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31 ユウゴの秘策

「ほぅ……」

怪光線による爆発が収まり、巻き上がった土煙が晴れたところで、ガマツは感心するような呟きを漏らした。

間一髪の所で防御することに成功したらしい、光の障壁に守られた侵入者どもの無事な姿を確認したからだ。


「さすがリネッサね。助かったわ」

「いいえ、エリエスお姉さまの声があったお陰で、防御が間に合いました……」

慕っているエリエスに誉められて、嬉しそうにリネッサは笑う。

「いや、本当に助かったぜ」

「ちっ……」

エリエスに続いてユウゴも称賛するが、小さく舌打ちを返されてしまった。

露骨な態度の違いにユウゴがしょんぼりしていると、敵陣から浮かれた声が届いてくる。


「見たか、我ら三鬼人の恐ろしさを!貴様らもここまでだ!」

「おい……」

いつの間にか敵側にいて高笑いするリャーマの姿に、ユウゴ達ばかりでなくガマツからも呆れたような声が出ていた。

「お前、それはちょっとどうなんだ?」

「敵を騙すには味方からと言うだろう? 仮にも三鬼人の一人である俺が、本気で降伏する訳がないだろうが」

「いや、だがマハドーリの件は……」

「あれは奴が馬鹿だっただけだ!得意の不意打ちを最初にしておけば、連携して奴等の寝首を掻いてやるつもりだったんだよぉ!」

悔しそうな身ぶりを混じえてリャーマは言い放つが、ガマツの顔には不信感がありありと浮かんでいる。

「……まぁ、いい。どちらにせよ、後でゲイバラー様からのお仕置きがあるのは覚悟しておけよ」

「……うん」

一転してテンションが下がったリャーマを尻目に、ガマツは再びユウゴ達に向き直した。


「……少し予想外の事はあったが、戦いを再開しようか」

「ええ、望むところで……」

剣を構えたエリエスが、踏み出そうとする。と、その肩をユウゴが掴んだ。

「エリエス達は下がっててくれ。ここは俺達がやる」

「!? で、ですが……」

戸惑うエリエスだったが、それを諭すようにユウゴは言葉を続ける。

「『神人類(あんたら)』は対魔王戦での切り札だからな、ここは力を温存しておいてくれ」

頼りにしてるぜとユウゴが背中をポンと叩くと、パァッと顔を輝かせたエリエスは頷きながら後方へと下がっていった。

「よーし! チーム『氷刃』、お仕事するぞー!」

ユウゴの掛け声に応え、メンバー達は前に進み出てガマツ達と対峙する。

それを見た三鬼人のリーダーは、ふんと鼻を鳴らした。


「俺を相手に戦力の温存とは……なめられた物だな」

不愉快きわまりないといった態度のガマツを前にしながら、ユウゴは隣に立つフェルリアに何事かを耳打ちをしていた。

「……という事で、頼んだぞ」

「う、うむ……」

耳元で囁かれたせいか、少し頬を染めながらも、ユウゴの指示にフェルリアは頷く。


「よっしゃ! 行くぞ!」

叫ぶと同時に、ユウゴはガマツに向かって走り出した。

それを迎え撃とうと、ガマツは再び怪光線を発射しようと構えをとる。

しかし、ユウゴを援護するため、すでに詠唱を完成させていたヒサメの魔法が、ガマツに向けて放たれた!


天雹の礫(パード・バレット)


指向性対人地雷(クレイモア)を思わせる氷塊の散弾がガマツを襲い、その動きを阻害する。

「ちぃっ!」

ダメージ自体はそれほどでも無かったが、必殺の怪光線を放つための魔力の集中を乱されてしまった。

舌打ちをしながらも、ガマツは迫ってくるユウゴの姿をその視界内に捉えている。

そんなユウゴに更なる援護を加えるためか、今度はフェルリアが炎と水(・・・)の矢をガマツの一つ目に向かって撃ち放った。

(!? 何をやって……)

狙われたガマツの方が困惑する組み合わせの攻撃。

彼の予想通り、フェルリアの撃ち出した魔力の矢は空中で相殺しあって消滅してしまう。

だが、それは同時に周辺を一気に包んでしまうほどの、濃密な靄を生みだした!


