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38 幼帝と魔女王

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その日、三人いる魔王の一人である幼帝ロリエルは、いかにしてこの世界を少年少女で埋め尽くすか、そんな会議を部下達と繰り広げていた。

そんな楽しくも馬鹿馬鹿しい雑談の場に、慌てた様子の部下がとんでもない情報を持って現れた。


「ゲイバラーが……死んだ?」


信じられないその一報に、キャッキャッと盛り上がっていた室内は、シンと静まり返る。

「……せ、正確に言えば、ゲイバラーの城は崩壊し、生存は絶望的との事です」

「なんにせよ、ただ事ではないということか……」

報告してきた部下の言葉に、ロリエルは爪を噛みながら、当然の疑問を口にした。

「一体、誰があの変態を仕留めたというのだ?」

ゲイバラーは男を好んで手込めにする変態ではあるが、魔法が通じない上に竜種をも越える肉体を持っている。

魔法に特化した魔王であるロリエルにとってまさに天敵であり、だからこそ仕止めたかもしれない相手の事を知っておきたい。


「……城が崩壊する前に、数人の人間が侵入しておりました。そ、そして……」

報告を持ってきた魔族は、少し言い淀む。まるでそれ(・・)を口にするのが忌まわしいとばかりに。

「その人間達の内、二人から『神人類』の反応がありました!」

意を決して言い放った魔族の言葉に、静まり返っていた室内がざわめきに広がった!

なかでも、魔王ロリエルはその愛らしい顔に苦渋の表情を浮かべている。

「くう……せっかく喚びよせた異世界の魔族(ユウゴ)は何をやっておるのじゃ……」

悔しげな主に追従するように、周囲の魔族達も次々と口を開いた。

「まったく……こんな事なら、かわいい少女や少年に化けてもらって、ファッションショーでもやってた方が良かったかもしれませんな」

「おお!『お兄ちゃん♥』とこ呼んでもらいたかったぜ!」

「なにより、好みの姿に化ける術だけでも教えてもらいたかったというのに……」

余もそう思うと、口々に勝手な事を言う部下達をなだめ、ロリエルは腕組みをしながら小さく唸った。


「こうなれば……また喚ぶとするか……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


同時刻。

もう一人の魔王である、魔女王ことレズン・ビアンコの元にも、ゲイバラーが討たれたとの報告が届いていた。


「ふうん……」

片膝をつき、頭を垂れながら報告をする部下の話を聞き終え、主たる魔王はそう呟いた。

興味が有るのか無いのか、その気だるげな返事からは読み取れないが、報告をした女魔族はブルリと身を震わせて魔女王の表情を想像する。


濡れ羽のような光沢のある黒髪に、女ならば誰もが憧れてしまう程のメリハリの有る肢体。

毒を秘めた妖艶さと、無邪気な愛らしさが同居する表情は忠誠心と庇護欲を刺激し、華のような唇から紡がれる蜜のような甘い声は、麻薬にも劣らぬほど脳を痺れさせる蠱惑的な響きであった。

「……あの変態親父が死のうが殺されようがどうでもいいのだけれど、『神人類』の活躍で人間が調子づくのは面白くないし、ロリエルちゃんがこちらに矛先を向けてきても面倒ねぇ……」

玉座……というよりも、大きなソファかベッドに近いそれに身を預けていたレズンは、寝返りをうちながら小さくため息を吐く。


「仕方ないわねぇ……あの計画、進めるように現場に伝えてちょうだい」

「はっ!」

レズンの命令に、さっそく女魔族が動こうとすると、それを命令者自身が止まらせた。

「慌てないの……貴女へのご褒美がまだでしょう?」

ご褒美。そこ言葉を聞いた女魔族の顔に、隠しようもないほどの喜悦が浮かび上がる。

ゆっくりと玉座から降りて、女魔族の元までレズンが歩み寄った。

本来ならば、彼女の方が主の元に行かなければならないのだが、気が逸るあまり余計に時間がかかるので、魔女王自らが動いてくれているのだ。


「顔を上げなさい」

命令のままに、女魔族はレズンの尊顔を仰ぐ。

それと同時に、彼女の顎に手を添えられて唇を奪われた。

女魔族の口内に魔女王の舌が侵入し、貪られると共に魂も溶かすような快感が全身を駆け巡る。

──やがて長い口づけが終わり、淫靡な唾液の橋を作りながら魔女王が離れると、ビクビクと小刻みに痙攣しながら、女魔族は陶酔しきった顔で床に崩れ落ちた。

あまりの快感に絶頂を迎えたのか、へたりこんだ股間の辺りには、小さな水溜まりができている。

そんな粗相をしてしまった女魔族の頭を優しく撫でながら、妖艶な魔王レズンは独り言のように呟く。


「さぁて、奴隷達にはたくさん働いてもらわなくちゃ……あと、あの()も見つけてあげなきゃね」

レズンは以前、召喚魔法で異世界から喚びよせた、美しい氷の妖精を思い浮かべてクスクスと楽しそうに笑った。

莫大な魔力を消費する召喚魔法を使った反動で、弱っていた隙に逃げられてしまったのだが、あの美貌と強さは魔女王のハーレムを彩る華として相応しい。

「ウフフ……ヒサメちゃんも早く調教(気持ち良く)してあげたいわぁ」

ペロリと舌舐めずりする魔女王の指先で玩ばれて、再び女魔族がビクビクと絶頂を迎えていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「そんな訳で、我輩以外の魔王について、知る限り説明しておくのである」

