させようと笑うユウゴに、フェルリアも多少は緊張が和らいだのか、笑顔を見せた。
「まぁ、ユウゴはロリエルの島から、ザクスンの海岸まで実際に泳いで来るほど水には強いからね」
「まぁな。ただ、本来だったら東のリュウセ王国の海岸線に泳ぎ着く所だったんだけどな」
ユウゴの言葉に、フェルリアが「ん?」と可愛らしく小首を傾げる。
「潮に流されてザクスンに着いたらしい。後で地図を見せてもらってから気づいて笑っちまったけど」
単純に数十キロは流されてるはずだが、それは大丈夫なのかと皆が口には出さずとも思い浮かべる。
しかし、先程ユウゴも言っていた通り、目に見える距離ならばおそらく大丈夫なのだろう。多分。
「だから、もしも溺れたら、彼に助けてもらうといいさ」
ヒサメは茶化したつもりだったのだが、フェルリアは真面目な顔でユウゴにその時は頼むぞとすがっていた。
やがてユウゴ達は町にたどり着き、漁師達にボートを返却する。
その際、途中で襲ってきた海凄モンスターを、ヒサメとマールの魔法で氷付けにした物を引き取ってもらい金銭に替えた。
それを王都までの路銀として、乗り合い馬車でも待つかと話していた時、不意にユウゴ達に声をかけてくる者達が現れた。
「もしや、『氷刃』メンバーの方々でしょうか? 我々は【騎士団】より皆様をお迎えするよう手配された者です」
話しかけてきた連中は、おおよそ騎士風ではないものの丁寧に頭を下げ、ユウゴ達に馬車を勧める。
「『氷刃』の方々は四人と聞いておりましたが……」
「ああ、ちょっと訳有りでな。彼も王都まで同行することになったんだ」
「左様ですか。ですが……」
チラリと迎えの男は馬車の方を見た。
パッと見、六人ほど乗れそうな馬車ではあったが、想定外のメンバーであるゲイバラーの巨体もあって、全員が一度に乗れそうな雰囲気ではない。
「申し訳有りません、もう一台馬車を用意いたしますので、二手に別れていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、それでかまわないよ」
別に急ぎの旅では無いし、用意してもらうのだから文句を言う筋合いもないだろう。
レディファーストと言うわけでもないが、とりあえずは女衆を先に行かせるか……そんな事をユウゴが考えていると、流れるように迎えの男達から手を取り、背を押されて馬車に乗せられる。
皆が頭に「?」を浮かべていると、突然馬車が走り出した!
「……………ええっ!?」
完全においてけぼりをくらいそうになったヒサメ達が、驚きの声をあげると同時に、馬車の扉を蹴破ってユウゴが飛び出してくる!
「お、おまっ……なに考えてんだ!」
さすがのユウゴも突然誘拐されかけるとは想定していなかったようで、びっくりしながら男達に向かって叫ぶ。
さらにヒサメとマールが馬車の車輪を凍結させて、男達の逃亡を封じた。
「あのね……こんな美女や美少女をほったらかしにして、おっさんを拐おうとはどういう了見かな?」
少々プライドが傷つけられたのか、顔は笑えど目が笑っていないヒサメがゆっくりと男達に近づいていく。
「も、申し訳有りません! これには事情がありまして!」
「事情ぉ?」
「は、はい……その……」
迫力に押されながらも、男達は言い淀む。おそらくはその命令が極秘の物だからだろう。
「このままじゃ、俺達はあんたらを捕縛なりしなきゃならないんだ。できれば素直に話してくれんかな?」
不機嫌なヒサメに対して、柔らかな口調でユウゴが俺達に接する。
すると彼等も諦めたのか、黒幕について話始めた。
「ええと……実は白の騎士団の団長であるエリエス様から、サプライズ演出があるのでユウゴ様だけをエリエス様の元に連れて来るよう、命じられておりまして……」
エリエスの名を聞いて、フェルリアの表情が険しくなり、ユウゴの背筋に悪寒が走った!