「目眩ましか!」

ガマツの視界を奪う事で怪光線の狙いを定めさせない、あるいは無駄撃ちをさせるのが目的か。

(いや、まてよ……そういえばこいつらが上陸してきた際の戦闘で……)

ニヤリとサイクロプスの口元に笑みが浮かぶ。

「ゴブリンどもを始末した時と同じ手か!」

この靄を利用し、氷雪魔法の威力を上げるという手法。それでガマツを行動不能にするか、一気に体温を奪って凍死させるつもりなのだろう。

「馬鹿め! この島に貴様らが来てから見ていたと言っただろうが! 俺をゴブリンごときと同じ手で殺れると思ったか!」

トロール程ではないが、サイクロプスという種族もかなり強靭な肉体と再生能力を持っている。

リャーマ配下のオーガも倒せない手段では、ガマツにわずかなダメージしか与えられない事は明白だ。


「残念ながら、どっちもハズレだ」

「!?」

いつの間にかガマツの近くまで間合いを詰めてきたらしいユウゴが、霧の向こうから話しかけてくる。

「これは目眩ましでも、氷雪魔法の威力を上げるためでもねぇ……お前の怪光線を封じるための物だ!」

「はぁ?標的が見えなくても……」

「そうじゃない!」

ガマツの言葉を遮って、ユウゴがピシャリと断言した。

「お前の知らない世界には、科学という物があってな。光線というものは、こういった濃密な蒸気が溢れている条件下では、威力や推力が大幅に減退する物なのさ!」

聞き慣れない言葉に、訳のわからない理屈を口にするユウゴに、ガマツは我知らず怪訝な表情を浮かべる。


「ほらほら、どうした! ご自慢の必殺ビームを撃ってみやがれ!」

霧で姿は見えず、声しか聞こえないのだが、その口調からして挑発しているのはわかった。

だからこそ、三鬼人のリーダーは、その名に相応しく正面から受けて立つ!

「よかろう、受けてみるがいい!」

渾身の魔力を込めて、ガマツは必殺の一撃を放った!


『サァイクロップスゥ・ビイィィムウゥッ!』


一つ目鬼の目から発射されたその怪光線は……まったく威力を損なう(・・・・・・・・・・)事なく(・・・)ユウゴに向かっていく(・・・・・・・・・・)


