表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/81

03 希望への脱出

とにもかくにも、こんな狂人達(やつら)とつるんでいて自分も神に目をつけられては堪らない。

ここは一つ、従順な振りをしてさっさと距離を置くのが賢明だろう。

そう考えたユウゴは、とりあえずロリ魔王への確認をする。

「要するにあれだ、俺はその『神人類』を倒して、お前らが有利な状況を作れば、元の世界に帰れるんだな?」

「おお、ようやくやる気になったか!」

前向きな問いに、魔王や魔族達は自分達の崇高な思想が伝わったと喜びを顕にする。

馬鹿言ってんじゃねーよと思いつつも言葉には出さずに、ユウゴは乾いた愛想笑いで返した。


この変人窟を抜け出すべく、ユウゴは立ち上がると魔王に声をかけた。

「んじゃ、早速出掛けるよ。その前に、地図と旅費と食料と……あと、なんか適当な武器をくれ」

未知の世界を旅する事になるのだから、彼は当たり前の要求をする。が、ロリ魔王と魔族達は顔を見合わせた。

(おい、まさか……)

この程度の要求も飲めぬほど、こいつらは切羽しているのだろうか?

「い、いや地図だのはなんだのは些少ながら用意しておる。しかし、お主ほどの者が扱う武器となると……」

ユウゴはホッと息をついた。

まぁ、武器なんて優先順位で言えば一番下だ。

なんなら、先程のしたミノタウロスが使っている武器でもかまわない。

そう告げると、魔族の一人が気絶しているミノタウロスから取ってきた物を、ユウゴに差し出した。

「……なん……だこれ?」

思わず言葉につまる。

ミノタウロスなんて奴が使うのだから、その武器はファンタジー風なバトルアクスか何かだと想像していた。

しかし、差し出されたのはキラキラした装飾がなされた、小振りの小杖(ワンド)だったのだ。

まるで女児向けのアニメにでも出てきそうなデザインのその武器が予想外すぎて、ユウゴは完全に真顔になってしまう。


「……ひょっとして、あのミノタウロスって外見とは裏腹に魔法使い系なのか?」

百歩譲ってそうだとしたら、こんなファンシーな武器を使っていることも納得出来なくはない。

しかし、それを差し出した魔族は首を横に振った。

「あいつ……ミノタウロスのモンタの夢は、魔法少女になることでした」

いきなり語られたミノタウロスの意外な夢に、ユウゴの表情は固まる。

「いつか可愛い魔法少女となって、魔王様とユニットを組むために、先ずは形から……とこの武器を使い日々、特訓に励んでいたのです!」

「ああ、あいつはスゲェ努力してたよ!」

「俺、一緒にコスチュームのデザイン考えてたんだぜ!」

口々にミノタウロスの夢と情熱、そしてそれにかける努力を魔族達は称えた。


「……そうか」

現代日本でも、様々な夢は語られる。それがどんな荒唐無稽な物でも、本人とっては大切な目標であり、進む道となりうるのだ。

だからユウゴは、目の前の魔族達を笑ったりはしなかった。

ただ、心底気持ち悪いと思うだけだ。


(本気で冗談じゃねぇぞ、こいつら)

もう武器とか悠長な事は言っていられない。今は一刻も早く逃げ出さねば。

「あー、じゃあ武器はいいや。俺、もう行くな?」

「待たれよ、ユウゴ殿! その格好では目立ち過ぎるぞ」

そそくさと出ていこうとするユウゴに、ロリ魔王が声をかける。

確かに一見すれば牛鬼(ユウゴ)は小柄なミノタウロスにしか見えないし、人間界では目立つ的だろう。

「ああ、それなら問題はない」

そう答えると同時に、ユウゴの姿が黒い霧に覆われる。

その霧が晴れると、そこには見知らぬ人間の男が立っていた。

ハンサムとまではいかないが、そこそこ整った顔立ちの三十代半ばぐらいの人間の姿に、魔族達は驚きの声をあげる。

しかし、ユウゴのような上位妖怪にとっては、人間に化けるなど造作もない。むしろ人間に混じって生きる妖怪(かれら)にとっては必修スキルだ。


「これなら大丈夫だろう?」

驚きのあまり、言葉も無く魔王をはじめとした魔族達は無言で頷く。

当たり前の技能とはいえ、ここまで驚いてもらえると正直気持ちのいいものだ。

「つ、つかぬことを聞くが、人間に化けるにはその姿にしかなれぬのかな?」

ロリ魔王の問いかけに、そんな事はないとユウゴは答え、再びその姿が黒い霧に覆われる。

そうして霧が晴れると、今度は女の子と見間違うような愛らしい美少年がそこに立っていた。

あまりに良いリアクションを魔族達がくれたものだから、ついサービス精神を出した変化である。

が、それがいけなかった。


変化を終えたユウゴが魔族達の方に振り返った時、彼の目に写ったのは……土下座するようにひれ伏す連中の姿だった。

「お、おい! なんの真似だ、お前ら!?」

戸惑うユウゴに、一人の魔族が神妙な顔つきで頭を上げる。

「まちがいありません! 美少年(あなた)こそ我々の救世主に違いないと確信いたしました!」

(外見だけで態度変わりすぎだろう!)