「その……演出の内容は聞いているか?」
「いえ、詳しい事は。ですが、今回の魔王討伐において、ユウゴ様が大功を立てられたので、王族の皆様にお目通りさせたいといったような事を、【教会】のリネッサ様から聞いておりました」
その話を聞いて、ますますユウゴを襲う悪寒は酷くなっていった。
リネッサまで絡んでいる以上、おそらくエリエスはユウゴを囲い込み、有無を言わさず婚姻に持っていくつもりなのだろう。
いきなりこんな強硬手段に出るとは思っていなかっただけに、彼女の本気度が恐ろしい。
「……高飛車な姫さんをへこましたら惚れられるなんて、物語じゃよくある展開だけど、まさか一気にメンヘラじみて来るとはね……」
男達への怒りも消え失せたヒサメは、同情するようにユウゴの背を叩いた。
その後、「こちらから顔を出すから余計な事はするな」とエリエスへの伝言を任せて、男達を先に王都に向かわせる。
「で、ワシらはどうするんじゃ? 王都を避けるのか?」
「できれば避けたいんだがな……依頼遂行の報告とか、ゲイバラーのパーティ登録の件もあるし、【ギルド】本部には行かなきゃならんだろ」
フェルリアの問いにため息混じりで答えながら、ユウゴは天を仰ぐ。
「まぁ、面倒な事はさっさと済ませて、次は他国に向かうような依頼を探そう」
ヒサメの慰めにそうだなと答え、ユウゴ達は当初の予定通りに乗り合い馬車でもって王都を目指す。
ただ、途中で立ち寄るであろう町や村で少し時間置いて、ほとぼりを冷ます事をメンバー全員が暗黙の了解としていた。
──当初の予定よりも数日遅れで、ユウゴ達はようやく王都へとたどり着く。
「……なんか随分と賑やかだな」
「お祭りでもやってるみたいです」
出発の時よりも賑やかな街の様子に、キョロキョロとしながら【ギルド】本部を目指す。
「検問の時に俺達の名前を出してるから、エリエス達に帰ってきたのがバレてるかもなぁ……」
街の様子よりも、エリエスの部下の目が怖いらしいユウゴは、羽織っていたコートについているフードを目深に被り直す。
「とりあえず、ギルドマスターに相談してみよう」
揉めそうな案件は上に丸投げするのが、一兵卒に許されたささやかな権限だ。
『氷刃』の有用性をギルドマスターが買っているなら、悪いようにはならないだろう。
そんな風に多少の不安は残しつつも、ユウゴ達は人混みをすり抜けて本部へと到着し、その扉をくぐった。
「やぁ、お疲れ様でした『氷刃』の皆さん」
受付に問い合わせると、すぐに通してくれた執務室で、ギルドマスターのイラーサは満面の笑みを浮かべてユウゴ達を迎え入れる。
「っと、そちらの方は?」
輝くスキンヘッドに、布を巻いたような服装といった見慣れぬ偉丈夫の姿に、イラーサは怪訝そうな表情になった。
「あー、彼は『ラヴァ』。魔王討伐の帰り道に出会って、俺達のチームに入ってもらう事になったんだ」
「なんと!」
ユウゴの言葉に驚くイラーサに対し、ゲイバラー改めラヴァは軽く会釈をしてから挨拶をする。
「ラヴァと申すのである。無手による格闘を極めんがために、修行しておる者である」
迫力のある外見とは裏腹な気品すら感じられる物言いに、イラーサの警戒がわずかに和らいだ。
「そうですか……まぁ、実力者揃いのユウゴさん達が認めたらなら、『特級』チームに相応しい方なのだと判断しましょう」
元より魔王討伐の裏方といった、面倒な依頼をこなしてもらう代わりに、メンバーの補充については無条件で認める約束だ。
そんな彼等が認めたと言うなら、イラーサは口出しをするつもりはなかった。
(何かあれば、責任をとってもらえばいいだけですしね)
内なる思いは口には出さず、手続きをしておく事だけをイラーサは告げた。
「さて……それでは、今回の依頼の報告をお聞きしましょう」
秘書の女性にお茶の用意を頼みながら、ユウゴ達にもソファを勧める。
そうして全員が席に着いた所で、ギルドマスターは魔王討伐の顛末について、ユウゴ達からの報告に耳を傾けた。