「うおおっ!」

靄を貫いた光線は、どうやらユウゴを掠めただけだったようだ。

しかし、先程まで自信満々に語っていた彼の、明らかに動揺した声が響いてくる。

「あ、危ねぇ! ってか、なんで減退しないんだよ!?」

戸惑っているユウゴに、別の方向からヒサメの責めるような声が投げかれられた。

「バカッ!科学的な光線と違って、ガマツのアレは魔力の塊なんだから、上手くいくわけがないじゃないか!」

「マジか!?」

よくわからないが、ユウゴの策は失敗したようだ。

人間ごときの小細工など、元から効きはしなかっただろうが、不様を晒す相手の様子に笑いが込み上げてくる。

「フハハッ、フハッ! ば、馬鹿な奴め! 所詮、人間が何を企もうと、この俺には通じんのだ!」

ガマツは大いに笑う。だが、笑いすぎたのだろうか、ゴホゴホと咳き込んで口元を抑えた。

「?」

その時、なにかヌルリとした感触を覚えて、ガマツは己の手を覗く。

「なっ……血!?」

口中と手のひらに広がる血の感触に、思わず叫んでしまった。


「おお、ようやく効いてきたか。やっぱり、人間とは摂取量に違いが出るな……」

深い霧の向こうから、影が近づいてくる。

死神を思わせるその影は、ユウゴの形となってガマツの眼前まで平然と歩いてきた。

「こ、これは貴様の仕業か……」

いつの間にか呼吸が覚束(おぼつか)なくなり、ガクリと膝から落ちたガマツが、驚きと憎しみの籠った視線を向けてくる。

「まぁな」

反撃を警戒した様子が無いことから肯定の返事がくることは予想していた。が、それでもわからない事が一つだけある。


「俺に……何をした……」

「ああ、ちょっと毒を盛らせてもらった」

「ど、毒だと!? 」

あまりにもあっさりとした返答に、またも驚きの声を上げるガマツ。

「どこからそんな物が……」

「どこからって、ここからだよ」

そう言いながら、ユウゴは自分の口元を指差す。

ガマツがその指先を凝視すると、彼の口元からは紫色の気体が、僅かながら漏れだしていた。

「俺が精製する毒は無味無臭だし、指向性も持たせられるんだけど、色だけがどうしてもな。だから、こっそり盛れるように、霧で視界を奪ってたって訳だ」

「なん……だと……。では、先程から貴様が言っていた訳のわからん理屈は、ただの時間稼ぎだったと言うのか……」

「あ、いや……マンガとかで見たことあるから、検証してみたかったってのはあるけど……」

ガマツがポロリと漏らした疑問に、何となく歯切れ悪くユウゴは呟いた。


「ぐっ、くそ……。だが、毒を……精製? そ、そんな真似ができる人間が、いるというのか……」

人間の中にも、毒を専門に扱う連中がいるというのは知っていた。しかし、自らの体内でそんな事ができる奴がいるなど、聞いたこともない。

「いやぁ、お陰でいい実験ができたよ。ありがとな」

ブツブツ言っていた顔をこちらに向け、にこやかに礼を言う(・・・・・・・・・)ユウゴに、ガマツは血へどを吐きながらも、拳を握りしめた。

「実験……実験だと!? この三鬼人のリーダーであり……魔王様からの信頼を受けた……『偉大なる(オーバー・)一つ目鬼(サイクロプス)』である俺を……人間風情が、実験に使っただけだというのかぁ……」

地を這い、起き上がることすらできなくなったガマツは、悔し涙を滲ませながら、怨嗟の声をユウゴにぶつける。

「まぁ、そういう事だ。お礼と言っちゃなんだが、きっちりトドメは刺してやるから、安心してくれ」

朦朧としてきたガマツの目に、ハンドアクスを振り上げるユウゴの姿が写る。

それが、魔王の幹部である三鬼人のリーダーが最後に見た光景であった。


────ユウゴとガマツが戦っている間、霧を絶やさないように調整するのがフェルリアの役目だった。

彼に指示された通り、蒸気の霧が散ってしまわないよう風の精霊で結界を作り、時々炎と水をぶつけて霧を追加する。

下がっているよう言われたエリエス達は元より、ヒサメとマールも初弾の魔法以外は、何かよくわからないツッコミを入れたきり決着が着くのをぼんやりと待っている状態だ。

先程はユウゴの目論見が上手くいかなかったらしく、ガマツの怪光線が一度霧の中から飛び出して来た。

それっきり、攻防らしき音は聞こえて来てはいない。

ほんの少しだけ、フェルリアが心配になってきた頃、「もういいぞ」とユウゴが声をかけて来るのが聞こえた。

風の結界を解除すると、文字通り蒸気は霧散し、そこから現れたのはサイクロプスの首を手に下げたユウゴの姿だった。


「ユウ……」

「ユウゴ様ぁ!」

駆け寄ろうとしたフェルリアを追い越し、疾風のごとき勢いでエリエスがユウゴに抱きつこうとする!

その迫力に、思わずユウゴが身をかわしたのと、リネッサによってとり押さえられた為に抱きつく事は成功しなかったが、それでもエリエスは称賛の嵐をユウゴに送った。

「さすがです、ユウゴ様! あのサイクロプスをお一人で仕止めてしまうなんて!!」

「お、おう。まぁ、フェルリアがサポートしてくれたお陰ではあるけどな」

「そ、それほどでもないがの……」

言葉とは裏腹に、ユウゴに誉められてはにかむフェルリアを、エリエスはムッとした表情で見る。

すると……。


「いやぁ、お見事でしたね旦那ぁ!」

今まで何処にいたのか、さらに卑屈な態度を示し、リャーマが揉み手をしながら姿を現した。

「ああ、いいところに来た。裏切ったら殺すって言ったよな?」

友好的な笑顔から、無感情な処刑人の顔に変わったユウゴがハンドアクスをリャーマに向ける。

「お、落ち着いてくださいよ、旦那! 俺を殺したら後悔しますよ!」

命乞いの嘘……という風でもないリャーマの態度に、ユウゴはどういう事だと問い詰めた。

「へへっ、ゲイバラーの城の中には、三鬼人のいずれかが承認しないと発動する罠や、開かない扉なんかがあるんですよ」

「……本当か?」

「ええ!神に誓って本当です!」

魔族が神に誓っても信頼できた物ではないが、リャーマの話が本当ならば確かに殺す訳にはいかない。


「……しょうがない。さっさと案内しろ」

「へいっ! こっちでさぁ!」

先頭に立って案内を開始するリャーマの背中を見ながら、全員が胡散臭さを感じている。

また後で裏切るなとユウゴ達は確信しており、だからリャーマに気付かれないように、

(ゲイバラーの元まで行けたら、こいつぶっ殺そう……)

そう画策するのだった。

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