「あぁ?」

夜営の準備を終え、夕食を取っていた時の雑談の中で、唐突にゲイバラーはそんなことを言った。

急に他の魔王の話を振られ、ユウゴはすっとんきょうな返事をしてしまう。

「何言ってんだ、お前……?」

「何って……」

逆に、聞き返されたゲイバラーの方が戸惑ってしまった。


「いや……ユウゴ殿達は、元の世界に返る為に魔王と呼ばれる者を倒しているのではないのであるか?」

なんでそんな話に? と、ユウゴが不思議そうにしていると、横からヒサメが彼に問いかけてきた。

「ユウゴ、もしかして君は中途半端にしかゲイバラーに事情を説明してないんじゃないのかな?」

「あ!」

言われてポンと手を打つ。

確かに、リャーマ率いる魔王軍の残党とエリエス達が戦っていた時に、かい摘まんで話しただけだ。

その後は現代日本(あっちのせかい)に連れていけと、頑として譲らないゲイバラーに根負けし、首級を挙げるのを誤魔化すために「魔王が城を道連れに自滅した」と、一芝居打つ算段をしていただけだった。

なので、『神人類』と共に魔王(ゲイバラー)討伐に現れたユウゴ達の事で勘違いをしたのだろう。


「あー、そうだな。せっかくだから、ちゃんと説明しなおすわ」

ポリポリと頭を掻きつつ、ユウゴはこの旅の始まりと目的について最初から語り始めていった。


「──なるほど、『神人類』を倒せば元の世界に帰すとロリエルに言われてか」

話を聞き終え、ゲイバラーはふむう……と呟きながら顎を撫でた。

「理由はわかったのであるが、相変わらずあの幼児趣味の変態は滅茶苦茶であるな」

ゲイバラー(おまえ)にだけは、変態と言われたくないだろうな……とは口に出さず、ユウゴはただ頷く。

なぜなら、ロリエルが「幼児趣味の変態」という所には深く賛同するからだ。

「そんなに滅茶苦茶をしている物なのですか?」

同じ魔法使いでありながら、系統が違い過ぎるためにいまいちピンと来ていないマールが小首を傾げる。

「我輩も魔法は使えぬから詳しくは知らぬが、召喚魔法を使用するには、並の魔族数百人分の魔力を必要とすると聞いたことがあるのである」

「数百人て……」

予想以上に膨大な魔力を使うらしい魔法を使用したロリエルに、ユウゴ達は呆れてしまう。

しかも、確実に思った通りの相手を呼び出せる訳ではないらしいと聞いて、くそガチャみてぇだなと思わず呟いてしまった。


「でも、言われてみれば私を喚び出した魔女王レズンは、まともに立っていられないくらいに弱っていたよ」

「ぬ? ヒサメ殿はレズンに召喚されたのか!?」

意外そうに聞いてきたゲイバラーに、ヒサメは頷いて答える。

「ふむう……あやつがなぁ」

今一つ釈然としていないようなゲイバラーをさておいて、ユウゴはまだ会ったことのない魔王について、ヒサメに印象を尋ねた。


「んー、何て言うかな……気持ち悪い人?」

バッサリと斬るヒサメの感想に、皆が生暖かい笑みを浮かべる。

「まぁ、レズンはサキュバスの癖に同性を(はべ)らすのが趣味の変態であるからな」

ゲイバラー(おまえ)も似たようなもんじゃねぇかと、またも口には出さずに、ユウゴはさらにレズンについて尋ねる。

「レズンはサキュバスを越えたサキュバス……言わば、サキュバス・ハイパーとでも呼べば良いのだろうか。とにかく、男という種である限り、絶対に魅了されてしまう恐るべき相手である」

「絶対って……お前さんでもか?」

「我輩でも!である」

男色趣味のゲイバラーですら、その魅了からは逃れられないと断言され、改めて魔女王の恐ろしさをユウゴは感じていた。


「魔法の効かぬ我輩はロリエルに強く、膨大な魔力を持ち女であるロリエルはレズンに強い。しかし、絶対の魅了能力は我輩を虜にするだろう」

思わぬ三竦みによってバランスが取れていた事に、偶然では片付けられない因縁のような物を感じる。

だが、敵対した場合にもっとも危険でありそうなのは、魔女王レズン・ビアンコ。

この恐るべき相手にどういった対処を取るのか、チームリーダーてあるユウゴに視線が集まった。

皆に注目される中、ユウゴは決断し、一言だけ答える。


「うん、じゃあ魔女王はスルーで!」

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