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33 逆転へ至る切り札

「ぬおぉぉぉっ!」

雄叫びと共に、ゲイバラーの拳が床を砕く!

力任せの単純な打撃ではあるが、そこに込められた尋常ではない力は、たとえ竜でも殴り殺しそうな勢いだ。

しかし、大振りなだけに隙も大きい。なので、合間合間にユウゴ達も反撃をするのだが、やはり魔法も斬撃も通用しない。


「くっそ! なんて野郎だ!」

暴風のような攻撃を掻い潜りながら、ユウゴが悪態をつく。

直撃こそ避けてはいる。しかし、砕けた床や壁の破片によって徐々にダメージは蓄積していくばかりだ。

このままではじり貧だと理解してはいるが、ゲイバラーに大した手傷を与えられない焦りと苛立ちが言葉には滲んでいた。


「ユウゴ兄さま! 私にいい考えがあるです!」

不意に、ユウゴの側に駆けてきたマールがそんな事を言う。

「いい考え?」

「はいです! ゲイバラーに魔法を使わせるのです!」

「奴に魔法を?」

そんな事をさせたら、益々ヤバくなるのではないかとユウゴが言うと、マールは可愛らしくチチチ……と舌打ちしながら指を振って見せた。

「奴に魔法が通じないのは、恐らく防御魔法に全振りしているせいなのです。ならば、攻撃魔法を使わせれば防御は疎かになり、ダメージを与える事ができるはずです」

攻撃と防御は同時には行えない。さらに魔法の詠唱には少なからず隙ができるし、こちらには『神人類』クラスの魔法の使い手が三人もいるのだから、どのような魔法にも対応する事ができるとマールは言う。

見た目の肉体は少女だが、中身は老獪な魔術師の魂を宿す彼女に改めて感心しつつ、ユウゴはその作戦に乗ることにした。


一旦、ゲイバラーとの距離を取ると、ユウゴは相手を小バカにするように挑発する。

「さっきから芸のない、腕のブン回しだけだな。仮にも魔王を名乗るなら、もっと面白い攻撃を仕掛けてこんかい!」

突然のユウゴの主張に、ゲイバラーは怪訝そうな表情を浮かべた。

「うちのチームの天才美少女魔法使いマールさんが、お前のと魔法勝負をご所望だぜ!」

「やってやるです! かかってくるです!」

ズイと前に出たマールが、クイクイとかかってこいとのジェスチャーを送る。

魔王ともあろう者が、マールのような(見た目)小娘からこんな挑発を受ければ、ぶちギレしてもおかしくはない。

これは乗って来るだろうと、ユウゴとマールが内心、ほくそ笑んでいると、なぜかゲイバラーは悲しそうにため息を吐いた。


「……使えんのだ」

「ん?」

「我輩は、魔法が使えんと言ったのだ」

「!?」

まさかの告白に、一同はゲイバラーを凝視する。

「生まれもっての『アンチ魔法体質』である我輩は、一切の魔法が通じぬ代わりに、自身も魔法を使う事はできぬ」

若い頃は苦労したぞと、懐かしむように少し涙ぐむ魔王の姿に、誰とはなくあり得ない……と言葉を漏らした。

人間という生物よりも、遥かに魔法に長けているからこその魔王であるはずなのに、その前提が覆された存在を前にすれば、そんな呟きも漏れ落ちるだろう。


「……ひょっとして、斬撃が通じないのも体質なのですか?」

「これは鍛え上げた肉体の賜物である!」

呆れたようなマールの問いに、ボディビルダーのように決めポーズを取りながら、堂々とゲイバラーは答える。

「そう、鍛えに鍛え、力のみによって我輩は魔王の座に着いたのだ!」

力一辺倒(そっち)で魔王になる方が難しいじゃねーか!と、全員が心の中でツッコまずにはいられない。

「隙あり!」

一瞬、頭が白くなって棒立ちになっていたユウゴに向かって、ゲイバラーが襲いかかる!

「しまっ……」

咄嗟にガードはしたものの、そのまま吹き飛ばされたユウゴは壁際まで吹き飛ばされてしまった!


「ユウゴ(様)!」

フェルリアとエリエスが青くなって叫ぶ。

「ぐっ……」

辛うじて上体を起こすユウゴだったが、大型トラックに激突されたと錯覚するほどの衝撃とダメージに、すぐに動く事ができなかった。

「そのまま、おとなしくしているがいい」

ゲイバラーは穏やかに言葉をかけながら、ヒサメ達を一瞥する。

「あやつらを始末した後に、たっぷりと可愛がってやろう」

ベロリと唇を舐めるその動作と欲情したような視線に、本能的な危険を感じたユウゴの肉体は、意思とは無関係に即座に立ち上がる!


しかし、立ち上がりはしたが、反撃の手立てはありはしない。

仲間達もそれを感じているのか、表情にはどことなく悲壮感が漂っていた。

「あー、くそっ……このままじゃ無理だな……」

自分の一撃を受けながらも、立ち上がったユウゴに驚きはしたが、その呟き聞いたゲイバラーがニヤリと笑う。

「ふむ……お前がおとなしく我輩の軍門に降るのなら、女達は見逃してやっても……」

「そうじゃねえよ」

魔王の言葉を遮って、ユウゴの低い声が響いた。

人間形態(このまま)じゃ無理だから、本気を出す(・・・・・)と言ってるんだ」

「なに……?」

何を言っているのか解らないといった風のゲイバラーの前で、ユウゴはハンドアクスを鞘に納め、上半身の鎧を脱いでいく。

「なんだ、素直に我輩に抱かれる気になったの……」

「断じて違う!」

再び魔王の言葉を遮って断言する!

