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29 上陸、魔王の島

死ぬかもしれないね……彼女達。

ヒサメの呟きが、ユウゴの頭の中で繰り返される。

(いや、死なれちゃ困るから、俺達が頑張らなきゃならんのだがな……)

これから先の事を考えれば、エリエスとリネッサを戦死させる訳にはいかない。

だからこそ、しっかりと皆の統率を取らなければならないのだ。ならないのだが……。


「……という感じで、ユウゴ様と私のコンビネーションを極めて前衛を勤めよう思うのですが」

「だから前に出ることばかり考えるでないわ!適度な距離感によるフォローというものが、戦士には必要なんじゃ!」

「あら、最近の女はどんどん前に攻めていくものですよ」

「いいや! でしゃばらずに背を守り、気分をのらせて十分に実力を出させてやるのが良い女というものじゃ」

「あらあら、高齢なエルフらしい古風な考え方ですこと!」

「ハハハ、こやつめ……ったおすぞ!」


最北端の町を目指すため、【騎士団】が用意した馬車で移動していたユウゴ達だったが、彼を挟むようにして座るエリエスとフェルリアのやり取りに、いい加減うんざりしていた。

好意を向けてくれるのは、正直うれしいものだ。だが、それでチームワークが乱れては困るし、長い時間張り合われているのもひたすらしんどい。

助けを求めて対面に座るヒサメ達に視線を送るが、リネッサからは睨み返され、思わせ振りな事を言っていたヒサメは、マールとの氷雪魔法談義に夢中のようだ。

(味方がいない……)

女所帯の中に男が一人となった時の辛さを軽く味わいつつ、今後の予定を確認するため、ユウゴはリネッサに話しかけた。


「……最北端の町に向かう道中で、休憩と宿泊のためにいくつか村や町を経由します。その時に各【教会】の支部で魔王に関する情報を受けとる予定です」

素っ気なくはあるが、必要事項はしっかりとユウゴに伝えるとリネッサは答えた。

国を越えてどこの町や村にも【教会】の支部は設置されており、人々の心の拠り所となるべく日々の活動を行っている。

宗教関連の組織であり、独自の相互協力に基づく強いネットワークを持つ【教会】は、政治に一切関わらない事を条件に、国から干渉されにくいという、一種の独立性を保っていた。

それは、リネッサのような王族の者であろうと、【教会】に所属した時点で様々な特権が失われるほどに徹底されている。

それゆえに、本来なら【騎士団】や【ギルド】が関わるような案件には積極的に介入する事はない。が、今回は【教会】の権威回復のために大司祭の一人であるリネッサが前線に出ている事。

ならびに、魔王討伐という人類全体の利益に繋がる内容である事が認められ、その情報網を利用することが許されていたのだった。


(政教分離がある程度できてるのはたいしたもんだよな……)

神が実在するこの世界で、それが出来るのは生半可な事ではあるまい。

人間のやることであり、国という枠組みがある以上は、完全に(まつりごと)と切り離す事はできないだろうが、それでも政治に関わらないと公言している所から、【教会】に所属する聖職者達の決意が見えてくるようだ。

そして王族でありながら、しがらみを全て絶ち切ってそんな組織に身を置くリネッサに、ユウゴはそれなりの尊敬の念を抱いていた。残念ながら、エリエス関係で一方的に嫌われてはいるが。

「ちょっとはリネッサの落ち着きを見習ってほしいもんだな……」

いまだに火花を散らす、エリエスとフェルリアの様子に、ユウゴは小さく言葉を漏らすのだった。


王都を出てから四日目の昼下がりに、ユウゴ達は目的地となる大陸最北端の町へと到着した。

今日はこの町に一泊し、明日の朝に魔王の居城へと乗り込む算段だ。

【教会】の支部に出向くというリネッサと一旦別れ、ユウゴ達も手分けして魔王とその配下について情報収集をすることにしている。

そうやって、適当に聞き込みなどをしながら夕方には宿に戻り、全員で集めてきた情報のやり取りなどを行った。


その結果、判明したことが三つある。

一つ目は、魔王の軍勢は逃げる者を追ってこないという事。

二つ目は、女子供は見逃される事が多いという事。

そして三つ目が、戦いを挑むために魔王の島に渡って、帰ってきた者はいないという事だった。


「……三番目の話はともかく、逃げる者や女子供は襲わないというのはなんだろうね」

「魔族が人間相手に慈悲を見せる必要などありませんものね……」

「ひょっとしたら、自分に立ち向かってくる、男だけを標的にしてるのかもな」

確証が無いために、ボソッと思い付きを口にしただけのユウゴだったが、彼の発言には耳ざといフェルリアとエリエスが食いついてくる。

「ユウゴ様、なにか心当たりでもあるのですか?」

「い、いや、そういう訳じゃないんだが……」

例えばの話だが……と前置きして、ユウゴは思い付いた仮説を語った。

「……魔王(じぶん)に挑んでくるような、気骨のある戦士を集めているとしたらどうだろう?」

「それは自分の配下にするため……ということかのぅ?」

「それだけじゃなく……部下の咬ませ犬にする、遊び道具、食料にする……」

考えられる可能性を上げていきながら、ユウゴはハッとする。

人間代表みたいなエリエス達かユウゴの仮説を聞いた時、どのような反応を示すか考えていなかったからだ。

激昂するだろうか?

それとも、他人事のように可能性を告げるユウゴに失望するだろうか?

