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35 勝利の後の乱入者

「やったな、ユウ……」

ユウゴの元に駆け出そうとしたフェルリアの横を、一つの影が風のように追い抜いていく。

「お見事でした、ユウゴ様ぁ!」

感極まった表情で、エリエスがユウゴに抱きついた。

「え? あっ?」

今だ牛鬼の状態だというのに、正体を見せる前よりも何か情熱的な態度をぶつけてくるエリエスに、訳がわからずユウゴは戸惑ってしまう。


「あ、あー……エリエスの気持ちは嬉しいんだがな。俺はこういった体質なんで、お前の気持ちを受け入れる事はできな……」

「そんな事はありません!」

再び人間の姿になりながら、諦めるように説得しようとするユウゴに、エリエスは力強く反論した。

「ユウゴ様の生い立ちや力は、まさに伝説やおとぎ話に登場する英雄のそれです! 正しいお心を持つユウゴ様は、何も卑下する事はありません!」

フンス、フンスと鼻息も荒く語るエリエスに押されて、さすがのユウゴも狼狽える。

「何より……そんな伝説的なお力を持つ貴方を、王家の血に加える事に反対する王族などおりません」

なぜにそんなにも力説するのかと思えば、どうやらこの世界の国の頂点に立つ者達に求められる要素が関係するらしい。


王やその一族にとって、強さやそれに附属する逸話というのは重要なファクターだ。

たとえ魔物の血を引いていようとも、人の為に戦い、魔王をも討ち取ったユウゴならば、王位を継ぐことは無くても王族として受け入れられる事は間違いないとエリエスは熱っぽく語る。

だが、自分にその気は無いのだし、そんな事を言われても困るというのが、ユウゴの偽りない気持ちだ。

しかし、完全にロックオン状態のエリエスはユウゴを逃がそうとしない。

まさかこんな展開になるなんてと、ユウゴの身の上話をでっち上げたヒサメの方に視線を向ければ、まさかこんな展開になるなんてとヒサメも驚いていた。


一方、フェルリアは、熱烈に迫るエリエスと戸惑うユウゴの姿に呆気に取られてたが、ハッとして止めに入ろうとした時、背後から忍び寄ってきたリネッサによって動きを拘束されてしまっていた。

「な、なんのつもりじゃ!」

「申し訳ありませんが、エリエスお姉さまとユウゴさんの邪魔をさせる訳にはいきませんので」

「オヌシは、あの二人がくっつくのに反対ではなかったのか!?」

「ええ。ですが、ユウゴさんの生き様を聞いて、考えを改めました。あの方になら、お姉さまをお任せ出来ます」

そのためには、貴女をユウゴさんの元に行かせる訳にはいけませんと、リネッサは魔法を発動させてまでフェルリアへの拘束を強める。


「ぬおぉぉっ! ふ、ふざけるなぁ!」

「ふざけてはいません。英雄の血が王家に入る事は国の利益にもなりますし、安定にも繋がります。英雄を民の安寧のために導く【教会】の信徒としても、お姉さまとくっついていただくのが最上と判断します」

拘束を振り切ろうと、フェルリアも魔力で対抗するが、さらに強い力でリネッサは押さえ込む。

場はどんどんとややこしい状況へ変わっていく中、かやの外な氷雪姉妹はため息を吐いた。

「……ヒサメ姉さまの作り話一つで、すごく面倒な状況になっちゃったです……」

ポツリと呟くマールに、ヒサメは可愛らしく舌を出して誤魔化そうとする。

そんな彼女に対して、マールはやれやれと肩をすくめた。

「まぁ……こうなってしまった以上は仕方がないさ。さて、どうやって納めたものか……」

まだ、ゲイバラーにトドメを刺してもいないのに、面倒な事になったこの場をどうまとめたものだろう……。

ヒサメが思案していると、唐突に部屋の奥にある扉が勢いよく開かれた!


「フハハハ! どうやら、俺の狙い通りに事は進んだようだな!」

高笑いしながら乱入してきたのは、魔王の幹部である三鬼人の生き残りであるリャーマだった。

さらにその後ろには、ズラリと魔王配下の魔族達がひしめいている。

それらをゾロゾロと引き連れて室内に入ってきたリャーマは、ユウゴ達や倒れるゲイバラーを見回して楽しげに笑う。

「クックックッ……魔王(ゲイバラー)は虫の息、侵入者どもは疲れきって満身創痍。まさに最高のシチュエーションだ!」

大量の部下を率いて興奮気味に語るリャーマの姿は、魔王の救出や敵討ちといった風ではない。


「……リャーマ、貴様なんのつもりであるか」

いつのまにか意識を取り戻していたゲイバラーが、倒れたまま部下達を睨み付ける。

しかし、そんな視線をリャーマはニヤニヤしながら受け止めていた。

「なんのつもりねぇ……。まぁ、見りゃわかるだろ? テメェとそこの侵入者どもをぶっ殺しに来たのさ」

「裏切るつもりであるか!」

「当たり前だ! 誰が好き好んで、テメェみたいな変態野郎の下につくかよ!」

リャーマの言葉に続いて、後ろに控える魔族達が声を上げる!