それと同時に、なんだか湿った熱のこもる視線を向けてきていたフェルリアとエリエスに、無言でアイコンタクトを送って(なんか怖いぞ、お前ら)と、注意しておいた。


「ふうぅぅ……」

地の底から沸き上がるような深い呼吸。そして、ユウゴの身に変化が現れた。

「ぬぅ……」

「えっ……?」

ゲイバラーとエリエスの驚く声が重なる。それほど、ユウゴに現れた変化は大きかった。

彼の筋肉が盛り上がり、体躯が二回りほど巨大になっていく。

さらに顔つきは獣じみていって、側頭部からは光沢のある角が伸びていった。

「ごふぅ……」

野獣めいた吐息を漏らしたユウゴの姿は、今や完全に魔物のそれと成り果てている。

それを驚愕の瞳で見つめながら、魔王は呟きを漏らした。

「ミノタウロス……まさか、人間に化ける者がいるとはな……」

さすがに驚くゲイバラーであったが、それ以上にエリエスは言葉を失い、顔面蒼白となっている。

「そ……んな……ユウ……ゴ様が……」

「私達を……騙していたのですかっ!?」

今にも泣き崩れそうなエリエスと怒りを顕にするリネッサ。

だが、そんな二人に対して、ユウゴのチームメイトであるヒサメが言葉をかけた。


「ユウゴがあの姿になった以上、語らねばならないね……彼の出生と過去について」

「ユウゴ……様の過去?」

訳知り顔なヒサメに、皆の注目が集まる。

そうして彼女は語り始めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ユウゴの母親はかつて一流の戦士だった。が、ある時、不覚を取って魔物に汚されてしまい、腹に子を宿してしまった。

普通ならば、育つ前に堕胎してしまう所だったが、彼女はその子を産み落とし育て上げる事を決意する。

そうして産まれたのが、ユウゴだった。

彼は、幼少の頃から普段は人間と変わらなかったが、感情が昂ると呪われた血が目覚めて魔物の姿になってしまっていたらしい。

そのせいで住む場所を逐われ、各地を転々としているうちに母親は病に倒れてしまった。

魔物の血に負けぬよう、ユウゴを鍛え、育んだ母の最後の言葉……。


「あなたの力は、正しく使えば苦難に涙する人を救える力よ……。どうか、弱き人々を守るために立ち上がれる、優しく強い男に育ってね……」


彼の母はそう言い残して、この世を去った。

彼女の言葉を胸に抱き、ユウゴは己の力を完全に使いこなす為に修行を重ね、魔物の脅威に晒される者達を人知れず守っていた。

やがて私達と出逢い、より多くの人を救う為に【ギルド】の門を叩いて、今に至ったという訳さ……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヒサメの話を聞き終え、この場にわずかな沈黙が訪れた。

だが無論、この話はウソである!

以前、もしも正体がバレたら適当な作り話で誤魔化そうと計画していた通り、「魔物の力を身に付けた正義のヒーロー」的な話をでっち上げただけの事だ。


しかし、そんな妖怪達の口裏合わせを知らないエリエス達は、そんな話を真に受けてボロボロと涙を流していた。

「ユウゴ様……なんと気高い志をお持ちになって……」

「私は……ユウゴさんを誤解していました……。それほどの苦難を乗り越えて来た方だったなんて……」

「ユウゴ! ワシを助けてくれた、オヌシこそが真のヒーローじゃ!」

一緒になって泣いているが、フェルリア(あんた)は裏事情を知ってるでしょうが! ……そうツッコミたいのをなんとか堪え、ヒサメはコホンと一つ咳払いをする。

「さあ、ユウゴ! こちらの守りは気にせずに、ゲイバラーとの戦いに集中したまえ!」

そんなヒサメの声に応え、ユウゴは親指をビッと立てて見せた。


「ふふん……なかなか面白い話であったぞ……」

ユウゴの生い立ち(嘘)を聞いて、グスッとゲイバラーは鼻を鳴らす。

「だが、安心するがいい! 今日からは、我輩がお前をたっぷりと愛してやろう!」

意外に涙脆い魔王の一面を見て、少しだけ和んだユウゴだったが、両腕を広げて迫ってくるゲイバラーに、凄まじい嫌悪感を覚える。

ハグというには、いささか強烈すぎる抱き締めがユウゴを捕らえようとした瞬間、彼の拳がゲイバラーの顎を打ち抜いた!


「っ!!」

グラリと視界が揺れ、そのまま魔王は地面に片ヒザを着く。

何をされたのかわからず、混乱するゲイバラーを見下ろしながら、牛鬼(ユウゴ)は不敵に言い放なった。

「立てよ、ゲイバラー。お前の知らない、未知の格闘技(たたかいかた)を教えてやるぜ」

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