見れば、いつの間にか気絶していたはずのミノタウロスまで土下座に参加している。

「お、おい魔王! こいつらをなんとか……」

居心地の悪さにロリ魔王に助けを求めるが、その頼みの綱の魔王は頬を赤らめ何やらモジモジしていた。

「お、お主が余と交際したいというなら、付き合ってあげるのもやぶさかではないぞ……」

「誰がそんな事を頼んだ!」

見当違いな助け船を出そうとする魔王にユウゴは怒鳴り付ける!


「び、美少女と美少年のカップルだと……」

「ゴールデンコンビ過ぎる……」

「尊いよぉ……」

明らかにヤバイ気配がこの場を支配していく。

そんな時、一人の魔族がポツリと漏らした。

「っていうか、別の救世主をもう一回呼んで、ユウゴ殿はその姿のまま魔族(おれたち)を元気付けるというのはどうだろう?」

「ばっ……」

「「ビックアイデア!」」

馬鹿なことを言うなとユウゴが怒声を放つよりも先に、複数の賛同の声が響き渡る!

もはや猶予は無し!

そう判断したユウゴは、取るものも取らず魔族達の間をすり抜け駆け出した!


「野郎、逃げやがった!」

「逃がすな! 絶対捕まえろ!」

「ひゃっはー! ぺろぺろしてやるぜー!」

走るユウゴを追ってくる魔族達!

「なんで、俺が追われる立場になってんだよ!」

我が身に降りかかる理不尽な境遇に、さすがの大妖怪も嘆きの声を漏らさずにはいられなかった……。


とっくに美少年の姿は止めて、慣れ親しんだおっさんの姿にもどっているのに、追撃の手が弱まることはない。

その後も、迫る魔族達(へんたいども)をかわしながら、ユウゴは城の窓を蹴破り、屋外への脱出を果す。

背後に突き刺さる恐ろしい気配を振り切るべく、彼は三日三晩走り続け、やがてたどり着いた海へ飛び込むと、さらに丸一日泳ぎ続ける!

そうして魔族の島を抜け、たどり着いたどこかの浜辺で、ようやくユウゴは一息つく事ができた。


「ハァ、ハァ……」

肩で息をしながらも、ユウゴは己の肉体に違和感を感じる。

(おかしい……こんだけ休みなく動いたのに、この程度の疲労感ってのはどういう事だ?)

確かに疲れは感じている。しかし、まったく動けない程ではない。

元の世界にいた頃だったら、こんな運動量の後は疲労で身動きできなくなっていただろう。

「どうなってんだ、俺の体は……」

ポツリとユウゴは呟く。と、その背後から、突然声をかける者がいた。

「おやおや、こんな所に珍しいね」

背後からの声に慌てて振り向いたユウゴは、思わず息を飲む。


そこには怪しい格好をした絶世の美女が佇んでいた。

上から下まで黒一色で、つばの広い帽子に、体を全部覆い隠すローブを纏っている。その姿は、おとぎ話の魔女その物だ。

しかし、それを纏っている女の顔は美しく、長い黒髪は邪魔にならぬようにまとめられて、前髪も切り揃えられいる。

眼鏡の奥の少し切れ長な瞳は高い知性を宿すように輝き、真っ直ぐにユウゴを見つめていた。

何よりユウゴが注目したのは、ゆったりとしたローブを纏っているにも係わらず、その存在感を誇る胸の双丘!

男の本能とはいえ、問答無用で視線が引き付けられる圧倒的な戦力に、ユウゴはゴクリと息を飲んだ。


「誰だ、あんたは?」

「ふっふっふっ……誰だ、か」

警戒しながら問いかけるユウゴに、何やら女は含み笑いをしてみせる。

「相手に名を尋ねるなら、先ずは自分が名乗るのが礼儀ではないのかな?」

その物言いに、ユウゴは少しカチンときた。

楽しげな口調ではあるが、ようは先に彼に名乗らせて自分のペースに巻き込み、話の主導権を握ろうという魂胆であろう。

こんな何処だかもわからない場所で、初対面の相手に言いくるめられるのは面白くない。


「礼儀……な。しかし、先に声をかけてきた方が名乗るのは常識じゃないのか?」

「おお、それもそうだね!」

「っ!?」

反撃のつもりだったが、あっさりと肯定されてしまい、何だか肩透かしを食らった気分だ。

「いやいや、気を悪くしたなら申し訳ない。さっきの『名を尋ねるなら~』は、私の『いっぺんそのシチュエーションで使ってみたいセリフランキング』の七位だったので、ついね」

クスクス笑いながら女が言う。

なるほど、格好といい物言いといい、なんと言うか普通の人間とはどこか毛色がちがうようだ。

ちょっと呆れているユウゴを前に、女は一つ咳払いをするとその鐔の広い帽子をとってペコリと会釈する。

「私の名はヒサメという。種族は『雪女』。よろしく、同郷の妖怪(ひと)よ」

「なっ」

女の言葉を聞いて思わず絶句したユウゴに、ヒサメと名乗った女は、なんとも魅力的な笑みを浮かべながらウィンクをしてみせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