「そうだ! もう痔に怯える生活はまっぴらなんだよ!」

「俺達はお前のオナホじゃないっつーの!」

「無理矢理ヤられた恨み、いまこそ晴らしてやるぜぇ!」

次々と罵倒され、ゲイバラーは苦々しく顔を歪めた。

「くっ……女子供を好んで陵辱するお前達に、己の非道さを教えるための、趣味と実益を兼ねた愛の指導であったが……通じていなかったのか」

無念そうに一筋の涙を流すゲイバラー。

いや、趣味とか言っちゃってるし、手段としてもレイプはダメだろうと内心でツッコミつつも、なにやら人道的な志を持っていた魔王に対して、ユウゴは少しばかり感心する気持ちを抱いていた。


「まぁ、そういう訳だ変態魔王。今日で外道王ゲイバラーは死に、新たなる魔王として鬼人王リャーマ様が即位する!」

リャーマ高らかに下克上を宣言すると、後ろの魔族達も雄叫びを上げる!

「ようし、野郎共! ゲイバラーの首を取れ! 人間どもは、新魔王となる俺様の贄だぁ!」

欲望と邪なニヤけ顔を顕にし、魔族達がジリジリと迫ってくる。

そんな連中に向かって、エリエスを始め、女達は心の底から嫌悪した顔をしながら、それぞれの武器を構えた。


「まったく、下衆な連中じゃ」

「ユウゴ様を少しは見習ってほしいものです」

「ユウゴは疲れてるだろうし、休んでおくといいよ」

「私達だけで十分です!」

「とりあえず、皆さんに補助の魔法をかけておきますね」


数で見れば遥かに劣勢だというのに、まったく臆していない女達の態度を見て、魔族達は若干の苛つきを覚えたようだった。

「ちっ……生意気な女どもだ」

舌打ちするリャーマに答えるように、四体の魔族が一歩前に出る。

「こいつら俺様の親衛隊、鬼人王リャーマ様の四天王だ! さぁ、あの女どもに一番槍をくれてやれ!」

下品に腰を振るジェスチャーをして、進みだしたリャーマの四天王だったが、次の瞬間!

一体の首が飛び、一体は頭を撃ち抜かれ、残る二体は凍りついて粉々に砕け散った!

唖然とするリャーマ達に向かって、まったく目の笑っていない笑みを浮かべたフェルリア達が殺到する!

女をなぶる遊びのつもりだった、魔族の笑い声に満ちていた室内は、阿鼻叫喚の地獄となって彼等の悲鳴を響かせていった。


「…………あーあ、ひでぇなコリャ」

ペタリと床に座りながら戦場を眺めるユウゴは、まるで他人事のように呟きを漏らす。

「おぬしは本当に参戦しなくてもよいのか?」

なぜかゲイバラーから心配されるも、ユウゴは必要ないさと軽く手を振った。

「俺とお前でタイマン張ったから、あいつらも力をもて余してたんだろ」

ユウゴの言う通り、まるで鬱憤ばらしでもするかのように、彼女達は敵の血飛沫を撒き散らしながら、晴れやかな笑顔で大暴れをしている。

「なまくらな『神人類』とはいえ、リャーマごときに遅れは取らぬということか」

「そういうこった」

殴りあいを通して何かを解り合えたのか、なんとなく魔王の首を取る気にはなれず、ユウゴとゲイバラーはボンヤリと戦いの行く末を眺めていた。


「……我輩は……どこで間違えたのだろうな」

不意にゲイバラーが呟く。

「間違えたって……何が?」

「先程も言ったが、我輩は獣じみた魔族達に品性を教える為に、奴等がやっていた事をその身に叩き込んだ。しかし、我輩の思いは伝わっていなかった……」

「いや……目的が正しくても、手段を間違えてらどうしようもねぇよ」

レイプ犯をレイプしたところで、反省するとは限らない。

ゲイバラーの仕置きに趣味が混じっていれば、なおのことである。

「……悪手であったことは認めよう。しかし、世界は我輩のような嗜好を持つ者に厳しいのである」

深い深い、哀しみに満ちたため息。

そんなゲイバラーの寂しげな姿に、ユウゴはついポツリと言葉を漏らした。

「……現代日本(あっちのせかい)なら、多少は理解があるんだけどな」

そんな小さな呟きを聞き取ったのか、ゲイバラーがカッと目を見開いてユウゴを凝視する。

「詳しく!」

「あ、いや……その……」

「詳しく!」

目を血走らせながら、ズリズリと這い依ってくる魔王の姿に、ユウゴは仕方なく自分達の正体と秘めた目的を語らざるをえなかった……。


「なるほど、異なる世界から召喚されてこちらの世界に……」

ロリ魔王に喚び出されてからの事をかい摘まんで話してやると、ゲイバラーは感慨深そうに頷く。

「まぁ、早々に協力者はできたし、還る算段もあるからお先真っ暗って訳でもないけどな」

半分は自分に言い聞かせるように言うと、ゲイバラーは何事かを企んだような目付きをしながらスッとすり寄ってくる。

「のぅ、ユウゴ……いやさ、ユウゴ殿」

突然、敬称を改める魔王に、ユウゴの勘が警鐘を鳴らす。

「私にいい考えがある」

戦う超ロボット生命体の長官じみた台詞を吐く魔王に対して、ますますユウゴは激しくなる嫌な予感を感じていた。

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