あまり感情的になられて先走られたり、チームワークに乱れが生じるといけないと思ったユウゴは、そっとエリエス達の様子を伺う。

すると、その視線に気付いたエリエスが、冷静な声でユウゴに問いかけてきた。


「今のユウゴ様の仮説には、なるほどと思う所があります。では、なぜ女子供は見逃すのでしょう?」

「そ、そうだな……揉め事の種になりやすいから……とか?」

男女に限らず、大多数の中に少数の異姓がいれば、内輪揉めの火種になりやすい。

それでなくても我欲の強い魔族においては、その危険性は人間の比ではないだろう。

「まぁ、実際のところ私達の中にも、それに近い危険性はあるからね」

ニッと笑みを浮かべ、皮肉るような物言いで、ヒサメがフェルリアとエリエスに目を向ける。

「いいえ、その心配はありません!」

「その通りじゃ!」

にこやかに(目は笑っていないが)微笑みながら、二人は渾身の力を込めて握手を交わす。

ミシ……ミシッ……と、握り合う手から骨と空気の軋む音を立てつつ仲良しをアピールされて、ヒサメはマールと顔を見合わせて肩を竦めた。


「ともかく、魔王の島に行ってみなければ真相はわかりません。【教会】経由で島に渡る船を用意してありますので、今夜は各自で英気を養い、しっかり休んでくださいね」

リネッサの締めで打ち合わせは終わり、それぞれが宿に取ってある自分の部屋に戻っていく。

部屋に戻ってベッドに寝転んだユウゴは、ぼんやりと天井を眺めながら、先程は口にしなかったがふと浮かんだ考えについて考察する。

(もしも……挑んでくる男だけを引き込む訳でなく、配下の魔族も男だけで形成されていたら……)

ユウゴの脳裏に「神聖隊(ヒエロス・ロコス)」という言葉が浮かぶ。

元の世界にいた時に、たまたま本で読んだ事があるだけだが、イカれているけど一理あり、さらにそれなりの結果を出しているその部隊編成になんとも言えない感想を覚えた物だ。

(まー、そこまではっちゃけた代物はそうそう出てはこないだろうが……)

おそらく杞憂である考えを排除し、明日の魔王との戦いに備えて目を閉じた。


翌朝。

天気はうす曇りであるものの、海は凪いでいて、まさに嵐の前の静けさといった風であった。

リネッサが手配してくれた、対大物用の武装漁船に乗って島の近くまで進み、手漕ぎボートに乗り換えて、ユウゴ達は島への上陸を果たす。

彼等が乗り付けた海岸から、島の内部に向けては鬱蒼とした原生林になっており、そこから島の様子を探る事すらできなくなっていた。

「さて、どう進んだものかな……」

ボートが流されないように固定して、ユウゴが困ったように皆に意見を求める。

すると、フェルリアがユウゴの服の裾をクイクイと引っ張った。

「どうやら、向こうからお出迎えしてくれるようじゃぞ」

優れた感覚を持つエルフの言葉に、仲間達は森の方に向かって警戒を強める。

すると、森の木々をかき分けて、ゾロゾロと姿を現す異形の影達が姿を見せた。

そいつらは二十匹ほどのゴブリンと、五匹ほどのオーガの群れである。

だが、その中に一際目立つ、とある個体がいた。

オーガのくせに、見事な全身鎧に身を包み、大剣を背にしたその個体は、ユウゴ達の姿を認めると、群れの先頭へ歩みでてくる。


警戒体勢を取るユウゴ達に対し、全身鎧のオーガは静かに口を開いた。

「何者……とは問わぬ。即刻、この島より立ち去れ」

流暢な人間の言語で告げた鎧のオーガは、今のところは敵意が無いことを示すために、腕組みをしたままユウゴ達の反応を待っている。

「残念ながら、そうは行きません。私達は、こちらの魔王を討伐するために訪れたのですから」

「ほぅ……」

エリエスの返答に、オーガの目が細められる。

一同を値踏みするように視線を動かすと、ふんと鼻を鳴らして組んでいた腕をだらりと垂らした。

「警告はした。これからは自由だ」

そのオーガの言葉に、彼の後ろに控えていた魔族達が歓喜の声をあげる。


「いいか、男だけは生け捕りにしろ!」

「そういうのは普通、逆なんじゃねえのか?」

事前の情報通り、確かに他のメンバーよりもユウゴに対する執着の方が強い気がする。

その根元がなんのか気になったユウゴは、あえて鎧のオーガに軽口をたたいた。

「ふっ……男は、ゲイバラー様に献上せねばならんからな」

「献上……?」

予想外の答えに、ユウゴが困惑した表情を浮かべると、鎧のオーガは再び鼻で笑った。

「そうだ! 貴様は今宵、ゲイバラー様の夜伽の相手を勤めるのだ!」

「!?」

鎧のオーガの一言に、ユウゴ達の脳はその言葉は重すぎると理解を拒み、全員の頭上に「!?」といった記号が浮かぶ。


「さぁ、戦士の男よ! 我が主である、ゲイバラー様に尻穴を捧げよ!」

「誰が捧げるか、ボケェ!!!!」

よりハッキリと言い放った鎧のオーガに、恐怖を含んだユウゴの絶叫が響く!

そしてそれが開戦の引き金となり、数に勝る魔族達が一斉に彼等へと襲いかかっていった!

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